「教育は究極のヘルスケアじゃないですか?」

――なるほど、確かに今おっしゃったようなメリットは測定しにくいですね。

荒木 ペーパーテストで評価したり、通知表に書いたりもしにくいですよね。つまり、ゲームのデメリットは定量評価されやすく、メリットは評価しにくいという構造があります。逆に言えば、ペーパーテストで測りづらいため、非認知スキルと言われるわけですが。だからこそ、ゲーム(eスポーツ)の学習効果のようなものをきちんと「見える化」することが必要だと強く感じています。今回はパフォーマンスを評価するルーブリックという指標を活用しながら検証しました。山本先生と一緒に、非認知スキルとeスポーツで得られるスキルとのひもづけをしようとしています。

新巽中学校の山本先生

山本 体育大会や文化発表会などの学校行事で活躍する生徒とはまた違う生徒たちが、がぜん、力を発揮していたことが印象深いです。eスポーツは身体的な差を意識することなく取り組めるので、生徒のほうから当然のように男女混合でのチーム編成を提案されたことにも、新鮮な驚きがありました。ゲームを含むあらゆるテクノロジーの可能性に学校現場が向き合い、一方的にゲームは悪だと決めつけることなく、これからも生徒たちと一緒になってその善しあしを考えていければと思っています。

――親御さんたちは、今回の取り組みをどう見ていたのでしょうか

荒木 「生野っこチャレンジ」のアンケートを見ると、ポジティブな感想が多かったですよ。「ゲームばかりでこの子は一体何をしているのだろう」と思っていた親御さんがいたのですが、実は得られるものはたくさんあるんだってわかった、という感想を寄せてくれました。ほかにも、オンラインで人間関係を築くことは今後ますます重要になるのではないか、という意見もありました。

――今後はどのような展開を考えていますか。

山本 パソコンやタブレットなどが学校現場に配られてインフラが整ってきているので、あとはそれを使ってどう実践するかになってきます。他の学校でも総合の学習の中で使えるようにしていってもらったらいいなと思います。

荒木 総合学習用にパッケージ化できるといいですよね。また、eスポーツだけではなく、例えば海洋生物の探究とか、いろいろな分野が考えられます。生徒の興味は多様ですので。

山本 ただ、危惧していることもあります。今回はグーグルから無償提供された端末を活用してeスポーツ大会を実施しましたが、これから行政が学校に配る端末には様々な利用制限がかかっており、ゲームはおろかユーチューブなども十分に見られない場合もあると耳にします。学校現場のニーズに即した授業の実施など、配布される端末の活用自由度が上がると積極的にチャレンジする学校が増えるのではないでしょうか。

――最後にもう一度、お聞きします。なぜロートが教育に関わっているのですか。

荒木 僕が経産省から移ってきて、そのときにできたのが未来社会デザイン室です。ミッションは30年後を考えることです。そうすると、まず考えるべきことはやはり、教育だということになります。日本の人口は減っていく一方。にもかかわらず、児童虐待は深刻だし、子どもの自殺だって深刻。先行きが不透明で悲壮感すら漂っています。だからこそ、一人ひとりの子どもを大事にして、それぞれの個性や才覚をきちんと表現できる手段や場所をつくりたい。それぞれの子たちが「自分らしさ」を発見・探究できることにつなげていけたらと思います。

――荒木さんご自身のお考えはよくわかりました。それでも、なぜロートがこのようなことをやろうとしているのかが、ちょっと謎なのですが。

荒木 「製薬会社が教育の取り組みを実施すること」に高い価値を感じていまして、特に、身体的、精神的、社会的、道徳的な健康は、教育を入り口にするとすごくつながって見えるんです。教育って、究極のヘルスケアだと思いませんか?

(聞き手 桜井陽)

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