企業がサステナビリティ経営を考える際の重要なキーワードの一つが「外部不経済」だ。たとえば、自動車をつくるためには鉄が必要だが、鉄鉱石の採掘や製鉄では大量のCO2を排出し、大量の水も使う。自動車を使えば排ガスが出て、交通事故も起きる。さらに、製品が寿命を迎えれば巨大なゴミなる。バリューチェーン全体を見ると、環境や地球の資源、社会にさまざまな負荷をかけたうえで、自動車メーカーは利益をあげている。

多くの企業はこれまで「外部不経済」を放置して、短期的な利益を得てきた。環境に負荷をかけても自然の自浄作用などで傷ついた部分を自己修復できるうちはそれでもよかったが、現在はすでにその限界点をはるかに超えている。その代表例が、地球温暖化を加速させる温暖化ガス排出だ。CO2の排出量を減らして今後の気温上昇を一定限度内に抑えないと、歯止めがきかなくなり、地球は人が住むのに適さない場所に変わり果ててしまうとされている。そうした状況は何としても避けなければならない。

アップルのサプライヤーになりたければ…

これまで環境・社会課題に関しては、国連やNGOが中心となって動いており、企業とはどこか遠い縁遠い議論だった。しかし、近年、こうした国連やNGOの動きが、欧米を中心に規制やソフトローの強化につながり、それに呼応するように、投資家・金融機関がESG・サステナビリティ投資の動きを強め、こうしたステークホルダーの動きを受けて、多くの先進企業が対応を本格化させている。

その典型例の一つが、米アップルだ。

アップルは、2016年から2017年にかけて、「(1)100%(完全循環型)リサイクルの実現」と「(2)サプライチェーン全体でCO2排出量をゼロとすること」を宣言した。完全循環型サプライチェーンの実現とは、「古いiPhoneは、新しいiPhone に生まれ変わります」という宣言にあるように、単なる素材のリサイクルではなく、1台のアップル製品から次のアップル製品をつくること、すなわち、「Apple to Apple」の実現を目指す、ということだ。アップルは、「将来的にすべての製品とパッケージを100%リサイクルされた素材と再生可能な素材を使ってつくる」ことに向けて開発を進めている。そうすれば、「何かをつくるために、その素材を地球から取る必要はない」からだ。
アップルは、自身の事業存続に必要となる原材料の確保に限界があることや、このまま「生産→廃棄」のビジネスモデルを継続するのは長期的に不可能であることをよくわかっている。しかも、そうしたリスクを逆手にとって、「Apple to Apple」を実現して圧倒的な競争力(競合他社がもはや、製品の原材料を手に入れられなくなったときに、アップルだけは無限に生産を続けられる!)に変えようとしているのだ。気候変動対応への対応も、単に、環境にいいことをしたいということではなく、その解決なくしては事業そのものが成り立たないことを理解してから行っている。
(序章「あなたの会社のサステナビリティ経営は本物か?」5ページ)

この話で重要なのは、この先、アップルのサプライヤーでいたいなら、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を余儀なくされるだろう、ということだ。部品のサプライヤーは、アップルが求める再生可能な素材の開発、新しい回収システムの構築、回収した素材の再生という新しいニーズに応える必要がある。つまり、グローバルな巨大企業が、サステナビリティ経営を本格化させることは、その企業のサプライチェーン上にある多数の企業も、仮にサステナビリティ経営を望んでいなくても、取引を続けたいなら取り組まざるを得なくなるということだ。

環境・社会と共存する事業のあり方

これからの企業には、環境・社会への配慮を大前提に、自社の事業ポートフォリオの大幅な組み替えや、モノ売りからコト売りへの変革(アズ・ア・サービス化)、短期利益志向からの脱却など、サステナビリティを大前提とした経営変革、つまりサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が求められる。目指すべきは、これまで自分たちが生み出してきた外部不経済の過去のツケを払い、外部不経済の原因を断ち切ることによって未来のリスクを低減し、「環境・社会」と共存しながら成長を続ける新しい事業のあり方だ。

(日経BP 沖本健二)

SXの時代~究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営

著者 : 坂野 俊哉、磯貝 友紀
出版 : 日経BP
価格 : 2,200 円(税込み)

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