近視は放置NG、失明リスクも スマホ酷使には注意

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写真はイメージ=PIXTA
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近視はよくある目の不調と思われがち。だが「強度近視」に至ると、緑内障など視力を損なう可能性のある病気のリスクを高めることが、最近解明されつつある。決して放置せず、正しく対処することが欠かせない。

日本人に最も多い近視は「軸性近視」と呼ばれるタイプだ。目の表面から網膜までの長さを眼軸長と呼び、この距離が長くなることが原因となる。眼軸長は平均で24ミリメートルだが、数ミリでも長くなると、ピントが網膜より手前で合ってしまい近視となる。

眼軸長の伸びは半数以上の日本人にみられる。近視が多いことから特段、意識されることは少ないが近視は放置すると危険。眼軸長が27ミリメートル以上になると「強度近視」と診断される。眼球が変形するまで近視が進んでいる状態で、網膜の組織や視神経などに負担がかかっている。慶応大学が2019年に東京都内で調査したところ中学生の11.3%に強度近視がみられた。

強度近視になると、近視性黄斑症、網膜剥離、緑内障など視力に障害をもたらす病気のリスクを高めることが分かってきた。九州大学病院眼科の園田康平教授は「ここ10年間で光を使って眼軸長を測定する装置が普及し、眼軸長と眼の病気の関係について研究が進んだ」と解説する。

九州大学を中心とする研究グループは、40代以上の2千人余りを5年間追跡調査。5年で約1%の人が近視性黄斑症を発症し、眼軸長が長くなることと加齢が発症リスクを高めていることを明らかにした。1%という数字は他のアジア諸国と比較して高率だった。園田教授は「近視性黄斑症は網膜の中心部に障害をもたらす病気。強い近視の人は定期的に眼底検査を受けてほしい」と助言する。

眼軸長を測定する技術の進歩に伴い、軸性近視の進行を抑制する研究も進んでいる。筑波大学病院眼科の平岡孝浩准教授は「どういう人が軸性近視に進むか予測は難しいが、近視が急に進む場合はリスクが高い」と指摘する。

近視と診断されたら未成年は半年に1度、成年は1年に1度眼科で検査を受けたい。軸性近視の進行を抑制するには、目の調節筋をリラックスさせる成分を含んだ点眼剤の利用や「オルソケラトロジー」という手法がある。

オルソケラトロジーは特殊なハードコンタクトレンズを夜間だけ装着する方法だ。コンタクトレンズを使って角膜の形状を矯正する。平岡准教授は臨床研究で、メガネ装着だけよりも眼軸長の伸びを抑制することを明らかにした。「小学生でもレンズの脱着を親が管理すれば比較的に安全に使える。眼軸長の伸びが速い場合は点眼剤を併用することもある」(平岡准教授)

近視が進行して強度近視にならないためにも、生活習慣を改善することが大切だ。慶応大学の坪田一男名誉教授は「本は30センチメートル以上離して読む」「スマートフォンやゲーム機は、1時間使ったり遊んだりしたら5~10分目を休める」などの生活習慣の改善を勧めている。子供なら外遊び、成人なら散歩など外に出て太陽光を浴びることも有効だ。

慶応大学病院眼科を中心とした研究グループは、太陽光のうち波長が360~400ナノメートル(ナノは10億分の1)の領域では、眼軸長の伸びを抑制する作用があることを臨床研究で明らかにした。

坪田名誉教授は、「この光を利用した医療機器の開発を進め、新たな近視抑制医療につなげたい」と語る。園田教授は、「スマホに接する機会の多い子供の将来を考えると、科学的な近視研究をさらに進める必要がある」と語る。

第一線の研究が進むなか、近視で目に不調を感じたら、軽視することなく適切に対応することが欠かせない。

(ライター 荒川直樹)

[NIKKEI プラス1 2021年4月3日付]

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