このため都心の住宅価格が高止まりして、一般の人たちには手が届きにくくなってきたことも、郊外居住の流れを後押ししているとみられます。

郊外居住がどこまで広がるかは、企業が都心にオフィスを構えることをどう考えるかにかかっています。その意味でも地価の行方はオフィス市場がカギを握っているといえそうです。

牧野知弘・オラガ総研代表「オフィス市場、4~5年先が焦点」

今後の地価の行方について、不動産事情に詳しいオラガ総研の牧野知弘代表に聞きました。

――公示地価をどう見ますか。

牧野知弘・オラガ総研代表

「公示地価は全国平均や東京圏、大阪圏、名古屋圏のような三大都市圏で議論するのが難しくなっている。かつては全体的な傾向を語ることに意味があったが、全国平均が6年ぶりに下落したといってもあまり意味がない」

「地域を絞ってみていくと今の実態が見えてくる。例えば大阪の道頓堀と福岡の博多だ。道頓堀でふぐ料理の『づぼらや』があった辺りは前年に比べて28%下がり、博多は8%上がっている。同じ商業地でこの違いは何か」

「道頓堀はインバウンド頼みだった。ホテル、飲食業、ドラッグストアを含め、アジア系のインバウンドに頼ってきた。博多も飲食業やインバウンド頼みの業界は打撃を受けたが、マンション用地として売れ、代替があった。道頓堀にマンション需要は乏しい」

「これは都市の成長力の違いだ。福岡市の人口は160万人を超え、予測では167万人くらいまで伸びる。アジアに最も近く、観光客だけでなく、ビジネスでも拠点都市である上海、香港などに近い。地理的な強みが地価を上げている。それだけ需要がある証しだ。エリアにフォーカスして比較し、原因を探ることが必要だ」

――東京の住宅地もよくみると、水害リスクのある下町などに下落地点が広がっています。

「逆風が吹く時代になると、エリア全体のリスク評価の影響が表に出てくる。全体が成長しているときは都心に近いとか、利便性が高いからよいという感覚が働きやすいが、ネガティブチェックを始めると、そうした要因でポイントを落とす。下町のリスクもここ2~3年で高まったわけではない。逆にブランドのある住宅地は下がり幅が小さく、全体の状況の影響は受けるが、回復も早い」

――東京都心の地価はどうなりますか。

「銀座などの商業地は今のところ、底が見えない。4~5年の期間でみて、オフィス市場が今のような高い価格を維持できるかどうかが焦点になる。賃料はこれから下がりそうだ。東京の不動産投資の利回りは諸外国の主要都市に比べるとまだ高いが、これから上がる要素はあまり見つからない」

「難しいのは大型のテナントが定期借家契約を結ぶようになったことだ。解約はすぐには出ず、徐々に出てくる。昔なら6カ月前の事前通知で解約が出てきたが、大型テナントほど3年から最長6年くらいの契約を結んでいるので解約できない。今から『2年後に解約する』と予告するテナントはいない」

「不動産会社に聞くと、昨年の今ごろはまだ大丈夫だったが、今は厳しいという。テナントの縮小や解約が出始め、空室が埋まらなくなってきた。これまでは後継テナントがすぐに決まっていたが、今は都心の1000坪ほどの広い物件ではテナントの奪い合いになっていて、なかなか決まらないという。2023年にはオフィスの大量供給を控えているため、不動産会社は疑心暗鬼になっている」

――テレワークがどこまで定着するかも、まだ見えません。

「日本の会社はまだ周りを見ている。世界のオフィス市場をみると、ニューヨークやロンドンでは郊外に出る動きがあり、決断が早い。日本の会社は決断が遅い。ただ動き出すと一斉に流れる傾向がある」

――ここへ来て東京の空室率も上がってきました。

「定期借家契約がこれだけ普及している中であれだけ上がると、今後、大型のテナントの動き次第でどうなるか。上昇カーブはもっと厳しくなる可能性がある」

――郊外居住の流れはどこまで広がるでしょうか。

「徐々に広まっていく。働く人の1割がその方向に動けば、大きな流れになる。例えば、湘南の大磯などでは中古住宅なら一戸建てで3000万円ほどだ。都心のタワーマンションを売って移り住む人も出てこよう。かつて鉄道会社が開発した昔の通勤圏も、リモートになれば見直されてくるだろう。そうした地域は子育ての環境もよいところが多い。不動産市場は全体の雰囲気につられて上がってきたところがあり、落ち着いてみる環境が整ってきたのではないか」

(編集委員 斉藤徹弥)

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