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電車内での授乳が起業ヒント 仕事で子と良い距離感

モーハウス社長 光畑由佳さん

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NIKKEI STYLE

子を育てるということは、次の時代をつくること。どんな価値観をもった人間になるかは、子育ての影響が大きい。でも、子どもは一人ひとり個性も成長スピードも違う。もちろん、育てる私たちも。では聞いてみよう。世界をよく知り、がんばって働き、自分らしく伸びやかに生きる女性たちに。子育てで本当に大切なことが見えてくるはずだ。

授乳服の製造・販売を手掛ける「モーハウス」(茨城県つくば市)の光畑由佳社長の起業の原点は、外出中に生後1カ月の次女が突然泣き出し、電車内で授乳したときの違和感だ。子育て中でも自分の行動を制限したくない。自分を自由にするために授乳服を作り始め、仕事中も子どものそばにいたいと子連れ出勤を始めた。本人いわく「一番自然でラクな生き方だった」が、これが新しい働き方として注目を集め、多くの女性が働きたいとモーハウスを訪れる。

起業のきっかけ「JR中央線事件」

お茶の水女子大学(被服学科)を卒業してパルコに就職しました。学生時代から一生仕事は続けたいと思っていましたが、当時の職場でそれは現実的ではありませんでした。結婚を前に書籍編集の会社に転職しました。編集に興味があったのと、いつか子どもができても在宅で続けられると思ったからです。その後27歳で結婚して茨城県つくば市で暮らすようになり、フリーの編集者になりました。それだけでなく、夫の会社の事務を手伝ったり地元の雑誌の編集長をやったり。自分なりに働き方を模索していたのでしょう。

起業のきっかけとなる「事件」が起きたのは、3歳の長女と生後1カ月の次女を連れて、都内を走るJR中央線に乗っていたときのことです。突然、次女が泣き出しました。周りの乗客の視線は私に集中します。母乳をあげれば泣きやむと分かっていました。けれど、車内で授乳するのは勇気がいります。上着で隠したところで、周囲の乗客たちには、私が何をしているか容易に分かるからです。子どもには母乳を飲む権利、母親にはあげる権利があるけれど、公共の場で実践するのはとても難しいと感じました。

それでも、私にはそのとき、次女に授乳したい理由がありました。長女は生まれてしばらくNICU(新生児集中治療室)に入っていました。毎日、搾乳して病院に持っていきましたが、搾乳できない日もあり母乳が止まってしまいました。長女も私の胸にうまく吸い付いてくれず、あっさり母乳育児を諦めてしまったのです。だから次女の時には、「母乳をあげ続けないと止まってしまう」という不安が常にあったのです。そういうわけで、私は電車内で授乳することにしました。居合わせたビジネスパーソンらはきっと、職場に戻ったら同僚に「俺、さっき電車ですごいもの見ちゃった」などと話すのでしょう。そんなことが気になってしまい、授乳をしながら、とても居心地が悪いと感じました。

当時、母親は子どもの授乳やおむつ替えのことを考え、いつも公園や公民館などに集まっていました。でも子どもがいるから行動を制限するのは正しくないし、なにより私自身が子育てを理由に我慢をしたり諦めたりしたくない。いい答えはないのかと考えました。今ならネットで署名活動をするとか鉄道会社に働きかけるなどできたのかもしれませんが、当時はそんな手段もありません。誰かにお願いするより自分が変わった方がいい。つまり自分が子連れで自由に出歩けるようにするため、公共の場でも気にせず授乳できる服を作ることにしたのです。最近話題の「フェムテック(女性特有の悩みを技術で解決する商品やサービス)」の走りだったと今では言われます。1997年は次女が7月に生まれ、1カ月後の8月には中央線事件があり、10月に授乳服を創り出したのですから、振り返るとすごいスピードです。授乳服をいくらくらいで販売するか。母親が買える価格の目安として粉ミルク1カ月分、つまり1着1万円程度に設定しました。

授乳服で「どこにでも行ける、何でもできる!」

1990年代当時、茨城にはまだ縫製工場がいくつもあり、そこで働いた経験のある女性たちが結婚・出産して家で子育てしていました。同じお金を払うなら工場より母親に直接払いたいと、自宅でできる仕事として縫ってくれる人を募集しました。するとたくさんの連絡があり、しかも同じ母親ということでとても丁寧に縫ってくれるのです。まだビジネスという意識は低く、文化祭のような感覚でした。新しいライフスタイルを提案するのだとみんなで盛り上がりました。私自身は助産院を訪ねて商品を紹介したり、子どもと公園に出向いてお母さんたちに商品を紹介したりしました。でも売れない。赤ちゃんに配慮してボタンやファスナーをなくし肌触りの良いものにしたのに、手にも取ってくれないのです。助産師さんにもやめた方がいいと言われました。母親は出産したら子どもに一生懸命。とても自分の授乳服には関心が向きません。せめてマタニティー服を作るよう勧められましたが、それは私の思いとは違います。

その頃の日本には、授乳服がほとんどありませんでした。試しに海外通販で取り寄せたところ、子どもが隣にいるにもかかわらず着るだけで驚くような自信と解放感が得られました。「どこにでも行けるし、何でもできる!」。私は岡山県から東京の大学に進学しましたが、あのときと同じような解放感です。こういう子育てのライフスタイルをどうしても同じ母親たちに伝えたいと思いました。地元では見向きもされないので、子育て関連のミニコミ誌や育児雑誌、フリーマーケット(フリマ)雑誌などになりふり構わず手紙を書き、商品を紹介してほしいと訴えました。カタログを作るお金などありません。自宅に来たママ友に着てもらって写真を撮り、それに布見本を付けるという手作り感満載で手紙を送りました。最初の売り上げは数万円でしたが、通信社に記事として取り上げられたことで全国的に知られるようになり、3年くらいで売り上げが1000万円に達しました。

自宅の隣にあった物件を月5000円で借りて事務所にし、2002年に法人化、いよいよモーハウス事業に専念します。とはいえ私にとっては常に子どもと一緒にいることが最優先。01年に3人目となる長男を妊娠した際は岡山の実家に一時的に里帰りし、その間、仕事はスタッフに任せました。05年には東京の青山通り沿いに出店し、07年につくば市内にあった西武筑波店(当時)にも店を出しました。創業当初から私は子連れで働いていたのでスタッフも皆、子連れが当たり前です。でも当時は「百貨店として初めての子連れ出勤」と話題になりました。

普通の会社なら出産すると仕事を休みますが、モーハウスは出産すると子連れで働き始めます。母親は赤ちゃんの体調次第で仕事を休むこともあるのでシフト調整は大変。でも「子供がいるから働けない」「保育所に入るまでは仕事ができない」といった状況から一歩踏み出した働き方を提案できたと思っています。これまで延べ300人以上と一緒に仕事をしてきました。出産しても働けることで、女性が自分に自信を持ってくれたらうれしいと思い、見学会やインターンシップ、視察なども受け入れています。

子どもへの「ごめんなさい」、なくした働き方に

育児と仕事のバランスは人さまざま。私にとっては子どもと一緒にいて、それぞれが好きに過ごすという形がベストでした。だから一緒にいるといっても遊んだり抱っこしたりしていたわけではありません。子どもが小学生の時は宿題をする隣で仕事をしていました。息子はじっとしていられないので、何か「仕事」をさせるようにしました。たとえば、仕事場にあるコピー用紙30箱を隣の部屋に運ばせるとか。お手伝いがあると喜んでやってくれます。

子どもは母親が仕事をしていても、そばにいるだけで安心するはず。母親も子どもがそばにいることで安心して仕事ができます。私自身も両親が食器店を営んでいたので共働き家庭に育ちましたが、親がどこで何をしているのか分かっていたので寂しいとは感じませんでした。

私が子どもに罪悪感を抱くとすれば、それは幼稚園などのお迎えに遅れるとき。一緒にいればそうした罪悪感を抱かずに済むわけです。子どもへの「ごめんなさい」をなくしてきた結果がモーハウスという働き方でした。私は仕事に一生懸命でしたが、子どもに対して申し訳ないと思ったことは1度もありません。

子どもにとって仕事は敵ではありません。長男は幼い頃、休みの日に外出すると地下鉄でひっくり返って泣き出すなどしましたが、職場ではそういうことはありませんでした。

私は生活と仕事を分けると自分が苦しくなります。できるだけラクに働きたいといろいろ考えて行きついたのが今のスタイルです。その考えに共感し、一緒に働く若い女性が「もう1人欲しくなりました」と言ってくれるとうれしい気持ちになります。

ワークライフバランスとよく言われますが、私にとってはワークもライフも一緒。ワークライフミックスです。ただし、子どもが大好きで常に一緒にいたいというのとはちょっと違って、適度な距離感が親子関係を良好にしてくれました。

「毒親」の要素 2人目誕生で吹っ切れる

コロナ禍で在宅勤務が広がりました。子連れ在宅勤務は子連れ出勤よりずっと大変です。場所が変わらないから、子どもは切り替えられないのです。対策としては例えば家の中で「これから仕事を始めます」と、子どもにも始業が分かるようにマットを敷いて遊びの場を作るとか、何かしらの工夫が必要です。もっとも子連れ出勤を経験している人の方が子どもがいるなかでの在宅勤務も容易でしょう。小さい頃から仕事する母親の姿を見ているので、子どもも理解しやすいのです。私は、親の働く姿を積極的に見せることをお勧めします。

先ほど申し上げたように、私の場合、子どもとの適度な距離感は仕事があるからこそ保てるのです。自分には子どもに過干渉になってしまう「毒親」の要素があると感じています。例えば幼少期。長女はNICUで一時期を過ごしたので、当時の私は「大きく育てなきゃ」と必死でした。一生懸命離乳食を作っては食べてくれないとイライラ。一心に取り組むあまり、日光浴は時間を計って毎日エクセルで管理していたほどです。

吹っ切れたのは2人目が生まれたからです。1人目の時の経験から、離乳食も無理に与えるより、いつか時がくれば自分で食べるだろうと放っておきました。すると、あるとき、のり巻きをムギュっとわしづかみにしてむしゃむしゃ食べ始めたのです。母親がイライラしていたら子どもにも伝わるもの。自分自身が気持ちよく過ごすことが子どものためにも大切だと感じました。

その後も子どもを過度に管理しそうな場面はありました。この悪い癖は長女の大学受験でも再発し、エクセルで時間管理を始めてしまったことも。だから、仕事中心で子どもを見ないくらいが私たち親子にはちょうどいい距離感。仕事のおかげでいいバランスを見いだすことができました。

「娘ならどうにかなる」 中学で短期留学に出す

3人の子育て中、食事だって毎回きちんと作っていたわけではありません。ある時、ふろふき大根を大量に作りました。なかなか食べきれないので翌日もその翌日もふろふき大根が続きます。いいかげん子どもが文句を言い始めたので「じゃあ自分たちで作ったら?」と。子どもたちは小学生の頃から自分たちで食事を作るようになりました。

テレビドラマに出てくる理想の女性、理想の母親像に女性自身が縛られる部分もあるかもしれません。でも大切なことは「自分がどうしたいか、どうありたいか」です。仕事でなくとも、例えばボランティアか何かを子どもと一緒にすることでもいい。自分の世界を持つことで子どもとのいい距離感を築けるかもしれません。周りの意見を気にする必要はありません。子育てのゴールとは、子どもの自立だと思います。

娘は中学生の時にオランダに短期留学に行きたいというので1人で行かせました。周りは驚いていましたが、私は「娘なら海外に放り出されても1人でどうにかするだろう」という自信がありました。小さな時から親以外の多くの人と関わってきたからかもしれません。

今は3人とも成人し、長女と次女は社会人になりました。息子は大学生で、下の2人はつくば市の我が家で一緒に暮らしています。私自身は子連れ出勤を生涯の研究テーマとして、勉強中です。この春、修士課程を修了、春から博士課程に挑戦です。子連れ出勤が私にとってラクだったのは、そこになにか真実があるのではないかと考え、研究を進めます。子どもには「大学院の授業料が払えなくなったらよろしくね」と伝えています。

(聞き手は編集委員 中村奈都子)

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