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「大人の方が好奇心を伸ばせる」 20歳化学者の思考法

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NIKKEI STYLE

外資系企業や「ほぼ日」最高財務責任者(CFO)を経て50代でベンチャー企業に転身した篠田真貴子さんをホストに、次世代のリーダーのビジョンを探るシリーズ「マキコの部屋」。今回の対談相手は、小学生から研究を始め、地球温暖化問題の解決と火星移住を目指す20歳の研究者、村木風海さんです。東京大学在学中の学生でありながら、一般社団法人炭素回収技術研究機構「CRRA(シーラ)」(東京・江東)の代表理事も務めています。「異能」と呼ばれる東大生のアタマの中では一体何が起こっているのか? 発想の原点や思考法、未来予想図を聞きました。

篠田真貴子さん(以下、マキコさん) 子供の頃、火星や月に行きたいと考えたことがあるという人は結構いると思うのですが、「火星人になりたい!」という話は初めて聞きました(笑)

村木風海さん(以下、村木さん) きっかけは小学4年生のときに、英国の物理学者のスティーブン・ホーキング博士が書いた子供向けの冒険小説「宇宙への秘密の鍵」を祖父からプレゼントされたことでした。当時の僕と同じくらいの年齢の子が宇宙を旅する物語です。

その中に「人類が地球以外に一番住めそうな星を探す」というエピソードがあって、そこには地球以外で人類が住めそうなのは「火星」だと書いてありました。「赤い砂漠に青い夕日が沈んでいった」という地球にはない神秘的な情景描写に心を奪われて、「いつか自分はここに行くんだ!」という確信のようなものが芽生えました。実際に、米航空宇宙局(NASA)探査機によって撮影された写真を見ると、火星の夕日は青なんです。

マキコさん 「火星に行きたいな」と思ったことが、どのようにして研究の道につながったのですか。

村木さん 小学生のときに、夏休みの自由研究の発展版のような、1年かけて1つの研究をするという授業がありました。その授業で「火星に住むには?」というテーマで研究をしたことが、最初のきっかけです。

マキコさん 例えば「ロケットを飛ばしたい」などではなく、どうして化学の方向に進んでいったのですか。

村木さん 火星についていろいろと調べてみると、火星の大気の95%が二酸化炭素であることがわかりました。そこに人が住めるようにするためには、まず何らかの方法で二酸化炭素を集めてどうにかする必要があるなと。

マキコさん そこから二酸化炭素の研究が始まったわけですね。

村木さん 小学5年生のとき、「二酸化炭素がいっぱいの空気の中で植物がどれくらい生きるのか?」という実験をやりました。ペットボトルの中にドライアイス(二酸化炭素)を入れて、その中に雑草を入れて蓋をする。僕は、二酸化炭素しかない空気の中ではすぐに枯れると思っていましたが、3日間くらい元気に生きていました。どうやら植物は、光合成で作り出した酸素を呼吸に回す、というすごいことをしているとわかったのですが、僕はそのとき「二酸化炭素ってすごい!」という方向にいってしまい(笑)。それ以来、二酸化炭素マニアを続けています。

マキコさん 中学に上がってからも、そのまま研究を続けていたのですか?

村木さん はい、中学2年生のときに温暖化の専門書を読んで、空気中の二酸化炭素を集める「DAC」(直接空気回収技術)という分野があることを知りました。そして中学3年生の卒業研究では二酸化炭素の回収実験に初めて成功しました。

「DAC」は二酸化炭素回収工場のような巨大装置です。しかし本気で温暖化を止めたいなら、科学に関心がない人たちにも親しんでもらえるような装置を作って、一人ひとりの意識を変えていかなければいけない。そう考え、高校2年生のときに思いついたのが世界で一番小さい装置「ひやっしー」です。

マキコさん 「ひやっしー」はどういう仕組みなのですか。

村木さん 二酸化炭素の見える化ができるようになっています。数字で「1500ppm」(ppmは微量物質の濃度を示す単位)と言われても、どれくらいの二酸化炭素が空気中にあるのかわかりにくいので、その濃度に応じて表情が変わるようにしました。この写真の顔は、よく換気された室内です。人が集まって密になると、徐々に微妙な顔になり、最後は目がバッテンになります。

それと同じ時期に「集めた二酸化炭素をエネルギーに変えられないか」ということも並行して考えていました。そして広島大学との共同研究で、二酸化炭素から直接、天然ガスであるメタンを合成する反応を見つけることができました。これは要するに、空気からエネルギーを生み出す反応が見つかったということです。

マキコさん 考えましたね。つまり「ひやっしー」で集めてきた二酸化炭素を、価値のあるエネルギーに変えることができるようになったということですね。

村木さん CRRAでは「ひやっしー」を量産して二酸化炭素回収ネットワークを作ることに成功しました。これを「一家に一台」くらいの感覚で使ってもらい、回収量をネットで見られるようにしています。集めた二酸化炭素の量に応じて「ひやっしーマイル」という交通系電子マネーとして使えるポイントがたまったり、二酸化炭素が新しい価値になる仮想通貨の経済圏を作ったりして、「二酸化炭素を集める人が報われる社会」の仕組みも作り始めています。

10年間は理解してもらえず

マキコさん お話を伺っていると、ご自身の探究心をもとにまっすぐに突き進める環境もあったのかなと感じるのですが。

村木さん 僕は小学4年生のときに転校しました。実はそれまで通っていた小学校で、いじめを受けていました。生徒からだけではなく、先生からも、勉強は頑張っていたのに「学年で一番のお前は質問するな、手をあげるな」と言われて。中学のときも、僕の考えた理論の話を先生にまったく聞いてもらえなかったり、研究に必要な薬品の使用を禁止されたりして、研究ができないこともありました。

その後も、僕の研究は日本では前例がほとんどないので、「お前の研究は何が面白いんだ、そんなのすぐにやめちまえ」と言われたり、学会でも白い目で見られたり。僕の11年間の研究の中で、10年間くらいは周りから理解してもらえず、本当にしんどかったですね。

マキコさん 好奇心を持つことを、許されない場面と育まれる場面があって、それはある意味、運で決まるようなところがありますよね。

村木さん 僕は今、ちょうど20歳です。年齢的に大人の仲間入りをして思うのは、「大人のほうが好奇心を伸ばせる」ということ。僕は好奇心を伸ばすのは「ググることと電話すること」がすべてだと思っています。子供は自由に制約がありますが、大人はググる(グーグルで検索する)ことも電話することも、いつでも自由に自分だけの判断でできる。それは大人の特権だと思います。

「周りに否定されたから自分は好奇心に従えない」と思いがちですが、それは結局、人のせいにしているだけなのではないかと思います。

マキコさん 確かに、やろうと思えばいくらでもやれる環境があるのに、そのメリットに気付かないことが多かったような気がします。

村木さん 先ほど広島大学との共同研究で空気からエネルギーを生み出す反応を見つけたと言いましたが、これもきっかけはググったことです。

「集めた二酸化炭素で何かエネルギーが作れないか?」と思って検索していたら、広島大学の教授のスライドが出てきて、そこに書かれていたメールアドレスに「今から広島に行ってもいいでしょうか?」と送ったら「いいよ、おいで」とすぐに返事がきました。見学だけさせてもらうつもりでしたが、教授が「君、うちで研究していかないか?」と言ってくれて。長期休暇のときに1週間、一緒に研究をさせてもらいました。

実は僕が見つけた反応「二酸化炭素を直接メタンに変換する」というのは、100年くらい前にすでに発見されていた反応です。ただ、希少で高価で非常に扱いにくい金属を触媒とするものだったので、実用化できるようなものではありませんでした。

実験はなかなかうまくいかず、帰りのバスの時間が迫る中、机の上に置いてあったアルミホイルがふと目に入りました。化学の世界では「起こるわけがない」と言われていた反応だったのですが、そのときなぜか「うまくいくんじゃ」と思い、二酸化炭素と水とアルミホイルを混ぜて機械でシェイク。するとパソコン上にメタンを示すピークが「ピコーン!」と現れ、研究室に「うわぁー!」と歓声があがりました。

それまで無理だと思われていた反応の最初の一歩を踏み出せたのは「ググってメールを送った」から。それがなかったら今の僕はありません。

若い世代は未来から来た「先輩」

マキコさん 11年間研究してきて、そのうちの10年はつらかったとおっしゃいましたが、これまで続けてこられたのは「好きだから」でしょうか。

村木さん それもありますが、もう1つ、僕がいつもやっている思考法があります。中学の先生に薬品の使用を禁止されたとき、悔しくて先生が目を離したすきに薬品を使ってこっそり実験をやったんです。そしたら先生が無理だと言っていた実験が成功して。そんな経験がいくつかあって、誰かに頭ごなしに無理だと言われたときは、「これは成功するぞ!」と思い込むようにしています。暗示の力は自分が思っている以上に大きい。結果的に僕は今まで、無理だと言われた実験は全部うまくいっています。

マキコさん うまくいくという自分の意思がない限り、うまくいかないですよね。

村木さん 思い込むことって、とても大事です。僕は「2045年までに火星人になります」と宣言していますが、できる根拠はゼロで、自信もゼロです。でも2045年に僕が人類で最初に火星に降り立つことは「歴史」だと、そう決めてしまう。

2045年に火星に行くためには、2030年くらいに月に行っていなければ、2025年くらいには宇宙ステーションに行っていなければ、そんな風に現在までを逆算していきます。そう考えると日々の手帳に書けるレベルで、今この瞬間にやるべきことが見えてくる。自分で歴史を作って、その歴史を再現するために今の自分は動いている。頑張って積み上げていくのではないんだという意識を持つようになってから、25年後に向けて何をすればいいのかが毎日わかるようになりました。

マキコさん 自分の未来を想像したとき、緻密にイメージできることが重要で、もっと言うと、そこまで「本気で面白がって考えられているか?」という、自分への問いかけにもなりますよね。

村木さん 「もっと現実思考になれ」と言われることもあると思いますが、現在の状況に対して現実的になるのではなく、「未来の歴史に対して現実的であれ」と僕はよく言っています。未来の歴史を作るのは自分自身で、それを再現するために動けるのは「自分の未来の歴史を一番よく知っている自分自身だ」という考え方でいつも過ごしています。

マキコさん 日本の社会では、年功序列の傾向がやや強いので、ある一定の年齢を超えないとまともに取り扱ってもらえないという風潮があることは、とてももったいないですよね。今の20歳の皆さんが考えていることが、30年後にはリアルになるはずです。未来から来た先輩だと思って、若い世代の人たちの話にももっと耳を傾ける風潮が広がっていけばいいですね。

この記事は3月23日(火)に開催した、オンラインイベント「"地球を救う"20歳のアタマの中」の内容をもとに作成しました。

篠田真貴子さん
 YeLL取締役。1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーの「YeLL」取締役に。

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