ワーク・ライフ・バランスへの違和感

著者は働き方改革のキーワードに定着した「ワーク・ライフ・バランス」に、一定の理解を示しつつ「違和感」を持っています。仕事とプライベートを対立軸として考え、ワーク(仕事)はストレスがたまるものであってライフ(プライベート)はストレスを発散する場というイメージが含まれていると思ったからです。

仕事をしている最中に仕事以外のことを考えることももちろんあったし、仕事時間外に仕事のことを考えることも普通にあった。それが当たり前だと思っていた。仕事の中にプライベートが入り込んでおり、プライベートの中にも仕事が入り込んでおり、それらは区別しようがなく一体となっていた。それなので、仕事とプライベートを区別し、しかもそのバランスをとるようにと言われても、まったく意味がわからなかったのだ。
(第6章 個の感情をめぐる3つのパラドックス 226~227ページ)

デジタル化が進んだ中、仕事とプライベートの間に明確に線引きすることは可能なのかと疑問を投げかけています。そして、無理に分けようとすることからネガティブな感情を抱くような事態に陥っている可能性があると指摘します。併せて、ストレス経験を否定せずプラスに捉えること、仕事より仕事以外の要素に情熱をかけることが必要だと説いています。

最後に著者は、職場での関係性が分断される点で「頑張った者が馬鹿を見る」職場を最悪の職場、チームの成果を求める「一緒に働く仲間のために頑張る」職場を最高の職場と位置付けています。コロナ禍の終息が見えない中、理想のチームづくりに向けて参考にしてみてはいかがでしょうか。

◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・野澤靖宏

相原さんの著作は、多くの企業現場を観察してきた方だけあって、事例が具体的で、かつ誰もが心当たりある描写なのが特徴です。本書でも、ちょっとした行き違いで起こる感情問題の数々が紹介されますが、「あるよなあ、こういう状況」と納得するものばかりです。

少数の「斜に構えた人」が与える大きな悪影響、雰囲気を盛り上げるムードメーカーの重要な役割など、組織で働いたことがある人なら、具体的な人をイメージしながら読むことができて、解説がすんなり頭に入ってきます。

新型コロナ禍で、働き方や職場のあり方が大きく変わりつつある現在、働く人の「感情」が思った以上に重要だと認識し、それにどう向き合えばよいかを考えるきっかけとして、とても役に立つ本だと思います。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

職場の「感情」論

著者 : 相原 孝夫
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 1,760 円(税込み)

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