ローストビーフをフライパンで 低温調理器使う手法も
表面は香ばしく、中は絶妙なしっとり感のローストビーフ。自作は時間がかかり、火加減も難しい印象があった。大型連休に向けて作り方をマスターしようと、複数の方法を試した。
訪れたのは料理教室ABCクッキングスタジオのコレド日本橋スタジオ(東京・中央)。定番のレシピを2つ習った。「下ごしらえや調理の時間を守れば、そう難しいメニューではない」と店舗統括責任者の洲口恵美さん。
驚いたのは、実はローストビーフはフライパンだけで作れるということ。失敗しない最初のコツは火を使う前にある。肉を30分以上冷蔵庫から出し、必ず常温に戻すこと。肉に火が通りやすくなり、表面だけ焦げてしまうという失敗がなくなる。
肉が常温になったら塩こしょうなどで下味を付け、一面ずつ中火で、全部で10分強焼く(肉200グラムの場合)。その後アルミホイルに包み、火を消したまだ温かいフライパンに入れ、蓋をして15分強置いておく。「ガスの五徳の上にフライパンを置くのに比べ、IH調理器は火を消すと温度が下がりやすいので、3~4分長めに余熱で火を通すのがポイント」と洲口さん。アルミホイルに残った肉汁としょうゆ、みりん、バター、赤ワインでソースを作り、スライスした肉にかければ完成だ。
肉を常温に戻す時間や余熱を通す時間はかかるが、作業工程は少ない。肉の切り口はピンク色で、柔らかさと弾力のバランスが良いローストビーフに仕上がった。たくさん作る場合は、ブロック肉を200~300グラムずつカットしてから調理すると失敗が少ないという。
炊飯器の保温機能を使う方法
フライパンは確かに簡単でおいしいが、調理家電などを使った別の作り方もあるようだ。レシピサイトでは炊飯器の保温機能を使う方法や、沸騰したお湯で湯煎する方法を紹介している。ただABCクッキングによると「炊飯器の保温機能は機種によって温度が違い、細かく調整することが難しい」。
その問題を解決したのが低温調理器だ。低温調理は真空調理とも言われ、フランス料理のテリーヌなどを作る技術として編み出された。肉や魚、野菜などの食材を保存袋に入れて真空状態にし、温度を一定に保って湯煎する調理法だ。肉や魚のたんぱく質の収縮や水分の流出を防ぎ、しっとりした食感になる。
低温調理器のひとつ「BONIQ(ボニーク)」は、コロナウイルス感染拡大によるステイホームが広まった昨年3~4月、販売数量が前年同期比で9割伸びた。販売元の葉山社中(神奈川県葉山町)の羽田和広社長は「健康や美容維持のため、たんぱく質が多い鶏ささみや胸肉をおいしく調理したい、というニーズでも注目されている」と話す。
低温調理器の利点は温度・時間管理を自動でできることだ。厚生労働省は加熱食肉製品の製造基準を「中心部が63℃で30分間加熱する方法またはこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌する」と定めている。
ボニークでは厚労省の基準をもとに、肉の種類や厚みごとに、殺菌効果を得るには何度で何分加熱する必要があるかを一覧表にしている。例えば厚み3センチメートルの牛肉を58度で調理する場合は2時間40分、同じ肉を65度で調理するときは1時間35分加熱するなどだ。
実際に低温調理器を使ってローストビーフを作ってみた。肉の厚みを測り、ジッパー付きの保存袋に入れる。空気を抜くように袋を閉じ、低温調理器を入れた鍋の中に袋を入れる。機器は設定した時間中、お湯の温度を保つ。時間が過ぎると音で知らせてくれる。肉の各面を中火で1分ずつ焼き付けたら完成。想像よりもずっと簡単だった。
58度と63度でローストビーフを作ってみた。食べ比べると58度はより柔らかくジューシーで、63度は適度な歯応えと肉っぽさが感じられた。
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加熱ムラによる食中毒に注意
低温調理は食材の魅力を引き出す調理法だが、自己流だと食中毒の危険がある。ネット上では加熱温度や時間を十分に示していないレシピが散見される。
食品衛生に詳しいロイドレジスタージャパン(横浜市)の今城敏取締役は「低温調理器を使う場合でも、加熱ムラには気をつけて」と注意を促す。耐熱性のないビニール袋を用いたり、食材の入ったビニール袋の一部が湯から出ることがないようにする。大量に食材を詰め込むのも避ける。
また、肉を低温調理する場合は「切り込みのないブロック状のかたまり肉を利用すること。調理後すぐに食べない場合は、氷水などで急速に冷却して、密封容器で冷蔵庫に保存して」と話す。(砂山絵理子)
[NIKKEIプラス1 2021年4月17日付]
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