アカデミー賞直前、コロナ禍でどう開催? 有力作は?
番組案内役のジョン・カビラ、宇垣美里が見どころ解説
新型コロナウイルスによってさまざまなイベントが大きな影響を受けているが、第93回アカデミー賞授賞式も約2カ月の延期を余儀なくされた。そして、世界中の映画ファンが待ち望むなか、4月25日(米現地時間、日本時間26日)にいよいよ幕を開ける。
今年は、コロナ禍での開催ということもあり、異例尽くしの授賞式となることは間違いない。見どころについてお話をうかがったのは、アカデミー賞授賞式の生中継番組(WOWOW)で案内役を長年務めているジョン・カビラさんと今回初めて担当する宇垣美里さん。受賞予想から米ハリウッドが抱える課題まで、様々なテーマについて語っていただいた。
リモート参加を認めない方針に非難集中
――いよいよアカデミー賞授賞式が開催されますが、いまのお気持ちから教えてください。
ジョン・カビラさん(以下、カビラ):一時は開催すら危ぶまれる状況でしたが、やっとここまできたなという感じですね。とはいえ、まだ新型コロナウイルスも猛威を振るっていて油断はできないので、そんななかでアメリカのエンターテインメントの頂点とも言える映画界がどのような意地を見せてくれるのか。授賞式はスティーヴン・ソダーバーグ監督らのプロデュースということで、これまで以上に注目度も高まっていると思います。
――宇垣さんは、本番組には初出演となりますが、決まったときはいかがでしたか?
宇垣美里さん(以下、宇垣):とにかくすごくうれしかったです。アカデミー賞といえば、映画が好きな人なら注目しているイベントなので、それをみなさんと一緒に楽しめるだけでなく、伝える仕事もできるなんて、役得以外の何物でもないと思っています(笑)。
――これまでにない状況下での授賞式ということで、どうなると予想されていますか?
カビラ:まったく想像ができないので、ワクワクしかないです。
宇垣:本当に、全然予想ができないですよね。
カビラ:今回は、米ハリウッドのドルビー・シアターだけでなく、ロサンゼルスの中心部にあるターミナル駅、ユニオンステーションも使用します。果たして、会場が複数になることでどうなるのか。レッドカーペットがどのようなスタイルで行われるのか。パフォーマンスはどんな演出になるのか。ソーシャルディスタンスやマスクはどうするのか。といった具合に気になることが満載です。どこを取っても話題になる授賞式になると思います。
――確かに気になる部分が多いですね。ちなみに音楽界では、3月に開催された米グラミー賞の授賞式で主要アーティストを招待しつつ、リアルとバーチャルの双方をうまく駆使して成功を収めました。
カビラ:アカデミー賞では、ノミネートされた方はリモートでの参加ではなく、出席することになっています(※)。なので、グラミー賞のようにバーチャルでの映像が流れることは基本的にはないので、そこは大きく違うでしょうね。前哨戦となるゴールデン・グローブ賞の授賞式では、リモート中継でトラブルが続出していましたが、アカデミー賞はそんなへまはしないと期待しています(笑)。
(※)編集部注:取材時点。記事制作時点ではリモート参加を認めない当初方針に批判が集まったため、欧州会場を設置して中継を結ぶ案も浮上している。
宇垣:あと、オスカー像が手渡しされるのかも気になりますね。
カビラ:グラミー賞では、アーティストはマスクを着用するなど感染対策をしたうえで参加していたので、これまで通りステージで手渡ししていました。はたしてアカデミー賞はどうなるんでしょうか。
グッチが席巻したグラミー賞 アカデミー賞は?
――また、毎年話題になるものといえば俳優陣のファッションですが、注目されている方はいらっしゃいますか?
カビラ:男性は、基本的にみなさんタキシードでブラックタイですが、どのブランドが多いのかは個人的に気になっています。というのも、グラミー賞ではグッチが席巻していましたからね。女性の場合は、ジュエリーだけでなく、マスクとどういうふうにコーディネートするかをスタイリストやブランドの方々とセッションされているところだと思います。
宇垣:今年は華やかな場があまりなかったこともあり、期待がより高まっている部分はあります。もともと女優さんたちのドレス姿を見るのが好きなので、とても楽しみです。特に、今回は国際色も豊かなので、いままで以上に幅広い装いを見ることができるのではないかなと思っています。
カビラ:宇垣さんに近い世代だと、『The United States vs. Billie Holiday(原題)』のアンドラ・デイや『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャリー・マリガンあたりですよね。
宇垣:そうですね。あとは、『ミナリ』のユン・ヨジョンと『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』のグレン・クローズといったベテラン勢がいったいどんなドレスを着るのかが楽しみです。個人的には、コメディアンでもある俳優、サシャ・バロン・コーエンがどういうふうに来るのかも気になっています。
カビラ:確かに! 半分『シカゴ7裁判』で、半分『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』とか(笑)。でも、そんな常識はずれなことをやりかねないおもしろい男ですからね。
注目の『ノマドランド』 アジア人女性監督が初受賞なるか
――いろんな意味でファッションにも期待がかかりますね。では、作品賞についておうかがいしますが、どのように予想されていますか?
宇垣:どれもいい作品ばかりなので難しいのですが、予想と言われたら『ノマドランド』でしょうか。
カビラ:そうですね。ただ、予想サイトとかを見ていると、『シカゴ7裁判』と『ミナリ』との三つどもえとも言われています。
あとは、ノミネートの部門数の多さから見ると『Mank/マンク』もありますし、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』も音像の作り方や役者の演技が光っているなと思いました。本当にわからないですね。
――監督賞は、昨年の女性監督ゼロから一気に2人の女性監督がノミネートされて話題となっています。
カビラ:しかも、『ノマドランド』のクロエ・ジャオはアジア人女性として初ですから。
宇垣:監督賞に関しては、クロエが堅いと言っている方が多いですよね。やはりこれは、ある程度これまでの流れを受けて女性監督のノミネートが増えた部分が背景にあると思います。そこにきちんと目を向けた結果が出ているのはすごくうれしいことです。
カビラ:確かに、時代の要望に応えた形になっていると思います。もしクロエが受賞すれば、歴史に残る出来事になることは間違いないですから。そして、それは映画製作に携わっている女性やアジア系をはじめとするアメリカ出身以外の方々にとっては、強烈な励みになると思います。そうすると、今後は相乗効果でさらに質の高い作品が生まれるかもしれないですね。
宇垣:大きな影響を与えることになるでしょうね。
――その一方で、ノミネートが有力視されていた黒人女性監督のレジーナ・キングが外れてしまいました。
カビラ:僕は『あの夜、マイアミで』は作品としても大好きだったので、残念でした。でも、ノミネートの次点クラスの方はいっぱいいますから。その議論を始めると、大変なことになりますよ(笑)。
宇垣:確かに、「あの人もよかった」「この人もよかった」とたくさんいらっしゃいますからね。
カビラ:アメリカのメディアでもノミネートが発表された瞬間、「なんでレジーナ・キングが素通り?」みたいな報道がすごくて。ノミネートより、逆にそっちが盛り上がっていました。
豊富な資金力で自由なテーマ描けるNetflix作品
――『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスをはじめ、有力候補が並んでいる主演男優賞での注目はどなたですか?
宇垣:私は、昨年8月に(40代の若さにしてがんで)亡くなった『マ・レイニーのブラックボトム』主演のチャドウィック・ボーズマンに取らせてあげたいですね。ただ、それだけが理由ではなくて、この作品での彼の演技は筆舌に尽くしがたいくらいのエネルギーと絶望があり、本当に鳥肌が立つような演技でした。動きのない作品であそこまで人を引き付け、息ができないくらいの気持ちにさせるほど熱中させてしまうのは、やはり彼の熱演あってこそ。受賞にふさわしい演技だったと思っています。
――主演女優賞は、いかがでしょうか?
カビラ:『ノマドランド』が作品賞を取るとすれば、極めて可能性が高くなるのが主演のフランシス・マクドーマンド。主演女優賞には3度目のノミネートですが、ここで受賞するとなると、3度目の受賞となるので、100%の受賞確率というのは強すぎますよね。もはやメリル・ストリープを超える勢い(笑)。でも、身をていしての演技はすごかったですね。
ほかには、『マ・レイニーのブラックボトム』のビオラ・デイビスも圧倒的な才能を見せていて素晴らしいなと思いました。目だけで、背筋が冷たくなるような「圧」を表現されていたのは、見事のひと言に尽きます。
――先ほども話題に出ましたが、今年は、Netflix作品『Mank/マンク』が最多ノミネートとなりました。Netflixの強さについてはどう感じていますか?
カビラ:まずは、圧倒的な資金力がある点は、ほかとは比較にならないですよね。さらに、ハリウッドの因習からも自由で、描きたいテーマも自由、社会的にどんな物議を醸そうが自由、と。この立場は強力だなと思います。これは映画評論家の町山智浩さんがおっしゃっていたことですが、これまでのハリウッドでは映画館の組合と手を組んで一緒にやってきたからこそ、映画がここまでの隆盛を誇ることができたと。
なので、Netflixの出現によって変わってしまったハリウッドの伝統をどうしてくれるんだ、と言いたい人の気持ちもわかりますが、もう引き返すことはできないでしょうね。
宇垣:そうですね。それでも、みなさんで仲良くやっていっていただけるといいんですが……。
カビラ:映画は劇場で見るものという概念を変革してしまったNetflixですが、せっかくいい作品を生み出しているので、個人的には劇場でも公開していただきたいなというのはあります。
宇垣:限定でもいいので、それはぜひお願いしたいですね。
アカデミー賞はジェンダー・ギャップをどう乗り越える?
――ハリウッドも時代とともにいろんな変革を求められています。2024年の第96回からは、作品賞に多様性を含めた新基準を設けることになりました。そのようなアカデミー賞の姿勢については、どう感じていますか?
宇垣:すべての人に対して平等であるべきだというのは、これまでもずっと言われてきたことですし、私もそうあるべきだと思っています。とはいえ、物事というのはなかなか気持ちだけでは変わりませんので、そうやって基準を作っていくことから始めるのは大事ではないかなと。そういう意味でも必要なことだと感じています。
――世界三大映画祭の1つであるベルリン国際映画祭が、男優賞と女優賞を廃止し、性別に関係なく表彰する「主演俳優賞」と「助演俳優賞」を新設すると発表しました。今後、アカデミー賞もそのようになっていくと思われますか?
カビラ: それについてお答えする前に、南カリフォルニア大学のジャーナリズムとコミュニケーション専門の学部が行ったある調査についてご紹介したいと思います。その調査というのは、2007~15年(2011年を除く)の各年でトップ100に入った映画に登場する3万5000人以上の役柄を性別や民族、LGBT(性的少数者)であるかどうかなどで分けたり、キャストやスタッフの男女比を調べたりしているものです。
それらの結果を見ると、まだまだ驚くほどのジェンダー・ギャップがあることに気付かされます。性別による区分をなくして部門をまとめるということは、当然ノミネートされる人数も半分になりますよね?、でも、この状況で実施すれば、女性たちはさらに不利な状況に追い込まれてしまうのではないかと。そういうデータを見ると、いまは少し時期尚早かなという気がしています。「究極の公平性とは何か?」という議論になりますよね。
――いまの状況では女性たちはさらに不利になると。そうした視点も大事ですね。ところで、ほかに注目している部門や作品はありますか?
宇垣:私は長編アニメ映画賞の『ソウルフル・ワールド』。新型コロナウイルスの影響で劇場公開されませんでしたが、映像も音楽も素晴らしい作品なので、これこそ映画館で見たい作品でしたね。あとは、同じ部門の『ウルフウォーカー』も絵が美しかったので、アニメ好きとしてはこれが評価されるといいなと思っています。
――日本の歴代興行収入1位の記録を塗り替えた『鬼滅の刃』は残念ながら落選しました。これについてはどう思われましたか?
宇垣:もちろんアニメーションとしては素晴らしい作品だと思います。ただし、当たり前のようにストーリーや背景を知っている日本人に比べると、アメリカの方々にはそれがないので、そこが難しかったのかなと。でも、あのアニメーションの美しさと音楽のマッチの仕方は独特なものがあるので、脚本とアニメーションの制作を担った「ufotable」にはいつか日の目を見てほしいなと思っています。
カビラ:僕は、監督賞と同時に国際長編映画賞にノミネートされた『アナザーラウンド』。見ているだけで酔っ払っちゃうくらい主人公たちがお酒を飲んでいるんですが、本当におもしろい映画でした。日本では9月に公開されますので、ぜひ注目してください。
――最後に、授賞式をどのように楽しんでほしいか、一言メッセージをお願いします。
カビラ:今年は日本でも劇場やネット配信などで事前に見られる作品が多いので、できれば、授賞式までにご覧になって臨んでいただきたいですね。ご家族とオスカーパーティーをしながら、それぞれの好みや予想について話し合っていただくとより楽しめると思います。
宇垣:今年はいままでとはちょっと違うノミネーションがあったり、この状況だからこそ楽しめる部分があったりすると思います。そういう部分を見つけていただけるといいかなと。私もみなさんと一緒に楽しみたいと思っています。
4月26日(月)午前8:30 [WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]
案内役:ジョン・カビラ、宇垣美里
スペシャルゲスト:中島健人(Sexy Zone)
スタジオゲスト:行定勲(映画監督)、河北麻友子
リモートゲスト:町山智浩(映画評論家)
レッドカーペット生中継!第93回アカデミー賞授賞式直前SP
4月26日(月)午前7:30 [WOWOWプライム] [WOWOWオンデマンド]
案内役:ジョン・カビラ、宇垣美里
スペシャルゲスト:中島健人(Sexy Zone)
スタジオゲスト:行定勲(映画監督)、河北麻友子
リモートゲスト:町山智浩(映画評論家)
(ライター 志村昌美、写真 小川拓洋)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。