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考古学にゲームの技術 1800年前の鎖かたびらの謎解く

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ナショナルジオグラフィック日本版

西暦200年ごろ、現在のデンマークのどこかで、地位の高いゲルマン人戦士が討ち死にした。戦いが終わると勝利者は、2万個近い小さな鉄の輪をつないだ貴重な鎖かたびらをその戦士からはぎ取った。そして、勝利に感謝して、神への生け贄(いけにえ)として沼に投げ込んだ。

「ヴィーモーセ・コート」と呼ばれる重さ約10キロのこの鎖かたびらは、19世紀後半、デンマークのヴィーモーセ近郊で考古学者によって発見された。沼の中が低酸素だったおかげで、保存状態はほぼ完璧だ。

投げ入れられてから1800年以上が経過した鎖かたびらは、当時どのように着用されていたのか。そして、持ち主の体をどのように覆っていたのか。研究者たちは、ビデオゲームで培われた技術を用いることにより、実際に鎧を着用することなく、こうした謎を解き明かした。この研究の最終報告は、2021年3月31日付で学術誌「Journal of Cultural Heritage」に掲載された。

通常の衣服を研究するのであれば、比較的、苦労は少ない。生地の伸び方、折りたたまれ方、垂れ下がり方はよく知られている。「生地の場合、伸縮性があり、柔らかく、それほど重くありません。重力に対する反応の仕方も一定しています」。今回の研究の共著者で、ロシアのサンクトペテルブルク国立産業技術デザイン大学のコンピューター科学者であるアレクセイ・モスクビン氏はそう話す。

しかし、鎖かたびらがどのように着用されていたかを復元することは、実に難しい。鎖かたびらは紀元前300年ごろに登場し、ゲルマン民族からローマ軍団の兵士、スペインの征服者まで、あらゆる人々に何世紀にもわたって戦場で着用されてきた。それを構成する何千もの小さな金属製の輪は、それぞれが異なっている。1つの輪にかかる重力は、他の輪の並び方や動きに複雑に影響し合っている。鎖かたびらが机の上に平らに置かれた場合と、戦士の肩にかけられた場合とでは、ひだの付き方も異なるだろう。

苦労の理由はそれだけではない。「このような古代の遺物を、私たちが着るわけにはいきません」と、オランダのアムステルダム自由大学の考古学者で、本研究の共著者であるマルティン・ビンホーフェン氏は言う。「もし、どのように動くのかをテストしたいのであれば、他の方法を考え出さなければならないのです」

ゲーム業界で開発された最先端の技術を使って、モスクビン氏とビンホーフェン氏らはまさにそれをやってのけた。まず、デンマーク国立博物館の学芸員の許可を得て、ビンホーフェン氏が鎖かたびらをマネキンに着せ、実物がどのように見えるかを確認した。

その後、エンジンと呼ばれるビデオゲーム用のコンピューター・コードを使って、ヴィーモーセ・コートの輪一つ一つの形状を決定し、バーチャルなマネキンにコンピュータグラフィック(CG)版の鎖かたびらを「つるす」作業が行われた。最大の課題は、2万個近い輪がどのように相互作用するか、その物理的な仕組みの計算だった。「20個や100個であれば問題ありません。1万9000個となると、シミュレートするのは大変です」とモスクビン氏は言う。

コンピューターで鎖かたびらの正確な復元に成功してから、研究チームは同じような沼で発見された衣類のコンピューター・モデルを使って、フル装備の戦士が仮想の鎖かたびらを着用した場合に、それがどのように見え、フィットし、機能するかを確認した。

「このようなアプローチはとてもいいと思います」。米ウィスコンシン大学グリーンベイ校の名誉教授で、今回の研究には参加していないグレゴリー・アルドリート氏はそう言う。「こうした情報は、このようなシミュレーションを行い、さまざまな変数を調査して初めて得られるものです。彼らはそれを行ったのです。これがその成果です」

これを着て馬に乗れる? 走り回れる?

コンピューター・モデルで示されたのは例えば、鎖かたびらの上にベルトを着用することで、鎖の重さをより均等に分散させ、戦闘中のずれを防ぐことができるということだ。また、クッション性や戦闘時の保護のために厚手のフェルト製の下着を着用しても、十分な余裕と伸縮性があることもわかった。

考古学的調査で発掘された鎖かたびらの多くは、断片的であったり、腐食や損傷が激しかったりするが、ヴィーモーセ・コートは実証実験にもってこいだった。世界で最も保存状態の良い鎖かたびらの一つであることから、スコットランドのセント・アンドリュース大学の考古学者で、今回の研究には参加していないジョナサン・コールストン氏は、「このような実験の対象としては最適です」と述べる。

研究者たちは将来的に、この技術を他の鎖かたびらにも応用したいと考えている。「保存状態のよい2、3個の輪をもとに全体を復元することができます」とビンホーフェン氏は言う。

その結果、古代の武具師とその顧客にとっての優先順位を知ることができるかもしれない。体の防護を重視した、重く硬いものが好まれたのか? それとも、軽くて柔軟なものが好まれたのか? 「バーチャルリアリティー(仮想現実)では、現実では絶対にできないことを試すことができます」。ビンホーフェン氏は言う。「これを着て馬に乗れるだろうか? 走り回れるだろうか? と」

この研究は「とても役に立つ」かもしれない、とコールストン氏は言う。「着用中の動きだけでなく、飛び道具や刃物、殴打用の武器の攻撃により、実際にどのぐらいの傷を負ったかを評価するのにどこまで応用できるのか、興味深いところです」

コンピューター・シミュレーションの実証実験として始まった本研究だが、すでに新しい知見が得られている。シミュレーションによると、鎖かたびらの持ち主であったゲルマン人戦士は、柔軟性を重視し、大きくて細い輪からなる軽量な鎧(よろい)を選んだようだ。

さらに、綿密な調査のおかげで、別のことも判明した。ビンホーフェン氏によると、これまで考古学者たちは、ローマ帝国の外の「蛮族」は、自分たちで鎖かたびらを作るほど洗練されておらず、輸入した鎧やローマ軍団から略奪した装備に頼っていたと考えてきたという。

しかし、ヴィーモーセ・コートの首の開口部は、首の両側に付いたストラップを用いる仕組みで調節できるようになっており、開口部を広げたり狭めたりしてフィット感を変えられた。「これはローマ帝国では見られないユニークな特徴です」。ビンホーフェン氏は言う。「この点からだけでも、技術や社会について多くのことがわかります」

一方、今回の技術は、ビデオゲームや映画の特殊効果にも応用できる。ビデオゲームのプラットフォームの計算能力が向上していることもあり、デザイナーは大小のスクリーンに鎧をリアルに描写できる。そしていつの日か、あなたの近くの博物館にも登場するかもしれない、とビンホーフェン氏は期待する。

「バーチャルな世界でこれを着られたら、すごく楽しいと思いませんか?」

(文 ANDREW CURRY、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年4月5日付]

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