コロナ禍で事故急増 子どもの目にアルコール消毒薬

日経Gooday

アルコール消毒薬の吹き出し口の高さは子どもの顔の高さに近く、誤って消毒液が目に入るリスクをはらんでいます。(C)Kyryl Gorlov-123RF
アルコール消毒薬の吹き出し口の高さは子どもの顔の高さに近く、誤って消毒液が目に入るリスクをはらんでいます。(C)Kyryl Gorlov-123RF
日経Gooday(グッデイ)

新型コロナウイルスの感染予防目的で公共の場に消毒薬が設置されるようになってから、子どもの目に消毒薬が入る事故が急増していることが、フランスの報告[注1]で明らかになりました。同国で、2020年4月以降に消毒薬が目に入る事故を経験した小児は、前年同期の約7倍に増えていました。

消毒薬の吹き出し口の高さは、子どもの顔の高さに近い

 横浜港に入港した大型客船内で、新型コロナウイルス感染者が集団発生してから1年以上が過ぎました。当初、慌ただしく公共の場所に設置されたアルコール消毒容器は、ポンプの上から手で押し込むプッシュ式か、レバーを手で握るスプレー式がほとんどでした。それが徐々にノータッチ式に代わり、現在では多くが、アルコール消毒薬を自動で噴霧するセンサー付きの容器や、フットスイッチ式の消毒スタンドに置き換わっています。

 消毒薬の吹き出し口の高さは、大人の手の位置に合わせてあります。それゆえに、ちょうど通りかかった子どもの頭にかかってしまう可能性は高く、好奇心いっぱいの子どもが、親が目を離した隙に消毒容器に近づき、顔に消毒薬を浴びてしまう可能性もあります。

 新型コロナウイルス感染症が流行する以前は、消毒薬を誤って口に入れてしまった小児の報告はありましたが、目に入った患者の報告はほとんどなく、どのような害が生じるのかは知られていませんでした。そこでフランスの研究者たちは、アルコール消毒薬が小児の目に入るトラブルの発生状況を調べ、健康被害の程度を明らかにするために、2020年4月1日から8月24日までに、フランスの中毒管理センター(PCC)のデータベースに登録されていた患者と、パリの眼科病院を受診した患者の中から、18歳未満の人々の情報(年齢、性別、事故発生状況、症状、重症度、適用された治療、経過など)を収集しました。さらに2019年同期の患者のデータも得て、比較しました。

アルコール消毒薬が目に入る事故が2020年に急増

 2020年4月1日から8月24日までに、PCCデータベースに報告されていた18歳未満の人々の化学物質曝露件数は、2019年は2553件でしたが、2020年には2336件で、有意に減少していました。一方で、アルコール消毒薬が目に入った事故は、2019年は33件(化学物質曝露件数に占める割合は1.3%)だったのに対し、2020年は232件(9.9%)と、約7倍に急増していました。

 また、2020年の化学物質曝露件数に占める、アルコール消毒薬が目に入った事故の割合は、4月は5%でしたが、5月は9%、6月は10%、7月は11%、8月は15%と徐々に増加していました。

[注1]Martin GC, et al. JAMA Ophthalmol. 2021;139(3):348-351.

 2020年の患者のほとんど(97.8%)は軽症で、報告された症状は痛み、ヒリヒリ感、結膜の充血[注2]でした。6人が中等症で、それらの患者は限定的ではあるものの角膜炎[注3]を発症していました。

 2020年の事故のうち、公共の場で発生したことが明らかだったのは63件で、発生場所の内訳は、店舗や商店街が47件、レストランが5件、オープンスペースが5件、映画館が1件、スポーツエリアが1件、プールが1件で、残りの3件はそれ以外の場所でした。すべて新型コロナウイルスの感染予防策として設置されていた、センサー式またはフットスイッチ式のディスペンサーが原因でした。

 続いて、アルコール消毒薬が目に入って眼科専門病院を受診した小児患者についても調べたところ、2019年には、生後16カ月の男児1人だけでしたが、2020年には16人(平均年齢は3.5歳で、10人が男児)いました。

 2020年の患者のうち8人に、角膜潰瘍と結膜潰瘍のいずれかまたは両方が認められ、うち6人では、角膜表面の半分以上が潰瘍化していました。症状が深刻だった2人の患者は、全身麻酔での羊膜移植[注4]を必要とし、うち1人はこの治療を2度受けていました。

 フランスで最初のロックダウンの段階的な解除が始まったのは2020年5月11日で、アルコール消毒薬が小児の目に入ったという報告は、それ以降に増えていました。その理由は主に、公共の場所に設置されるアルコール消毒容器の数が増えたこと、それらの多くが小児の顔の高さに設置されていたことにあると考えられました。また、消毒薬がジェル剤の場合には粘度が高く、曝露後は速やかに目を洗う必要があるのに、洗面所をすぐに見つけることが難しい点も関係している可能性があります。

 著者らは、「手指消毒のためのデバイスを誰もが安全に使用できるよう、設置場所や設置方法などを工夫すると共に、小さな子どもを持つ親や保育者に対して、注意喚起を行う必要がある」と述べています。

[注2]結膜:まぶたの裏側から黒目の縁までを覆っている粘膜の部分

[注3]角膜:黒眼の表面を覆う透明な組織

[注4]羊膜移植:羊膜とは、子宮内にいる胎児が包まれている膜(卵膜)の一番内側の部分をいう。予定帝王切開で分娩する女性から提供を受けたものが移植用に保存されている。羊膜は、薄くて伸縮性に富み、移植しても拒絶反応は起こりにくく、炎症を抑え、傷の修復を促進する働きを持つ。皮膚の熱傷の治療や、術後に内臓の癒着を防止する目的に、また、難治性の目の病気の治療にも用いられている。

[日経Gooday2021年3月25日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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