三浦まり ジェンダー格差埋める「わきまえない」改革
世界経済フォーラム(WEF)による世界各国の男女平等の度合いをランキングした「ジェンダー・ギャップ指数2021」が3月31日に発表され、日本は156カ国中120位だった。前回の121位(153カ国中)から1ランク上昇したものの、主要7カ国(G7)では最下位。この結果をどのように受け止め、生かしていくべきか。ジェンダーと政治を専門とする上智大学教授・三浦まりさんに聞いた。
ジェンダー・ギャップ指数の4つの指標、経済・政治・教育・医療のうち、経済・教育・医療は、努力結果が数字に反映されるまでに時間がかかります。一方で政治は、選挙で女性議員が増えたり、政治的リーダーシップで女性閣僚や議員数が増えたりするため、短期的に評価ポイントを上げることが可能です。
2020年は衆議院総選挙がなく、女性閣僚は1人から2人に増えただけでした(※前回は2019年1月時点で1人、今回は2021年1月時点で2人)。今回、大きく順位を上げた米国(前年53位 → 30位)は、2020年に大統領選挙と議会選挙があり、女性閣僚比率が約50%になりました。日本は今秋までに衆院選が予定されていますので、そこでどこまで女性議員が増えるのかがポイントです。現状だと劇的には増えないことが予想されるので、有権者からの働きかけが不可欠。また、新内閣が女性閣僚を5人以上任命するというような、強いメッセージを出していくことが必要でしょう。
経団連は3割以上、JOCは4割 女性役員比率の目標を明言
政治の変化は遅いですが、社会の意識は急速に変化しています。例えば経団連は3月、会員企業に対して、「2030年までに役員の女性比率を3割以上」にするよう呼びかけると宣言しました。また、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視(べっし)発言に対して国民が声を上げたことで、日本オリンピック委員会(JOC)では、6月の役員改選で「女性理事の割合40%」の目標を達成するとの方針を確認しました。
今の日本は、いわばパラダイムシフトの最中です。当然のことと考えられていた認識がアップデートされていく過程にあります。これから5年ほどは意識の温度差が表面化するため、特に混沌とした状態が続くでしょう。この5年間に何をしておくかが、その先の未来を大きく左右します。
身近なジェンダー・ギャップに疑問の声を 社会は変えられる
ジェンダー・ギャップに対して声を上げることは、政治家や社会活動家ではなくても、皆さんにもできます。身近にある男女格差に疑問を感じ、それが本当に必要な価値観かどうか、一人ひとりが再検討していくだけで、社会は変えられるのです。
今はSNS(交流サイト)という便利なツールがあります。SNSで発信したり、同じ考えの投稿をシェアしたりするアクションだけでもいい。最近話題になった「#わきまえない女」(*)が、いい例でしょう。
(*)2021年2月、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(当時)が、発言の短い組織委員会の女性理事らを「わきまえておられる」と表現したことを受けて、SNS上で「#わきまえない女」を付けての抗議の声が相次いだ
これまでは、男性社会で女性が生きていくために、立場を「わきまえる=おとなしくしている」という処世術が時に必要でしたが、そのようなことをしていては一向に男性優位社会は変わりません。女性が声を上げる、つまり「わきまえない」アクションを始めたことで、社会のジェンダー意識が高まっているのです。
他にも、学校で組織されたPTAに対して「男女差を感じる」という声も聞くようになりました。ベルマークを集めたり、登下校の見守りをしたりするなどの実務を無償で担っているのは女性が多いのに、組織の上層部は男性が多い。この状態をおかしいと感じる人は、とても多いと思います。
一方の男性も、「男らしく」というレッテルを貼られ、重圧を感じているケースが多く見受けられます。まずは声を上げ、さまざまな立場からの意見を聞き、皆で考える。社会全体での対話が、ジェンダー平等な社会実現のためにとても重要なステップです。
ジェンダー・ギャップをなくすには、所得格差の改善が必要
ジェンダー・ギャップの改善を進めるには、所得格差の対策も欠かせません。コロナによる自粛要請で失われた仕事は、接客やサービス業など、女性労働者の比率が高い職業に多く、明日の食費のめどさえたたない人が大勢います。そんな状態で、「ジェンダー・ギャップ指数120位!どうする日本」なんて問題を提起しても、ぜいたくな悩みにしか聞こえないでしょう。
実は、ジェンダー・ギャップの放置が女性の貧困の解決を遅らせてきたのです。女性リーダーを増やすことは急務ですが、そのことによって社会にどのような変化が生じるのかを見通していく必要があります。女性がリーダーとなって、さまざまな女性の声を積極的に拾い上げ、法律を変えて、所得格差やハラスメントを改善していく。この道筋をつけることが大切です。
ジェンダー・ギャップ指数は、そのきっかけ、手掛かりにすぎません。120位という結果を踏まえて、私たちは引き続き、声を上げていく必要があります。
上智大学法学部教授。専門はジェンダーと政治、現代日本政治論。『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』(朝日選書)、『ジェンダー・クオータ―世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)、『私たちの声を議会へ 代表制民主主義の再生』(岩波書店)など関連の著書・共著書も多数。
(取材・文 力武亜矢=日経xwoman編集部)
[日経xwoman 2021年4月5日付の掲載記事を基に再構成]
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