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「平成の三四郎」の仲間と対戦 高校柔道、15秒の永遠

立川談笑

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NIKKEI STYLE

「平成の三四郎」と呼ばれた柔道の金メダリスト、古賀稔彦さんが他界されました。心よりお悔やみ申し上げます。53歳とはあまりにも若い。私より2つも年若なのに。病とはなんと非情なものか。

今を去ること三十数年前。高校生だった私は柔道部に所属していました。柔道の世界では山下泰裕選手が現役で大活躍されていた時代です。私のいた海城学園と古賀さんの世田谷学園とは同じ地区ブロックで、古賀さんとはぎりぎり世代が重なっています。世界に通用する若きトップアスリートたちを間近に見ることができたのは貴重な体験でした。そのあたりの思い出話から始めてみます。

「するっ」と投げる世田谷学園

世田谷学園柔道部の印象としては、総じて小柄でとにかく技が切れる。切れるったらない。組んだ瞬間にスパッと投げる。感覚としては「するっ」と投げる感じ。スムーズで抵抗なく。その呼吸の中にあらゆるものが飲み込まれるような。宇宙と一体化するというとあまりに大げさだけど、本当にそう。たとえば背負い投げひとつでも「ああ、実はこういう技だったのね!」とこちらの基準が更新されるくらい。

特に私たちが出るような地区大会の予選では力の差が際立ちます。さして強くもない高校があたったが最後、対戦相手が世田谷学園と分かった段階で「うひゃー」みたいな。「だめだこりゃー」みたいな。いざ試合になると、団体戦で5人が次々とみごとに投げられて、みんな笑って戻ってくる。笑ってしまうんですな。照れ笑いではなくて。例えるなら、手品とはわかっていても、あまりの鮮やかさで物理理論を超えた異世界を見せつけられたような。とにかく技が切れっ切れでした。

柔道のレベルこそ雲泥の差ほど違うけれども、そこは同じ高校生です。心安く話をする間柄になる選手もいました。ウチの高校が昇段審査の会場になったときのこと。ブロック内の高校からみんなが集まってくる。受付係をしていると世田谷学園の部員たちもやってきて、書き込む受付票を見ると全員住所が同じ。「〃」、上の人と一緒です。「〃」、上と一緒です。

「おい、手抜きしないで正直に書けよ」

「いや、おれたち寮に住んでるからさ」

と言われて気が付いた。うわ。こいつら、マジなんだ。聞いてみると、多くは九州を主に全国から柔道のために親元を離れて来ているのだと。そもそも講道学舎という柔道の私塾があって、全寮制のそこの子どもたちがそろって籍を置くから、地元の区立弦巻中学校と世田谷学園高校が全国レベルの強豪校なのだということです。もちろん当時の話。

朝は暗いうちから稽古をする。ドーン!ドーン!と太鼓の音でたたき起こされるんだって。「わはは。江戸時代の修行僧か」って言ったらそいつは恥ずかしそうに笑ってたっけ。

大会会場の隅で、顧問の先生同士の「あいつ、いいねえ」「うん。未来の世界チャンピオン候補だよ」なんて会話を耳にしたことがあります。それほど粒ぞろいの才能が集まって、全国どころか世界を見据えてしのぎを削っていました。彼らからすると、実力差がありすぎるブロックでの地区予選はあまりに手ごたえのないものだったのかもしれません。

そのブロックには世田谷学園と全国大会で肩を並べる強豪、国士舘高校もありました。国士舘はとにかく身体がでかい印象です。小柄で速くて技が切れっ切れの世田谷と、巨大で力強くてやはり技も切れっ切れの国士舘。どちらもそんじょそこいらの高校はまるで歯が立ちません。

「世田谷と国士舘は、今回の地区予選は最初から通過ってことでいいですね。ほら、みんな負けちゃうから。わはは」と、大会に向けた会議の席ではこんな発言も実際にありました。まかり間違って全国レベルの2校が予選で潰しあってもいけないという配慮もあったのでしょう。

海城学園時代、地区予選で

そしてそんな世田谷学園が地区予選に登場することもあって、そんなときには補欠の選手たちが出てきました。野球でいうなら2軍とか3軍。一線級のレギュラー陣は試合場わきにあぐらをかいたりと、まったくリラックスした様子で観客のように声援を送るだけです。

そこで、その2軍3軍の選手が先ほどの「するっ」と魔法のように鮮やかな背負い投げを披露するという。もう、層が厚すぎ。別世界すぎます。

かくいう私は一度だけ世田谷学園の選手と当たったことがあります。これが勝ったんです。自慢話ですからしっかり読んでくださいね。「はじめ!」の合図の直後。左そでの引手を取った瞬間に、かすかに右を狙うそぶりで左の大外刈り、一本! 試合時間15秒。我ながらトリッキーな手口ですが勝ちは勝ち。一礼して、やったあー!と喜びながらあちらを見やると、その選手が顧問の先生に烈火のごとく叱られてました。「あんなチョロい技にやられるな!」。身を縮めて泣き出さんばかりの選手を見て、なにかひどく悪いことをした気分になったのを覚えています。

訃報、それもまだ若いのにと残念に思われてならない訃報に接するたびに、つくづく「人の世の無常」について考えさせられます。考えたって答えも出口もないのだけど。人生の終わりがすぐそばなのか、あるいはずっと先なのかは分かりません。悶々(もんもん)としていても始まらない。ただ目の前の「今」「今日いちにち」を大切に生きようと、思いを新たにしています。

あらためて古賀稔彦さんのご冥福をお祈りします。合掌。

(今回がこの連載の最終回です。弟子ともども長らくのお付き合い、ありがとうございます)

立川談笑
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
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