マヂカルラブリー M-1決勝のネタ選択、CM中に決断
マヂカルラブリーインタビュー(下)
2020年の『M-1』で優勝したマヂカルラブリー。本人たちにとってはトラウマ的な出来事になった3年前の「酷評」を乗り越え、「リベンジ」に成功した。前回の「『M-1』王者マヂカルラブリー 『酷評』からの復活語る」に引き続き、『M-1』決勝戦でのネタ選択や優勝の要因などについて聞いた。
20年末の『M‐1』決勝では、1本目にフレンチレストランのマナーを題材にしたネタ、2本目に電車のつり革につかまらない男のネタを披露した2人。2本のネタで勝負する『M‐1』決勝戦では、ファーストラウンドを勝ち抜くために、1本目に決勝進出を決めたときの準決勝ネタを持ってくるか、最終決戦のためにそのネタを温存しておくかの二択を迫られる。
準決勝で会場を大きく沸かせたのは、「つり革」のほうだった。ネタの選択は出番の直前まで決まらなかったという。
「笑神籤」は本当にテンパる
野田クリスタル 『M‐1』の負担の9割が、その場で出順を決める笑神籤(えみくじ)なんです。
村上 順番が決まらないと、2本のネタのどちらをやるか、ものすごく決めづらい。「トップバッターだったらこっち」とか、「前のコンビがこの人たちだったらこれ」とかあるんですけど、そういう判断ができないんですよね。
野田 5番手ぐらいから誰かがオカルトみたいなことを言い出すんですよ。「次、俺らが呼ばれると思う」とか。
村上 オズワルドが、おいでやすこがさんがウケたあとに「絶対に次、僕らですよ、分かるんです」って言ってた(笑)。
野田 19年にミルクボーイさんが超ウケたあとに出てるから。
村上 ニューヨークも「絶対俺ら1番手だ」って言ってました。19年のリハーサルと本番、20年のリハーサル、全部くじ引きで1番を引いていて。1000分の1のとんでもない確率まで来てましたから。笑神籤は本当に怖いですね。
野田 それで、1本目に突飛で動きの激しい「つり革」をやると、17年の二の舞(※)になる可能性があったんで、伝わりやすい「フレンチ」を先にやろうと決めていたんです。だけど、2番手の東京ホテイソンでその計画が揺らいでしまって。ホテイソンは最初のボケでめちゃめちゃ拍手笑いが起こって、ずっといい感じだったのに、点数が低かった。
※酷評されたネタ。開催中の「野田ミュージカル」を村上に見せると言ったあと、野田が奇天烈(きてれつ)な動きを次々に繰り出し村上を翻弄する。ほとんど説明がないまま野田が動き回るところは共通している。
村上 あれは予想外だったね。
野田 「あ、これ一発目の強いボケだけじゃ逃げ切れない日なんだ」って。ヘタしたら、「フレンチ」の一発目のボケで逃げ切れずに終わるかもと。その後はニューヨークがしゃべくりで、流れ的にずっとみんな動いてなかったから、これは「つり革」かなって思ったときに、4番手の見取り図が動く漫才だったんで、あれ、やっぱり「つり革」じゃねえなって。それで5番手においでやすこがさんがウケて、「これは最終決戦行ったな」ってなったときに、このまま「フレンチ」をやったら飲まれちゃう可能性が高いなと。それでどっちにしようか決めかねているときにCMに入ったんですよ。『M‐1』ではCMのタイミングが超大事で、いったん場をフラットにしてくれるんです。だから、CMが「フレンチ」にさせてくれました。
村上 もともと野田さんからは、「状況によって変える」って言われてたけど、こっちはドキドキですよ。スタンバイエリアもカメラで撮られてたんですけど、テンパった顔してた、2人とも(笑)。
野田 あのテンパりは、『M‐1』でしかないものだったね。
単独ライブ延期で漫才に注力
何が起こるか分からない本番一発勝負のなかで優勝できた要因を、本人たちはこう振り返る。
野田 ファーストステージで出囃子(でばやし)が流れるなか、せり上がりで正座して出ていったのが決め手だった気がします。最初の正座と挨拶がないままでネタに入ったら、ちょっと弱かったかもしれない。挨拶とか、入りの部分でウケると会場がホームになるんです。
村上 あの正座は完全にノータッチでしたけど、お客さんが笑ってくれてよかったです。
野田 席の数が限られていたので、お客さんの顔がハッキリ見えましたね。立ち位置的に、僕は審査員席は見れなかったんですけど、松本さんの笑い声が聞こえたときはもう、アガった。爆アガり。松本さんになりたくてこの世界に入りましたから。
村上 あは(笑)。いいね~。
野田 あとは、自粛期間が長かったことも『M‐1』と関係していて。3月に『R‐1』で優勝したのに、1番忙しくなるはずの3カ月間は、緊急事態宣言もあって自粛が続いて、6月に予定していた単独ライブも9月に延期になったんです。僕らは単独のときにしかコントを作らないんで、20年の『キングオブコント』にはネタがなくて出られなかった。代わりに、単独のネタを全部漫才にしたんですよ。それで生まれたのが、あの「つり革」のネタです。
村上 6本くらい作ったんだよね。その中の1つ。
野田 できたとき、「あ、これ『M‐1』だな」って。
村上 お互い言い合わないんですけど、『M‐1』向きっていうのが何となくあるんです。ごちゃついてないというか。
野田 そうそう、やってることが単純っていう。
村上 「つり革につかまらない」っていう"あるある"から入るから分かりやすい、とかね。
『M‐1』優勝以降は忙しい日々が続いているが、体調管理や仕事のペース配分には不安を抱えていると明かす。
野田 この忙しさは堪えられないです(笑)。
村上 まずは体を慣れさせないと。
野田 村上はどの仕事もコンスタントにできるんですけど、僕の場合は「ここが勝負どころだ」ってならないと、なかなか動けなくて。こんなに仕事がたくさん来ると、ペース配分ができなくて、どこに力を入れたらいいのか分からない。1本に集中するタイプだから、序盤は苦しむかもしれないです(笑)。いろんなところから声をかけてもらってありがたいんですけど。
野田は『M‐1』優勝直後に「最下位取っても優勝することあるんで、あきらめないでください、みなさん!」と3年前の自分たちへのメッセージとも受け取れるようなコメントを残した。リベンジを成功させ、『R‐1』『M‐1』という2つの大きなタイトルを獲得した今、2人はどこに向かうのか。
野田 『キングオブコント』を狙いますよ。まだ誰も成し遂げていないトリプル優勝を。
村上 野田さんがやると言うならやります。コントをやるのがお互い好きなんで。
野田 『キングオブコント』で優勝したら招待状みたいなのが来ると思うんですよね。
村上 どこから?
野田 魔界。魔界大会から。
村上 「人間の世界ではお前たちはやりすぎた」って? はははは!
野田 大事なのはこの先。正直、不安ですよ。でも『M‐1』優勝者として、せっかくの勢いをここで途切れさせるわけにはいかない。疲れてる場合じゃないですね。
(ライター 遠藤敏文)
[日経エンタテインメント! 2021年3月号の記事を再構成]
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