ダーウィンが嫌悪感についての仮説を記してから約150年後。セポン・ロビンズ氏は、人間が病気から身を守るにあたって、文化、環境、感情がどのように影響するかを研究しようとしていた。それまでの同様の研究は、工業化した国や地域の文化を対象としたものばかりだった。しかし、嫌悪感がもつ進化的な意義をより深く理解するためには、私たちの祖先の生活に近い、病原体の多い環境で調査を行う必要があった。

霧深いアンデス山脈の奥深く。調査に参加したシュアール族の人々の中には、土間床の伝統的な小屋に住む人もいれば、コンクリートの床と金属の屋根がある家に住む人もいた。多くの人が狩猟、釣り、園芸、採集など、自給自足のための活動を行っていた。どれも、排せつ物で汚染された土壌で繁殖する回虫や鞭虫(べんちゅう)などの病原体と接触する可能性がある。セポン・ロビンズ氏は、75人の参加者を対象に、彼らが何に嫌悪感を抱くかを調査した。

「彼らが最も嫌がったのは、排せつ物を直接踏んだり、キャッサバ(ユカイモ)をかんで吐き出して作るチチャという飲み物を飲んだりすることでした」とセポン・ロビンズ氏は言う。チチャは伝統的な発酵飲料で、中でも質素な暮らしをしているコミュニティーでは主な水分補給源の一つだ。回答者たちが嫌悪感を抱いたのは、チチャそのものではなく、チチャを作った人についてだという。「病気の人や虫歯の人が作ったチチャを飲むのは嫌だということでした」

その後、参加者の血液と糞便(ふんべん)を採取し、健康状態と嫌悪感のレベルを比較した。2月23日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された論文によると、嫌悪感受性が最も高い人たちは、ウイルスや細菌の感染が最も少なかったという。

調査対象となったコミュニティーでは、土や泥といった、先進国の人々が汚いと感じる可能性があるものを避けられない。そのため、嫌悪感受性が高くても、より大きな病原体である寄生虫から身を守ることはできていなかった。それでも嫌悪感は、病原体を媒介しうる排せつ物との接触を最小限に抑えるのに役立っていた。このことから、セポン・ロビンズ氏は、ダーウィンの仮説の通り、嫌悪感は私たちの祖先を病気から守るために進化したのではないかと考えている。

だが、もしそれが本当なら、なぜ多くの子どもたちはスライムや気持ち悪いものに熱中するのだろうか?

なぜ人は「キモい」が好きなのか

そこがダーウィンの理論がもつ少々意外なところだ。子どもが「キモい」ものを好むのは、進化上の利点があるからかもしれない。

細菌のすべてが私たちにとって悪いものとは限らないことは、よく知られている。腸内細菌から皮膚の常在菌に至るまで、微生物は私たちの免疫系と協力して体の均衡を保ったり、病原体から私たちを守ったりといった様々なことをしてくれている。また、子どもたちが土に触れたり動物と触れ合ったりして、多少の汚れにまみれることは、病気に対抗できる強い免疫系を作るのに役立つことが科学的にわかっている。

「汚れるというより、子どもたちが周りの世界と付き合えるようになるということなのです」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の小児科教授ジャック・ギルバート氏は言う。氏は、殺菌用のウエットティッシュを持って子どもたちの後を追いかけたりはしない。むしろ、自然界に存在する様々な微生物に触れさせている。子どもたちの免疫系の将来が、それらにかかっていると知っているからだ。

「1歳未満ほどで犬と触れ合った子どもは、喘息(ぜんそく)になる可能性が13%減少します」と氏は言う。「農場で育ち、たくさんの動物と触れ合った子どもの場合は50%も減少します。そうした触れ合いは、実は慢性的なアレルギー疾患を防ぐ上で非常に重要なのです」

少なくともある年齢までの幼少期は、免疫系にとっての訓練期間と言える。2014年に学術誌「Evolutionary Psychology」に発表された研究によると、ほとんどの子どもは5歳ごろから嫌悪を感じるようになるという。その頃はちょうど、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)や、下痢を引き起こす微細な寄生虫であるジアルジアなど、より危険な微生物にさらされる可能性が高くなる時期だ。

「この時期には離乳が終わっていて、自分で食べ物を見つけ、いろいろなものを口に入れるようになります。しかし、免疫系はまだ十分に発達していません」と、米ペンシルベニア州ランカスターにあるフランクリン&マーシャル大学の心理学助教授ジョシュア・ロットマン氏は語る。「毎年、病原菌や寄生虫が原因で多くの幼い子どもたちが亡くなります。それは、彼らが嫌悪感を抱いていないせいかもしれません」

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