鞘師里保 「世界は広い」と感じたくて卒業を決めた
鞘師里保インタビュー(下)
2015年にモーニング娘。を卒業した鞘師里保が、20年に芸能活動をリスタート。5年前と大きく変わったと思うのは、多様性が認められるようになってきたことと語る。こうした芸能界の変化を客観的に見つめることができるようになったのは、モーニング娘。を卒業後、単身ニューヨークに渡って英語やダンスを学ぶなど、様々な経験を積んだことも大きく影響しているようだ。ではなぜ、海外に行こうと思ったのだろうか。
「17歳の時に、モーニング娘。のコンサートでニューヨークに行ったんですけど、それが改めて自分の将来を見つめ直すきっかけになったんです。現地のコーディネーターさんに、『海外に行って英語を勉強したい』とポロっと話したら、とても軽いノリで『今行けば間に合うよ!』と言われて(笑)。
それまでは一歩を踏み出せないことが多かったので、そういう自分を少しでも変えたいと思ったんです。自分の目で見たアメリカは想像と全く違っていましたし、『もっと世界は広いんだ』ということを感じたくて、ポジティブな気持ちから卒業を決めました。
ニューヨークでは、有名なダンススクールを4つ掛け持ちしていました。ダンスでは、『ストリートジャズ』のクラスに行くことが多かったですね。というのも、先生によって踊りのスタイルがヒップホップやロックだったりと全く違って、創作ダンスに近いところが面白くて。
特に印象に残っているのは、プエルトリコ人の先生。『どこの関節を使って踊っているんだろう?』と思っちゃうような軟体動物みたいなダンスで、どうやって音を取っているのかも全然分かりませんでした(笑)。
それに、生徒たちも先生のマネじゃなく、あくまでもそれを材料に自分自身のダンスをするんですよね。だから、どんな踊り方をしても『すごい!』と褒められる。日本にいた頃は、リズムに合ったキレのいいダンスが1番カッコいいと思っていた私にとっては衝撃でした。英語やダンスを習っている以外の時間には、現地に住んでいる日本人の方から、古着屋、美術館、舞台などオススメの場所を教えてもらって、いろんなものを見て感じ取ろうとしてましたね」
留学で価値観が大きく変化
「そんな毎日を過ごすなかで、自分の考え方や価値観も大きく変わっていきました。以前は、周りにどう思われるかを気にしすぎていたり、憧れている人のようになりたいという思いが強かった。でも、1人ニューヨークで生活するなかで、徐々に自分と向き合えるようになり、『自分らしく生きていかないと意味がない』と考えるようになりました。
同時に、やっぱり私はパフォーマンスをすることが好きなんだと気づいたんです。仮に芸能界じゃなくてもいいからステージに立ちたい、そう強く思うようになりました。ありがたいことに帰国してから声を掛けて下さる人がいて、自然と戻れる形となったことには本当に感謝しています」
新しい事務所は、篠原涼子らが所属するジャパン・ミュージックエンターテインメントということもあり、再始動を機に女優業にも力を入れ始めた。歌手業と近い部分も数多くあるという。
「モーニング娘。時代にも、舞台などで演技をやったことはあったんですが、すごい苦手意識があって……。ただ、自分の引き出しをもっと増やしたいと始めたことなので、トライアンドエラーを重ねながら頑張っているところです。最近は演技って、歌やダンスに通ずる部分があるなと感じていて。私の芝居に、相手の役者さんがその人なりの芝居を返してくれた時に、すごく楽しいなって思えるんです。それって、ライブパフォーマンスに対して、観客の皆さんが声援や笑顔で返してくれるのに近いのかなって。今後はアクションにも挑戦してみたいし、今は難しいかもしれないですけど、海外作品のオーディションなども受けてみたいなと思いますね。
5月に開催するライブは、選曲、振り付け、演出などにも初めて自分が携わる公演になります。なので17歳の時とは違うパフォーマンスを見せたいですね。今は多くのものが動画で見られるけど、『やっぱり生で見るほうがいい!』と言ってもらえるものにしたいと思います。
今後も、様々な活動を並行して行えればと思うんですが、音楽をやっている時は『歌手だね』、芝居をやっている時は『女優だね』と言われるよう、それぞれの道をちゃんと突き詰めていくのが理想です。
あと、いい意味でファンの方を裏切るようなことにも挑戦したくて。YouTubeチャンネルを開設して、いろんな場所で私がストリートダンスをする動画を上げたら、ファンの人も驚くかなとか。急に陶芸家の道に進むなんて言い出してみても面白いのかなって思ったりしています(笑)」
(ライター 阿部裕華)
[日経エンタテインメント! 2021年3月号の記事を再構成]
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