ビールの代わりじゃない 個性豊かな新ノンアルビール
ノンアルコール・ビールテイスト飲料(以下、ノンアルコールビール)は、飲酒できないときに飲む「ビールの代替」だけでなく、気分や状況、体調などに合わせて積極的に選択して飲むものへと進化している。新型コロナウイルス禍で在宅時間が長くなるとともに、ノンアルコールビールの飲用機会も増えた。伸長を続けるノンアルコールビール市場の現状について、各社の動きを追った。
ビール類の市場が縮小する中、ノンアルコールビール市場は伸長し続けている。0.00%のノンアルコールビールが誕生した2009年と比較すると、ビール類の出荷数量は72%に減少したが、ノンアルコールビールは4倍以上に増加。コロナ禍の20年度も、前年比3%増と好調に推移している(いずれもキリン推計)。
市場拡大の要因は、ノンアルコールビールの飲用シーンが広がっているからだ。
日本の酒税法では、酒類を「アルコール分1度以上の飲料」と定めている。つまり含有アルコール量が1%未満であればノンアルコールと分類され、パッケージに記載する名称も「炭酸飲料」となる。しかし、たとえ微量でもアルコールを含んでいるものは、体質や飲む量によって酔う可能性がないとは言い切れない。
そもそも0.00%のノンアルコールビールは、飲酒運転を撲滅したいという思いからキリンビールが09年に世界で初めて開発した。それに他社も追随。日本の飲料メーカー各社は自主基準でアルコールが全く含まれない「アルコール0.00%」の飲料のみを「ノンアルコール」と定義している。
そうした背景から、日本ではノンアルコールビールといえば、車を運転する人や、妊娠中や授乳中などで「飲酒したいが、飲めない事情があるとき」にビールの代替として定着した。
だが、発売から10年以上たった今、ノンアルコールビールの認知は高まり、味わいも進化。ビールの代替としてだけでなく、リフレッシュしたいときや健康を気遣いたいときなどに積極的に選ばれるようになり、商品数も増えてきた。特に健康意識の高まりに対して、各社は内臓脂肪を減らしたり、尿酸値を下げたりする機能性の高いノンアルコールビールも開発。そして「コロナ禍で健康意識がさらに高まり、市場も広がった」と各社は口をそろえる。
各社のノンアルコールビールの個性
ノンアルコールビールの飲用を促す健康意識は、大きく2つに分けることができる。気分転換や爽快感を味わうために飲みたいタイプと、体脂肪など健康指標や体形などを気にして飲みたいタイプ。各社はそれぞれのニーズに対応する商品をラインアップしている。
アサヒビールの「アサヒ ドライゼロ」は、16年から5年連続で最も売れているノンアルコールビールだ(インテージSRI調べ)。ビールらしい味わいが特徴で、アサヒビール マーケティング本部 新価値創造推進部担当課長の吉岡孝太氏は、「アサヒ スーパードライファンの休肝日に飲んでもらうイメージ。12年の発売から毎年味を磨き続けており、麦らしいビールの風味を持ちつつ、炭酸の刺激は強め。爽快に飲めてスッキリしたキレがある」と説明する。その一方で、より健康意識の高い人に向けた「食後の血中中性脂肪の上昇をおだやかにする」という特定保健用食品の「アサヒヘルシースタイル」も用意している。
キリンビールは、「本格的」「健康的」「爽快感」の3つのカテゴリーで、4種類のノンアルコールビールを取りそろえている。本格的なビールの味わいを求める人には「零ICHI」、健康を強く意識する人には「カラダFREE」と「パーフェクトフリー」、気分爽快にビールのおいしさを楽しみたい人には「グリーンズフリー」と分類。21年2月にリニューアル発売した「グリーンズフリー」は、ビールと同じ原材料でつくる"とびきりおいしいノンアル"を目指したという。
キリンビール マーケティング本部マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当の久保育子氏は、「ノンアルコールビールの課題は味。どんなに厳選した素材でつくっても、おいしくなければ買ってもらえない」と話す。
機能性表示食品「カラダFREE」は、1日1本、12週間飲み続けることで「お腹まわりの脂肪を減らす」というユニークな商品だ。熟成させたホップの苦味成分である「熟成ホップ由来苦味酸」に体脂肪を低減させる効果があることを発見し、10年かけて開発。サプリメントのような新たな価値を創出した。売れ行きは好調で、「19年10月の発売から20年2月末までの累計販売数量は、350ミリリットル缶で5000万本を突破した」とキリンビール マーケティング本部マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当の村井志帆氏は話す。
サントリーのオールフリーは、10年の発売当初から健康がテーマで、糖質・カロリー・プリン体ともにゼロ。サントリービール マーケティング本部の畑中和也氏は、「お酒を飲めるけどあえて飲まないという価値観を、いち早く打ち出してきた」と言う。酔わずに健康的にスカッとできる「オールフリー」と、内臓脂肪を減らす機能がありながらビール好きが満足する味わいの「からだを想うオールフリー」の2本柱で展開。20年のオールフリーブランドの出荷数は、前年比8%増で過去最高を更新したという(サントリー調べ)。
各商品の特徴は、パッケージデザインにも反映されている。アサヒ ドライゼロは、アサヒ スーパードライと同じ、シルバーを基調としたデザインだ。ビールらしさを追求していることが伝わってくる。オールフリーは、ビールらしさとは真逆の白を基調にしたデザインを採用。「糖質、カロリー、プリン体ゼロ」の表記をチェックボックス付きにして目立たせ、爽快な気持ち良さと健康価値の両立を目指した。
キリンビールのカラダFREEは、21年3月上旬にリニューアルし、順次パッケージを切り替えるという。目指したのは、体脂肪を減らす機能性と爽快なおいしさを感じられるデザイン。「カラダFREE」というロゴは、文字と文字の間を広めに取った独特のバランスが目を引く。
「微アル」という新たな市場の創出
海外では節度を持って、自分らしくお酒を楽しむスタイルが浸透しているといわれる。お酒を飲めるが、あえて飲まない、もしくは積極的に低アルコールやノンアルコールを選ぶスタイルを「ソバーキュリアス」と呼ぶ。そんな文化を日本でも広げようと20年9月、「MARUKU」というノンアルコール飲料専門電子商取引(EC)サイトがオープンした。主宰するのは小説家の桜井鈴茂氏だ。国内外のえりすぐりのノンアルコールビールを取りそろえ、オリジナルの0.00%の国産ビールも販売している。
アサヒビールも海外の動向を踏まえ、アルコール0.5%の「微アル」というカテゴリーを新たに創出すると発表。第1弾の商品として、21年3月末、アルコール0.5%の「アサヒ ビアリー」を発売した。ビールを醸造してから、アルコール分のみを取り除く「脱アルコール」という製法により、本格的なビールのような味わいを低アルコールで楽しめる商品だ。アルコール0.5%は炭酸飲料に分類されるが、ビールテイスト飲料として販売していく。「ゴクゴク飲み干すのではなく、自分の時間を楽しみながらゆっくり飲む。そんなお酒との新しい関わり合い方を提案していきたい」と話すのは、アサヒビール マーケティング本部 新価値創造推進部の小野祐花里主任。
飲酒運転を撲滅したいという思いから誕生したノンアルコール市場は、酒類の新しい楽しみ方や文化へと発展している。キリンビールはCSV(共通価値の創造)経営の一環である「健康」と「酒類メーカーとしての責任」の取り組みとして、今後もノンアルコール飲料に注力していく計画だ。一方、サントリーにとってノンアルコール飲料の位置付けは、酒文化を絶やさないためにも、酒類から離れる需要を受け止める存在だという。
アサヒビールは、飲む人も飲まない人もお互いが尊重し合える社会の実現を目指し、「スマートドリンキング」というプロジェクトを立ち上げた。ビアリーだけでなく、今後は微アルの商品を拡充させていく予定。25年までに、アルコール度数3.5%以下の商品構成比を20%まで拡大することを目指すという。
(ライター 西山薫)
[日経クロストレンド 2021年4月8日の記事を再構成]
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