――創業者はなかなか任せる経営を実践できないトップが多いのですが。

「入院した当初も『病室支店』に移転するといって、業務をこなしましたが、長期入院になると、強制的に仕事から離れることになります。(パナソニック創業者の)松下幸之助さんは『おカネがなかった』『学歴がなかった』そして『体が弱った』から会社を成功に導くことができたというような話を残しています。弱みは強みに変えられるわけです。私の場合はまだ30代前半ですが、入院を強いられたので、自然と任せる経営に移行できた。今は『自走型組織』になっています」

――ダイバーシティーを重視する企業が増えています。

「ミライロは私のほかに視覚障害や聴覚障害のある社員、LGBT(性的少数者)の社員もいます。多様性重視の企業は増えていますが、ミライロは彼らの視点をベースにビジネスを次々と創出しています。ユニバーサルマナー検定というサービスを手掛け、約10万人が受講しています」

ユニバーサルマナーに関する授賞式であいさつする垣内氏

「例えば、飲食店に車いすのお客さんが入ってくると、多くの店員さんはテーブルのいすをどけ、車いすのまま席に着くことがいいと思うでしょう。しかし、実際は車いすからテーブルのいすに移りたい人もいるのです。姿勢を変えたいとか、移った方が食事がしやすいと思っている人もいますから。その場合、店員は従来の固定概念を押しつけるのではなく、選択肢を問う必要があります。こうした多様な視点やニーズをまとめ、ユニバーサルマナー検定では障害のある講師が伝え、社会に浸透させようとしています」

やりがい・報酬・人間関係が社員には重要

――社員のモチベーションを上げるため、どんな工夫をしていますか。

「仕事のやりがい、報酬、そして人間関係の3点が重要な要素だと思っています。このうち1つが欠落しても社員は辞めないけれど、2つ欠落すると辞める社員が増えます。創業して10年になりますが、最初の数年はもうからなくて私の役員報酬はゼロ、社員の給料も安かった。ただ、やりがいがあるし、人間関係も良好だった。最近は当初と比べると給料も上がってきましたが、組織が大きくなるとひずみも出てくる。『食う、寝る、遊ぶ』を大事にし、意識的に一緒に食事し、遊ぶ機会を設けています。現在は新型コロナウイルス感染が広がっているので、オンラインでゲームや会食をやったりしています」

――人材採用や育成で心がけている点はありますか。

「新卒や中途の採用は困っていません。自分の家族が障害者で社会貢献のためという人もいれば、バリアフリー関連のビジネスは成長性が高いと入社してくる社員もいます。ミライロはボランティアではないが、利益第一主義の会社でもないので、この人材のバランス感覚が大事だと思っています。とにかくいろいろな人材がいた方がいいと考えています。転職者は即戦力を求めがちですが、遅咲きの人がいてもいい。仕事が遅いのはそれだけ慎重で丁寧に業務をこなすからかもしれない」

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