『ミナリ』主演俳優 自身の体験重なる移民の父の孤独俳優スティーヴン・ユァン インタビュー

日経エンタテインメント!

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本年度のアカデミー賞候補作として大きな注目を集めている映画『ミナリ』。アメリカへ移民した韓国人一家のドラマで、アメリカ映画ながら会話の多くを韓国語が占めるこの作品は、ハリウッドが求める多様性を象徴しつつ、国境を越えてアピールする普遍性も備える。一家の長であるジェイコブを演じるのは、ドラマ『ウォーキング・デッド』シリーズ(2010年~16年出演)で人気を集め、韓国映画『バーニング 劇場版』(18年)などにも出演、ハリウッドと韓国で活躍を続けるスティーヴン・ユァン。『ミナリ』はオファーを受けたときから、特別な作品になる確信があったと語り始めた。

たくましく生きる韓国系移民一家を描く『ミナリ』 (C)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

「基本的に僕は、やりたい作品を探すというより、持ち込まれた企画を引き受けるパターンが多いんです。アジア系の俳優へのオファーはまだまだ少ないですし、『こういう作品に出たい』と考えすぎると、逆に役を掘り下げる部分が狭くなってしまうと思うからです。

この『ミナリ』も僕のエージェントから勧められた作品で、概要を読んでみたところ、僕が伝えたいドラマをすべて語っていると実感しました。移民の家族の物語って、マジョリティーの視点から彼らへの差別や抑圧が描かれることが多いですが、『ミナリ』は主人公の家族に価値があることを追求していた。そこが勇敢で新鮮に感じ、ぜひ参加したいと決意しました」

『ミナリ』は、同じく韓国系のリー・アイザック・チョン監督が、自身の幼少期をヒントに脚本を執筆。チョン監督は、日本の大ヒット作『君の名は。』(16年)のハリウッド実写版リメイクも任されている、前途有望な才能である。監督とはどんな関係を築いていったのだろうか。

「実はアイザックは、僕の妻のいとこなんです。ただ、これまで2回くらいしか会ったことがなくて、『ミナリ』の企画が持ち込まれたときに、『あなたのいとこが監督ですよ』と言われても、ピンときませんでした。『えっ、誰それ?』という感じ(笑)。

アイザックは撮影準備が完璧で、2テイクか3テイクを撮って、どんどん進めていくタイプです。かと言って、イメージをガチガチに固めて俳優に要求するわけでなく、かなり自由に演じることができましたね。ある日の撮影が終わって、夕日があまりにきれいだったので僕がタバコを吸っていたら、たまたまカメラマンに撮影されていて、それが本編で使われていたり……。そんなリラックスした現場でした」

共感できた移民の孤立感

スティーヴン自身も韓国・ソウルに生まれながら、幼少期にカナダへ、その後アメリカへと移住した。演じたジェイコブの家族と重なり合う部分も発見できたはずだ。ただ、スティーヴン自身は両親に連れられてきた「子ども」の立場であったわけで、今回演じるのは「父親」の立場だ。ロサンゼルスからアーカンソー州へ移り、自力で農地を開拓しようとするジェイコブは、心臓に疾患を抱える息子を心配する妻と対立し、孤独感にもさいなまれる。

「4歳の時に移民として新しい土地に来た僕は、韓国人としての空間、そしてアメリカ人としての空間の両方で、うまくやっていく術を学びました。でも、その結果分かったのは、両方の空間から誤解も受けてしまうということ。つまり、自分だけ独自の空間にいるような孤立感を味わったんです。それはある意味、正直な感覚。だから、ジェイコブが置かれる孤独な立場は共感できました。一方で、ジェイコブは、運命を強引に自分でコントロールしようとします。彼の欠点は、家族と分かち合う気持ちを忘れている点でしょう。それを謙虚に学んでいく過程を、僕は演技で表現しようと思いました。

韓国系アメリカ人である自分のアイデンティティを、僕はこうして仕事で少しずつ理解しているのかもしれません」

『ミナリ』
(C)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
1980年代、農業での成功を夢見てアーカンソー州に移住してきたジェイコブの一家。妻モニカはトレーラーハウスでの生活に不安を抱くが、子どもたちは新天地になじんでいく。やがて韓国から破天荒で毒舌の義母スンジャもやって来た。家族の絆で困難を1つひとつ乗り越えていく一家だったが……。出演はハン・イェリ、ユン・ヨジョンなど。(ギャガ配給/公開中)
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スティーヴン・ユァン
1983年生まれ、韓国・ソウル出身。大ヒットドラマ『ウォーキング・デッド』シリーズのグレン役(2010~16年)で人気を獲得し、映画『バーニング 劇場版』(18年)で全米映画批評家協会賞など数々の賞に輝き、演技派俳優としての地位を確立。主な出演作に『Okja/オクジャ』(17年)、『Z Inc. ゼット・インク』(17年)、『ホワイト・ボイス』(18年)など。

(ライター 斉藤博昭)

[日経エンタテインメント! 2021年4月号の記事を再構成]

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