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なぜ人は「キモい」好き? 進化でつかんだ「嫌悪感」

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ナショナルジオグラフィック日本版

「気持ち悪い」と感じることには進化上の意義がある──。1860年代後半、チャールズ・ダーウィンはそう提唱した。嫌悪感は先天的かつ無意識的なものであり、私たちの祖先が腐敗した食物を食べて死んでしまわないように進化したのだと。ダーウィンは、初期の人類のうち、そうした嫌悪感を抱きやすい者は生き残って遺伝子を残し、食において大胆な者は生き残らなかったという仮説を立てた。

その後、長らく、科学者たちは嫌悪感というものにあまり注意を払わなかった。心理学や行動学の研究で嫌悪感が注目されるようになったのは、某テレビ番組が盛んにゲームの出場者をスライムまみれにしていた1990年代初頭からだ。それ以降、科学者たちは様々なタイプの嫌悪感を特定し、人間の行動にどのように影響するかを研究するようになった。

研究によれば、ダーウィンは基本的に正しかった。嫌悪感は「行動免疫システム」の主要な要素なのだ。行動免疫システムとは、最も原始的な本能によって起こる、私たちの体を最良の状態に保つ行動の集合体だ。

「健康という観点から言うと、嫌悪感は感染症にかかることの少なさと関連しています。なので、病気に関連する状況では有益な感情です」。米ミシガン大学の心理学准教授ジョシュア・アッカーマン氏はそう述べる。例えば2021年1月20日付で学術誌「Frontiers in Psychology」に発表された研究では、嫌悪感を抱きやすい人たちのほうが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期間中に健康状態が良い傾向があったと報告された。おそらくは、手洗いなどの清潔を保つ行動を取ることが多いからだという。

しかし、嫌悪感はダーウィンが想像していたよりもはるかに複雑だ。研究によると、私たちの嫌悪感は、生まれつきの反応と、文化や環境に依存する様々な人生経験に起因することがわかっている。人によっては嫌悪感が行き過ぎて、有益な菌が豊富に含まれる発酵食品が食べられないなど、健康維持に役立つはずのことができない場合もある。

「嫌悪感は、見慣れない食べ物などを嫌うこととも関連しているため、両刃の剣となりえます。実際には健康や免疫機能を向上させるかもしれない食べ物もあるわけです」とアッカーマン氏は言う。

この記事では、嫌悪感がもたらす保護効果や、なぜ一部の人(特に子ども)は「気持ち悪い」ものに魅了されるのか、そして人間がこの心理的反応を様々な文化的規範に合わせて変え、興味深い健康効果を得てきたことについて、最新の科学的知見を紹介する。

嫌悪感のルーツを求めて

2005年、人類学者のチームが、エクアドルのアマゾン熱帯雨林に、かつて敵の首を狩って干し首を作ることで知られていた先住民族、シュアール族を訪ねた。現在のシュアール族はそうした風習を否定しており、商業や観光を受け入れているほか、シュアール族の生活様式から学ぼうとする世界中の科学者たちを歓迎している。米コロラド大学コロラドスプリングス校の寄生虫専門家タラ・セポン・ロビンズ氏も、そうした訪問者の一人だった。

ダーウィンが嫌悪感についての仮説を記してから約150年後。セポン・ロビンズ氏は、人間が病気から身を守るにあたって、文化、環境、感情がどのように影響するかを研究しようとしていた。それまでの同様の研究は、工業化した国や地域の文化を対象としたものばかりだった。しかし、嫌悪感がもつ進化的な意義をより深く理解するためには、私たちの祖先の生活に近い、病原体の多い環境で調査を行う必要があった。

霧深いアンデス山脈の奥深く。調査に参加したシュアール族の人々の中には、土間床の伝統的な小屋に住む人もいれば、コンクリートの床と金属の屋根がある家に住む人もいた。多くの人が狩猟、釣り、園芸、採集など、自給自足のための活動を行っていた。どれも、排せつ物で汚染された土壌で繁殖する回虫や鞭虫(べんちゅう)などの病原体と接触する可能性がある。セポン・ロビンズ氏は、75人の参加者を対象に、彼らが何に嫌悪感を抱くかを調査した。

「彼らが最も嫌がったのは、排せつ物を直接踏んだり、キャッサバ(ユカイモ)をかんで吐き出して作るチチャという飲み物を飲んだりすることでした」とセポン・ロビンズ氏は言う。チチャは伝統的な発酵飲料で、中でも質素な暮らしをしているコミュニティーでは主な水分補給源の一つだ。回答者たちが嫌悪感を抱いたのは、チチャそのものではなく、チチャを作った人についてだという。「病気の人や虫歯の人が作ったチチャを飲むのは嫌だということでした」

その後、参加者の血液と糞便(ふんべん)を採取し、健康状態と嫌悪感のレベルを比較した。2月23日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された論文によると、嫌悪感受性が最も高い人たちは、ウイルスや細菌の感染が最も少なかったという。

調査対象となったコミュニティーでは、土や泥といった、先進国の人々が汚いと感じる可能性があるものを避けられない。そのため、嫌悪感受性が高くても、より大きな病原体である寄生虫から身を守ることはできていなかった。それでも嫌悪感は、病原体を媒介しうる排せつ物との接触を最小限に抑えるのに役立っていた。このことから、セポン・ロビンズ氏は、ダーウィンの仮説の通り、嫌悪感は私たちの祖先を病気から守るために進化したのではないかと考えている。

だが、もしそれが本当なら、なぜ多くの子どもたちはスライムや気持ち悪いものに熱中するのだろうか?

なぜ人は「キモい」が好きなのか

そこがダーウィンの理論がもつ少々意外なところだ。子どもが「キモい」ものを好むのは、進化上の利点があるからかもしれない。

細菌のすべてが私たちにとって悪いものとは限らないことは、よく知られている。腸内細菌から皮膚の常在菌に至るまで、微生物は私たちの免疫系と協力して体の均衡を保ったり、病原体から私たちを守ったりといった様々なことをしてくれている。また、子どもたちが土に触れたり動物と触れ合ったりして、多少の汚れにまみれることは、病気に対抗できる強い免疫系を作るのに役立つことが科学的にわかっている。

「汚れるというより、子どもたちが周りの世界と付き合えるようになるということなのです」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の小児科教授ジャック・ギルバート氏は言う。氏は、殺菌用のウエットティッシュを持って子どもたちの後を追いかけたりはしない。むしろ、自然界に存在する様々な微生物に触れさせている。子どもたちの免疫系の将来が、それらにかかっていると知っているからだ。

「1歳未満ほどで犬と触れ合った子どもは、喘息(ぜんそく)になる可能性が13%減少します」と氏は言う。「農場で育ち、たくさんの動物と触れ合った子どもの場合は50%も減少します。そうした触れ合いは、実は慢性的なアレルギー疾患を防ぐ上で非常に重要なのです」

少なくともある年齢までの幼少期は、免疫系にとっての訓練期間と言える。2014年に学術誌「Evolutionary Psychology」に発表された研究によると、ほとんどの子どもは5歳ごろから嫌悪を感じるようになるという。その頃はちょうど、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)や、下痢を引き起こす微細な寄生虫であるジアルジアなど、より危険な微生物にさらされる可能性が高くなる時期だ。

「この時期には離乳が終わっていて、自分で食べ物を見つけ、いろいろなものを口に入れるようになります。しかし、免疫系はまだ十分に発達していません」と、米ペンシルベニア州ランカスターにあるフランクリン&マーシャル大学の心理学助教授ジョシュア・ロットマン氏は語る。「毎年、病原菌や寄生虫が原因で多くの幼い子どもたちが亡くなります。それは、彼らが嫌悪感を抱いていないせいかもしれません」

 大人でも気持ち悪いものを好む人はいる。私たちは、ティッシュの中身をまじまじと観察したり、グロテスクな映画を見たり、ヌルヌルした食べ物を楽しんだり、「ドクター・ピンプルポッパー(ニキビつぶし)」こと皮膚科医のサンドラ・リー氏をスターダムに押し上げたりしている。一体なぜだろうか?

この問題の結論はまだ出ていない。しかし、研究者たちの間ではいくつかの仮説がある。ロットマン氏を含めた一部の専門家は、そうしたものへの熱中は「悪意のないマゾヒズム」によるものと考えている。脳がネガティブなものに喜びを見いだす傾向のことだ。また、問題を解決しようとする潜在的な傾向が、グロテスクなものを気にせずにはいられなくさせているという仮説もある。

「将来うまく自分を守るために脅威について学ぶことや、今その脅威を無効化することの有用性に関係しています」と、米コロラド大学コロラドスプリングス校の心理学助教授レイス・アル・シャワフ氏は語る。「例えば、あなたの子どもがケガをして、傷口から膿(うみ)が出ていたら、あなたはそれをよく調べて、手当てをしてあげないといけませんよね」

2つの仮説は、どちらも正しい可能性がある。さらには、3つ目もある。ギルバート氏によれば、汚いものは大人の免疫系にとっても良いものである可能性があるという。「私は、免疫系は庭師のようなものだと思っています。私たちが毎日接している微生物という庭を管理し、良いものを維持し、悪いものを排除する役割を果たしているのです。良い微生物は私たちの健康に大きな影響を与えます」

エビを食べられてもコオロギはダメ?

だがほとんどの大人にとって、何に嫌悪感を抱くかは文化や環境によって異なる。しかし、一部に共通するものもある。

「病原体が含まれるかもしれないものの多くは、普遍的に嫌悪感を抱かせます。排せつ物、嘔吐(おうと)物、開いた傷口、膿……すみません、なんだか気持ち悪い話ですよね」とアル・シャワフ氏は笑いながら言う。「また、腐った食べ物、特に腐った肉に対する嫌悪感は、ほぼ普遍的と言っていいほどです。これらすべてに共通しているのは、病原体に感染するリスクがあることです」

しかし、人類が先天的に嫌悪感を抱くようなものですらも、健康に良い影響を与える可能性がある。

「グリーンランドやスカンディナビア半島北部などの北極圏に住む遊牧民は、腐った肉を日常的に食べます」とロットマン氏は言う。「ビタミンCを摂取し、壊血病を防ぐことができるのです。彼らの食生活においてはごく普通のことで、嫌悪感を抱かせるものではありません」

信じられないかもしれないが、旧石器時代の食生活には腐った肉が不可欠だった。肉を腐らせることで、消化が容易になるだけでなく、pHが下がってビタミンC(アスコルビン酸)が保持されやすくなる。一方、より一般的な肉を加熱するという食べ方は、この重要なビタミンCを壊してしまう。古代の北極圏で腐敗した肉に嫌悪感を抱いた人々は、冬を越せなかったかもしれない。

嫌悪感が強すぎたり、見慣れない食べ物に対する強い抵抗があったり、文化的な教育を受けていなかったりすると、より冒険的な食事や生活ができず、同様の効果を得られない可能性がある。西洋社会にエビを好んで食べる人は多いが、コオロギなどのほかの節足動物を食べることは嫌がる人が多いだろう。コオロギはほかの地域では主要な食物であり、食べても何も問題はない。慣れた食べ物と違うだけだ。最近では、環境に優しいたんぱく源としてコオロギを推奨する人も増えている。

この世界と私たち自身をよりよく理解すべく、様々な分野の研究者が嫌悪感を探究し続けている。嫌悪感は、社会の均衡の一部だ。弱すぎれば病気になりかねず、強すぎれば孤立し、健康を害することすらある。この複雑な様相を解明していくことで、人間の様々な行動を読み解くことができるかもしれない。

「私たちが嫌悪感を抱く対象はすべての分野に存在しますが、慣れが生じることもあります」とセポン・ロビンズ氏は言う。「例えば、看護師は体液を扱うことに慣れています。ちょっとばかり気持ち悪いかもしれないものへの恐怖心は、何度も繰り返し触れているうちに薄れていきます。死にはしませんから」

(文 REBECCA RENNER、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年4月8日付の記事を再構成]

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