より良き未来のために
自分にできることをやる
それがやがて大きな波になる

――昨今は脱炭素が世界的な潮流となり、再生可能エネルギーへの投資も加速しています。

再生可能エネルギーは「クリーンなエネルギー」といわれますが、現在に対してクリーンなものが、未来に対してクリーンなのかは誰にも分かりません。FH2Rの大平さんも指摘していたように、水素だけであらゆる問題が解決するわけではないでしょう。あるいは、原発をなくせば全てが解決するわけでもありません。原子力研究をやめてしまったら、廃炉作業にも支障が出て、核のごみ問題も解決できなくなってしまいます。また、もし原発の代わりになる新しいエネルギーができたとしても、新しい技術の方が将来的により大きな負の影響をもたらす可能性は、必ず存在します。

何事もそうですが、物事にはいい面と悪い面があります。それを理解した上で、未来に生じるかもしれないアンクリーンや負の影響とどう向き合うか、より良い未来をどう実現していくのかを考えながら進むしかないのでしょうね。

――そのためには、過去に起きたことの意味を問い、そこから得た知恵や気付きを未来につなげる取り組みが欠かせません。

震災から10年、復興は進んだといわれますが、天災はなぜ起きるのか、人々に何をもたらしたのか、これからどんな国家を造っていくのかといった議論は、十分なされてきませんでした。でも、今からでも遅くはありません。

今回僕は被災地を歩き、人々の話を聞き、思考し、本を書きました。これからも、自分の仕事の中でできることをやっていきます。

そんな小さな波でいいんだと思います。まずはそれぞれが今の仕事や暮らしの中で、できることを見つけ、行動する。どんなに小さくても一人ひとりが波を起こせば、それがやがて大きな波になります。あの震災の意味を問い直し、今の自分にできることを考えることが、より良き未来への出発点だと思っています。

『ゼロエフ』
古川日出男著/講談社/1980円(税込み)
福島県のシイタケ農家の次男として生まれ、18歳で上京した著者。東日本大震災から9年後の2020年に開催予定だった「復興五輪」の期間中に故郷を歩き、被災地の人々の話に耳を傾けようと決意する。コロナ禍で五輪は延期されたが、20年7月から19日間にわたり福島の中通り・浜通りをひたすら歩き、震災後も福島で暮らす人々と対話。さらにその秋、福島県に隣接する宮城県南部の被災地に向かう。計360kmを歩きながら人々の話に真摯に耳を傾け、思考を重ねながら紡いだ渾身のルポルタージュ。
ふるかわ・ひでお
1966年、福島県郡山市生まれ。早稲田大学文学部中退。98年『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞・日本SF大賞、『LOVE』(05年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(15年)で野間文芸新人賞・読売文学賞をそれぞれ受賞。他の代表作に『おおきな森』『聖家族』『馬たちよ、それでも光は無垢で』など。脚本や演出、朗読、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションなど、幅広い分野で活躍する。

撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希

[日経マネー2021年5月号の記事を再構成]

ゼロエフ

著者 : 古川 日出男
出版 : 講談社
価格 : 1,980 円(税込み)

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