書評や書籍の解説を読む際に気をつけてほしいこと
本書『読書大全』はまず、人類の知の進化を「宗教と神話」「哲学と思想」「経済と資本主義」という3つの柱に沿って俯瞰(ふかん)します。そして、人類の歴史に残る200冊の本を、「資本主義/経済/経営」「宗教/哲学/思想」「国家/政治/社会」「歴史/文明/人類」「自然/科学」「人生/教育/芸術」「日本論」という7分野に分けて解説しています。
しかし、これらの解説はあくまでも、本書の読者のための単なる手引であり、書かれている内容は、私・堀内勉という人間のフィルターを通して見たものだということにも注意が必要です。これは本書に限らず、どんな書評・解説でも同様です。
読書というのは著者と読者との人間同士の個人的な対話ですから、『読書大全』を通じて200冊の内容を「知った」としても、それは自分の「血肉になった」ということにはなりません。
人間が人間に影響を受けるというのは、人と人との直接的な関係性から生じることで、「あの人はこんな感じの、とても良い人で、こんな良いことを言っていましたよ」と伝聞で知ったとしても、その感動というのは十分に伝わりません。書評や解説を通じてある本の内容を知るということは、むしろ書評者や解説者との会話であって、本そのものの著者との対話ではないのです。
ですから、書評や解説を読んで気になる本があったら、ぜひ、買って(あるいは図書館で借りて)読んでみることをお勧めします。もし可能であれば、原典が英語の本は英語で、フランス語の本はフランス語でというように、原語で読めるのであれば原語で読むのがベストです。
実は、そもそも翻訳にもそういうところがあって、翻訳書というのは翻訳者のフィルターを通して再構築されたものなので、原文とはニュアンスが微妙に違っています。もちろん、翻訳が素晴らしいことで売れる本というのもありますが、Amazonのカスタマーレビューなどを見ると、「翻訳がひどかった」ので評価も低いというコメントが散見されます。せっかくの名著もこれでは台無しですから、可能な限り、原典に当たってみてください。
ニュートンが「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからだ」と語ったように、「人類の知」は、我々のはるか昔の祖先から連綿とつながっています。
ぜひ、良書を通じて人類の歴史と叡智を力とし、これからの時代を切り開いていってください。
× × ×
ここでは、本書のうちの一部分だけを紹介した。人生やビジネスにおける学びのための「知の羅針盤」を持ちたい方、あるいは人類の知をたどる200冊の名著に興味が沸いた方は、ぜひ本書をご一読いただきたい。
(日経BP 宮本沙織)
多摩大学社会的投資研究所教授・副所長(多摩大学大学院特任教授)。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了。1984年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。興銀証券(現みずほ証券)、ゴールドマン・サックス証券を経て2005年、森ビル・インベストメントマネジメント社長に就任。07~15年、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)。現在は、多彩な役職を務める傍ら、資本主義の研究をライフワークとして、多様な分野の学者やビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(編著、日本評論社)。