コロナ下で発想転換 3人の大学生が実現できたこと
新型コロナウイルス感染拡大で、制限だらけのキャンパスライフが続いている。何か行動したいけど、この状況でどうしたらいいかわからないという学生に向けて、インターンや国内留学など、コロナ下でも新しいことに挑戦した大学生3人のトークイベント「#コロナ下だからできたこと」(日本経済新聞社デジタル事業メディアビジネスユニット主催)が3月下旬に開催された。悩みながらも前に進んだ等身大のエピソードは、長引く自粛生活を乗り切るヒントになるのではないだろうか。
◇林佑紀さん 横浜国立大学教育人間科学部4年。3歳から続けたサッカーを大学でもやりたかったが、サッカー強豪校に入れず断念。体育会ヨット部に入るも、合わずに2年次にやめる。その後、国際協力活動を開始し、青年海外協力隊などに参加。休学してベルギーやペルーに留学し、2020年2月に帰国した。21年3月に卒業し、広告代理店に就職。
◇佐久本星来さん 上智大学外国語学部3年。教育分野に興味があったが、学校の先生には向いていないと感じ、自分と向き合うため20年春から休学。福井県鯖江市で開かれた地方活性化プランコンテストに参加し、入賞。1カ月ほど同市へ移住し「国内留学」した。
◇矢島向日葵さん 慶応義塾大学法学部1年。外交官になるのが夢。日米の高校生の国際交流プログラム、コンサルティング企業でのアシスタント業務、国会議員の議員事務所と、3つのインターンを掛け持ちしている。
(司会は、大学1~2年向けのイベントやメディアを運営する学生団体TSUNAGU代表で慶応大4年の倉内佑さん、同メンバーで東大4年の安山瑠衣子さん。イベントは同団体の協力を得て実施した)
イベントはビデオ会議システム「Zoom」を使い、大学1~2年生を中心に約50人が参加した。主に司会からコロナ下での行動や考え方についてスピーカーに聞き、トークの合間で参加者から質問も受け付けた。
夢と希望から一転、「大学やめたい」
Q コロナ感染拡大が始まった20年春、自分の生活にはどんな影響がありましたか?
矢島 大学生になったら東南アジアに旅行に行きたい、サークルに入って人脈を広げたいなど、やりたいことがたくさんありました。あとは外交官になるっていう夢があって、それを実現するための勉強の計画も考えていて、夢も希望もいっぱい、の状態からコロナで一転。5~6月がひどくて、せっかく第1志望の政治学科にいたのに全然友達もできないし、「コロナ鬱」みたいになりました。自分の中で、「ナメクジデイズ」って呼んでます。寝ているとき以外ずっと「大学やめたい、大学やめたい」と思いながら、超ネガティブに生活していました。
佐久本 私はコロナ前に休学すると決めていたから、「とにかく何かしなきゃ」と思っていました。最初はカンボジアやフィンランドに行きたかったけど、コロナで不可能になって「日本国内でできるインターンを探そう」とすぐに切り替えました。ただ、気持ちは全然追いつかなくて。「これでほんとにいいのかな」みたいな感じで、結構焦ってた。休学したから自分は何かしないと人生が動かないと思ってしまって、最初は苦しみながら動いてましたね。
林 僕の場合はコロナ前、1年間休学して海外に行って、ある程度やりたいことをやっていたから、そこまでネガティブには捉えてなかったかな。やりたいことというのは、ペルーの刑務所で囚人が作った服を売ること。留学中たまたまショッピングモールでその服を販売している店舗が目に入り、それが運命の出会いでした。
一方通行の支援ではなく、雇用を創出しながら服というプロダクトを世の中に出していくという思想に共感したんです。もしこれを日本で販売できたら新たな国際協力の形になると思い、クラウドファンディングなどを実施していました。日本に帰国したら店舗型のショップをやろうと思っていたら、帰国直後にコロナパンデミックが始まり、いったん断念しました。
「将来絶対仕事にしないことをやる」
Q その後、どんなアクションをとりましたか?
林 もともとやりたかった対面販売を「プランA」とすると、「ブランB」として、まずオンラインイベントを開催しました。クラウドファンディングで支援してくださった全国の方々とZoomを使ってつながってみました。一方で「プランA」の方も、そこから少し変更させて、6カ月遅らせることと、感染症対策を徹底するということで、期間限定の対面販売も実現しました。
佐久本 休学した目的が将来やりたいことの視野を広げるためだったので、全然興味はなかったけど、まず地方創生関連の事業を手掛けるベンチャー企業でインターンをやってみました。地方のことを調べてたからだと思うけど、たまたまインスタグラムで福井県鯖江市の地域活性化プランコンテストの広告が目に入って。コロナ前の私は海外志向だったから絶対やらなかったと思うんだけど、こんな機会だしやってみようと思ってそのコンテストに出たら入賞できました。
それぞれご縁があったからやったけど、それだけじゃなくて、1カ月とか期間を区切って、目的を持った上で挑戦することを続けてきたのが私のコロナ下の行動です。例えばコンテスト後は1カ月ほど鯖江市に移住して生活していて、そのときは畑作業をしたり、農家が運営している民宿の手伝いをしたり、将来絶対仕事にしないことをやってみようと思って色々なことをしました。自分の幅を広げることが目的でしたから。
矢島 なんで今、こんなにつらいんだろうと考えたときに、それは例年の大学1年生がやっていたアクション、例えばサークルに入るとか新しい友達を作るとか、そういうことばかり見ていたっていうことに気付いたんです。そこで思考を転換してみました。
例えば、海外留学はコロナで難しくなってしまったけど、「そもそも海外留学って何でやりたかったんだっけ?」って考えると、「新しい自分に出会いたい」っていうのが私の中では大きくあって。でもそれは周りに大学生が全然いない環境で何かスキルを身につけられたら、かなうんじゃないかと思い、コンサル企業でインターンを始めました。留学のもう一つの目的に、英語力を身につけたいっていうのがあったけど、今の時代はオンライン英会話でも十分勉強できますし。やりたいことを一旦白紙にして、目的をベースに考えたら、実はできることって色々あるなと気付きました。
参加者から質問「夏休みは遊んじゃだめですか?」
Q 行動する前、どうやって情報収集しましたか?
矢島 インターンは「Wantedly Intern(ウォンテッドリー・インターン)」というアプリで探しました。自分の興味や適性をもとに会社をマッチングしてくれる機能があって、そういうツールを使って調べました。
佐久本 私は情報を得る前に、そもそも検索のキーワードが思い浮かばないときがあって、そういうときはひたすら自分の思考を整理するために、「Matcher(マッチャー)」というOB・OG訪問アプリを使って、全然知らない人とつながって、ひたすら壁打ちをしてもらう、ということをやっていました。
Q 1年生です。僕は1カ月半のインターンに参加したのですが、めちゃくちゃハードで、いつやめようかとずっと思っていました。皆さんはきついと思ったとき、どうしていますか?
矢島 (ナメクジ生活で)悩みつくしたからあとは上がるしかない感じでした。インターンについては厳しいし、めっちゃ怒られるから向いてないんだなと思ったこともあったけど、今では身につけたいスキルを重点的に育ててもらっていると思えるし、上司とちゃんと話し合って仕事内容を変えてもらったりして解決してきましたね。
林 僕も実は、ナメクジ生活のときがあって。ペルーの服の販売も「よっしゃやろう!」と最初は意気込むけど、中だるみもあって、疲れて無気力になることもありました。2週間ネットフリックスを見続けたときもあったし。LINEでの連絡をストップしたり、旅したり、ふらふらするうちにいつの間にか復活してたという感じです。無理に頑張んなきゃって、僕はあえて思わないようにしていました。
Q 長期休みのときは何をしてましたか? 大学生らしいこともしたいし、遊んでばかりなのですが、やはりだめでしょうか。何か行動しなきゃとおもいつつ、何からやったらいいかわかりません。
佐久本 私も1~2年生のときは「ザ・大学生」みたいな生活をしてましたよ。でも長期休みで友達に会わなくなると、飲み会に行くよりも何か行動したいと思って、そっちにフルコミットしてました。私は教育に興味があったけど、先生には向いてないし、何をやろうか悩んでいたので、長期休みのときは「教育、ボランティア、貧困」みたいなキーワードを入れて検索して出てきたところに上から応募してました。
林 ヨット部の活動は土日だったから、僕も1年生のときの平日は遊んでました。しかもサッカーと比べると情熱を燃やせないなあ、とモヤモヤを抱えながら。質問者さんは何か行動を起こそうと思ってるんですよね、そう思ってる時点でとても素晴らしいことだと思うから、その気持ちを大事にしてほしいです。
「立ち止まるのも悪くない」
Q 最後に、前に進むためのアドバイスをお願いします。
佐久本 私はたぶん2つの方法をとってました。1つは、まず自分のモヤモヤにひたすら向き合うこと。本当に学校の先生になりたいのかな? 友達と一緒の授業をとるだけで大学生活はいいのかな? などのモヤモヤに向き合って、だからこそ行動起こすことができた。もう1つは、自分の選択を正しいものにしていくこと。新しい選択ってどう転ぶかわかんないから、その選択が自分にとって良い選択になるように行動するっていうのが大事かなと思います。
矢島 私は真逆の、石橋をめちゃくちゃたたいてから一気に渡るタイプの人間で、新しい環境に踏み入れる前にすごく考えます。自分にとって学びがあるか、逆に自分もその環境に対して何かギブできることがあるか。
チャット欄に「1人で行動するのが怖い」という書き込みがありました。コロナ下の状況は周りの目がすごく少ないという考え方もできます。普段だったら同級生の目や同調圧力があると思うんですけど、例年の大学生よりも流されなくていい。批判される心配がほとんどないから、じっくり考えることができるんじゃないかと思います。
林 皆さんはこれまでの人生とか振り返ってみて、「あー、前に進んだなあ」と思えるときってどんなときですか? 僕はざっと振り返ってみると、国際協力に興味を持って勉強したり、海外に行ってみたりしたことは確かに前に進んでいます。一方で、3歳から続けてきたサッカーをやめるとか、ヨット部をやめたというのは一見、進んでいないように見えるかもしれないけど、今思えば自分にとって大きな前進だったと確信をもって言えます。
つまり、一度決めたことをやめることも、横道にそれることも、立ち止まってみることも、すべて前に進むためのステップだったんだと思ってます。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。