ヨーグルトの由来はトルコ語? 味噌汁に入れても美味
ボンジュール!パリからお届けする「食の豆知識」。4月は新年度がスタートする。入学、入社、異動など、新生活を気持ち良く始めるため、新たな環境を整えたという読者の方も多いだろう。環境といえば、体の環境、腸内環境の方はいかがだろうか? 今回は、腸内環境を整えるのに役立つと言われる「ヨーグルト」をテーマに取り上げる。
5月15日は、食品大手の明治が2012年に「ヨーグルトの日」とした。1907年に「ヨーグルトを摂取することが長寿の秘けつである」ことを論文で発表し、ヨーグルトを世界に広めるきっかけをつくったノーベル生理学・医学賞受賞者のイリア・メチニコフの誕生日に合わせて、この日を日本記念日協会に申請し、認定・登録されたのだという。
日本ではコンビニでもスーパーでも必ず定番コーナーがあるヨーグルト。あまりに日本人の食生活に身近すぎて、「腸にいいデザート」くらいのイメージしかない人も多いのではないか。
調べてみると、日本でここまで身近な存在になった背景には、どうやら「本物のヨーグルトを日本の食卓に広めたい」と願う人々の並々ならぬ熱意と努力があったからのようだ。そこで今回、記念日を定めた明治広報部の関根由梨さんと乳酸菌マーケティング部の田中陽さんにお話を伺い、ヨーグルトについて考えてみた。
「『ヨーグルト』という言葉は、諸説ありますが、トルコ語でヨーグルトを意味する『ヨウルト(yogurt)』に由来していると言われています」(田中さん)。ヨウルトはトルコ語で「かくはんすること」を意味する動詞「yogurmak」の派生語で、トルコにおけるヨーグルトの製法を指していると言われているそうだ。
ヨーグルトの言葉の起源があるともいわれるトルコに留学経験があり、同国事情に精通する筆者の知人がこう教えてくれた。「トルコは酪農大国であり、ヨーグルト、バター、チーズはトルコ料理には欠かせません」
トルコで「ロカンタ」と呼ばれる大衆食堂に行くと、料理に無糖のヨーグルトをのせるかを尋ねられるのだという。またスーパーではキロ単位でヨーグルトを売っており、「アイラン」と呼ばれるヨーグルト・塩・水で作るドリンクは食事のお供としてトルコ人の食シーンに欠かせないものなのだとか。
そのトルコの1人当たりの消費量は、先ほどの田中さんによれば世界で18位とのこと。そして、日本でヨーグルトのイメージが強い国のブルガリアは世界で5位。「トルコとブルガリアは隣国同士のせいか、やはり食文化も似ているようですね。ヨーグルトはトルコ発祥とのことで、互いに譲らないブルガリアとの熱いバトルがあります」と知人が教えてくれた。
ちなみに、1人当たりのヨーグルトの消費量の1位はオランダ。2位セルビア、3位フィンランドと続く。ヨーロッパ諸国が上位を占め、日本は19位なのだという。日本人のヨーグルト消費量はそれほど多いわけではないようだ。日本においては主に朝食や食後のデザート感覚で食べられることが多いのに対し、海外、特にヨーロッパ圏では、トルコのように普段の料理にヨーグルトが多く取り入れられている違いがあるようだ。
筆者の住むここフランスでは、世界のヨーグルト1人当たりの消費量ランキングは8位だ。フランスは一つの村に対してその村固有のチーズがあると言われるほど膨大な種類のチーズが存在する、言わずと知れた酪農大国。原料を同じくするヨーグルト(yaourt)も、フランスの人々にとって大変身近な食べ物だ。
筆者が渡仏して真っ先に驚いたことのひとつが、スーパーのヨーグルト売り場の大きさと種類の豊富さだった。牛の乳に限らず、羊やヤギの乳で作られたヨーグルト、ダイズからできたヨーグルトなども定番商品として陳列されている。ヨーグルト売り場とはいえ、見た目はヨーグルトにそっくり、味も似ているチーズもここにある。フロマージュ・ブラン(fromage blanc)、プチ・スイス(petit-suisse)、フェセル(faisselle)などだ。
フランスでは、料理というよりどちらかというと日本のようにデザート感覚で食べられることが多い印象だ。それにしても、毎回スーパーを訪れる度に、ヨーグルトの種類の豊富さには毎回目がくらむ。
ここで日本に目を向けてみよう。1970年ごろ、日本では市場にヨーグルトは出回っていたものの、砂糖や香料、果肉などを加えて日本人向けに味付けされたデザート菓子、子どものおやつといった位置づけで、無糖のプレーンヨーグルトは流通していなかったのだという。
明治の関根さんによると、「プレーンヨーグルト誕生のきっかけとなった運命の出合いは、70年に開催された大阪万博でした。『ブルガリア館』で当社のスタッフが本場のプレーンヨーグルトを試食したことが開発の契機となり、本場の味を再現するため、持ち帰ったサンプルを研究し、試作を重ね、何度もヨーロッパへ足を運びました」
そのかいもあり、日本初の無糖プレーンヨーグルト「明治プレーンヨーグルト」が誕生したのは71年のこと。しかし発売当初、プレーンヨーグルト独特の香りと酸味がなかなか一般的には受け入れられず、「腐っているのではないか」という苦情まで来るほど大苦戦したのだという。
「実は開発当初より、商品名は『明治ブルガリアヨーグルト』とする予定で進めていたものの、ブルガリア大使館から『ブルガリアヨーグルト』の名称の使用許可が下りず、はじめは『ブルガリア』表記なしでの発売となったのです。ですが、この大苦戦の状況下で、本物の証、すなわちヨーグルトの故郷、ブルガリア由来のブルガリア菌を使用したヨーグルトであることを訴求したい。同時に、甘い、ゼラチンで固めた日本のヨーグルトと異なる、本場ブルガリアで食べられている『本物』のヨーグルトをぜひ日本の皆さんに楽しんでほしいという強い思いから『ブルガリア』のネーミングを冠することが不可欠だと考え、使用許可に向けて再度動き出しました」(関根さん)
ブルガリア大使館の姿勢は断固としたものであり、交渉は難航する。しかし、担当者の意志は固く、生産設備の見学会で徹底した品質管理をアピールするなどして、熱い思いを伝えた。関根さんはこう続ける。「この熱意と努力の甲斐もあり、72年にようやく国名の使用許可が下り、73年に『明治ブルガリアヨーグルトプレーン』という名称で発売するに至りました。この後、この『明治ブルガリアヨーグルト』が売り上げを拡大するに伴いヨーグルト市場全体も拡大し、結果、日本の食卓にヨーグルトが定着したのです」。
ブルガリア政府にも承認された正真正銘の正統派、「明治ブルガリアヨーグルト」。「本場ブルガリアで食べられている本物の味を日本に広めたい!」という当時の担当者たちの熱い思いに胸を打たれる。
こうして日本人の食生活に浸透していったヨーグルト。日本では、ヨーグルトが広がるきっかけとなった固形状のプレーンヨーグルトの人気が根強いが、近年では「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ」に代表される、特定の健康価値を持つドリンクタイプの市場規模の方が大きいという。
ところで、現在日本ではどのような味のヨーグルトが人気なのだろうか。田中さんによると、「 日本で人気のフレーバーは、ブルーベリー、ストロベリー、アロエです。プレーンヨーグルトに合う代表的なフルーツフレーバーとして、長く人気を博しています。一方、ユズなど、その時々でトレンドのフレーバーが人気になることはあります」とのこと。
ちなみにフランスで定番かつ日本であまり見かけない独特の味といえば、アプリコット、ココナツ、レモン、マロンペーストあたりだろうか。逆に、筆者は日本でメジャーなアロエヨーグルトが大好きなのだが、こちらではまったく見つけることができず、耐えかねてアロエヨーグルトを自作してしまったくらいだ。
明治は新商品の開発にとどまらず、ヨーグルトの新しい食べ方の提案にも力を入れているということで、最後にこの季節におすすめのヨーグルトを使った一品を聞いてみた。「4月からの新生活に合わせ、日本人の食事の一品として欠かせない味噌汁にヨーグルトを加えた『ヨーグルト味噌汁』はいかがでしょうか。ヨーグルトを使うことで、なじみのあるメニューの味がより一層おいしくなります」(田中さん)
味噌汁にヨーグルト!? 目からうろこの組み合わせだ。おそるおそる筆者も試してみたが、ヨーグルトの酸味は気にならず、むしろ味に深みがでておいしい。よく考えると味噌もヨーグルトも発酵食品同士なので相性がいいからだろうか、ヨーグルトの栄養までプラスされるのであれば一石二鳥だ。
新型コロナウイルス禍でフランスは度重なるロックダウン(都市封鎖)が続き、筆者も運動不足は否めない。ヨーグルトをデザートに限らず日々の料理にも取り入れて、せめて腸内環境だけでも整えることにしようと思う。
(*記事内のアルファベットの特殊記号は表示していません)
パリ在住ライター ユイじょり
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