しかし、青砥さんの説明によれば、脳は本来、新しいことやこれまでの自分とは異質なことには頑張るようにできていません。脳が勝手にストップをかけようとするわけです。つまり、「頑張れない自分はだめだ」と自分を責める必要はなく、むしろ三日坊主を精神論で乗り越えることこそ間違っていることになります。

優れた人は自分のありのままをよく知っています。続けられない自分を見つめ、続けるための仕掛けを工夫します。このような力が「メタ認知能力」ということができます。

イチロー、ダルビッシュの続けるための工夫

アスリートの中にはこの能力が優れた人たちが大勢います。

例えば元大リーガーのイチローさんです。イチローさんは様々なルーティーンで有名ですが、それらは、まさに続けるための仕掛けだということができます。

野球の米メジャーリーグで活躍中のダルビッシュ有選手は多彩な変化球を繰り出す好投手として知られていますが、彼は自宅に練習場をつくり、投球している姿をビデオで常時撮影し、ボールの球速や軌道、回転数などを解析し、変化球の研究をしているそうです。監督やコーチからフォームをこうしろ、ああしろといちいち指示されているわけではありません。解析機器を使い、データを解析することで第三者目線となり、メタ認知能力を高めているわけです。

二刀流で知られる大谷翔平選手もメタ認知能力が高い一人です。超一流の選手となったのは天性の才能と練習のたまものと思われていますが、高校時代に、自分で作成した目標達成シート「マンダラート」も奏功したと言われています。9×9のマスをつくり、真ん中のマスに自分の成し遂げたい目標、他の8マスに目標達成の要素をそれぞれ書き記しています。自分を客観分析し、目標を明確にしたのです。

驚いたことに、すでに高1の頃に真ん中のマスに「ドラフト1位で8球団から指名」、その右隣のマスに「スピード時速160キロメートル」と目標達成の手段を記しています。さらに時速160キロという目標達成のため、「肩まわりの強化」など8項目の達成手段・要素なども記しています。このチャートを部屋の中に貼って、常に自分の目標と達成手段・要素を確認していたそうです。

脳とは実に不思議なもの。心臓が飛び出すほどの緊張場面、緊張を解こうと意識すればするほど緊張は増すばかりなのに、何度か大きく深呼吸するだけで血圧が下がり、気持ちまで落ち着くなどということも、脳の仕組みを理解すれば理にかなったことのようです。

子どもたちに一方的に与え続ける教育が、なぜ子どもの主体性を奪うのか、精神主義的な指導方法が、なぜ子どもたちを劣等感でいっぱいにしてしまうのか、これまで多くの人々が強い違和感を感じながらも長い間変えることのできなかった日本的な教育方法の問題も最新の脳科学の研究の理論を活用していけば、確実に説明できそうです。脳科学は今やスポーツ界だけでなく、世界中のあらゆる分野で活用させるようになってきましたが、今後はよりよい教育にアップデートするために大いに活用されていく時代が来ることを確信しています。

工藤勇一
 1960年、山形県生まれ。東京理科大学理学部卒。1984年から山形県の公立中学校で教えた後、1989年から東京都の公立中学校で教鞭(きょうべん)をとる。東京都教育委員会などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校の校長に就任。宿題や定期テスト、学級担任制などを次々廃止するなど独自の改革を推進。2020年4月から現職。青砥瑞人さんと共著で「最新の脳科学からわかった!自律する子の育て方」(SB新書)
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