2021/4/24

「可能性としては、そうした動物の一部が飼育場で感染し、その後ウイルスを市場に持ち込んだことが考えられます」と、WHO調査団を率いたデンマーク人の食品安全の専門家ピーター・ベン・エンバレク氏は2月、「サイエンス」誌に語っていた。

多くの野生動物農場は原生地域に隣接しており、飼育されている動物たちは近くにすむ感染したコウモリの排せつ物から容易に感染しうる状況にあった。そのうえ、リ氏によると、一部の飼育場ではおそらく、捕獲販売する野生個体の不足をカバーするために繁殖を行い、それらを販売していたと思われる。

ウイルスが飼育下にある個体(野生由来であれ繁殖されたものであれ)に入り込んでしまえば、それは個体から個体へと感染し、その過程で変異していく。そうした個体が市場に到着するころには、ウイルスはまた別の種、つまりはヒトに感染できるまでに進化していたかもしれない。

今回のパンデミックを受けて、中国は20年2月、食用の野生動物の販売と消費を禁止した。20年末にはさらに、政府は新型コロナウイルスへの対応の一環として、食用の飼育場をすべて閉鎖したと発表した。だが、毛皮や伝統薬など、その他の目的での飼育は容認している。

これはつまり、捕獲された野生動物から病気が広がるリスクは消えていないことを意味すると、英国ロンドンの非政府組織(NGO)「環境調査エージェンシー」に所属し、中国に200カ所以上あるトラ牧場の調査を行っているデビー・バンクス氏は言う。

パンデミック以前、中国政府は野生動物の飼育場を貧困削減の手段として推進していた。写真は同国南西部にあったタケネズミの飼育場(PHOTOGRAPH BY DZ 2020)

とくに懸念されるのは毛皮を採取するための飼育場だ。たとえば、完全な野生動物ではないものの、ミンクは新型コロナウイルスに対して脆弱で、ヒトに感染させる可能性がある。中国のミンク飼育場においてすでに、欧米にある数百の飼育場と同じようなコロナウイルスの集団感染が起こっているかどうかは定かではないが、中国のミンク市場の規模は大きく、19年には1100万匹分以上の毛皮が生産されている。

感染ルートの特定は困難でも重要

野生動物の飼育場は新型コロナウイルスの感染源になり得るものの、もし強力な証拠が存在すれば「非常に驚きだ」とリプキン氏は言う。

自分が知る限り、飼育場が動物からヒトへの新型コロナウイルスの感染をうながすきっかけとなったことを証明する検査は行われていないと、リプキン氏は言う。また、たとえ今ウイルスが飼育場で発見されたとしても、その場所が初期の流行において重要な役割を果たしたのか、あるいはそこの動物たちが最近になって感染したのかを見極めることはできない。

パンデミックからすでに1年以上が経過しており、感染ルートを特定する証拠を得るのは難しいように思われる。それでも、ウイルスがどのように人間に感染したのかという知識の空白を埋めることは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを理解し、将来的に動物由来の感染症と闘ううえで非常に重要だ。

120ページに及ぶWHOの報告書では、感染源となった地域やヒトへの感染がどのように始まったのかは、結局のところ明らかにされなかった。WHOのテドロス事務局長は「すべての仮説がテーブルの上に残っています」と声明で述べ、引き続き調査を続けるという。

(文 DINA FINE MARON、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年3月31日付]

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