検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

馬に乗り子牛・ヤギ奪い合い アフガニスタンの国技

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

競技場にカイバル・アクバルザダ氏が現れた。目ざとく気づいたファンの間から、うねるようなざわめきと歓声が沸き起こる。立派な体格のカイバル氏は、力強い動きでひと息に馬の背に乗り、一気に駆け出す。

2020年12月初旬の金曜日、アフガニスタン北部の都市マザーリシャリーフ。カイバル氏が参加しているのは、アフガニスタン伝統の国技「ブズカシ」の試合だ。大きな試合は冬の間、金曜日の礼拝後に行われる。アフガニスタン北部の全域から集まった80人ほどの選手たちは、今、馬に乗って競技場の中央にひしめき合っている。泥とうめき声で埋め尽くされたこの中のどこかに、目指す「ボール」がある。ボールとは、頭部を切断し、内臓を抜いて縫い合わせた子牛あるいはヤギの死骸だ。

この競技のゴールはシンプルだが、それを達成するまでの道のりは厳しい。得点を上げるには、騎手は死骸の「ボール」をつかんで、フィールドの端にある旗の周りをまわってから、それをチョークで描かれた円の中に落とさなければならない。規範は存在し、反則行為は冷ややかな目で見られるものの、敵対する騎手同士は、相手がボールを円の中に落とすのを妨害するためなら、ほとんど手段を選ばない。

タリバンがこの国を支配していた1996年から2001年にかけては、ブズカシをはじめとする数多くの娯楽が「不道徳」なものとして禁止されていた。タリバン政権崩壊から20年、国技は復活したものの、米軍が兵力を縮小しつつある現在、再びタリバンの影響力が増しつつある。この国の半分近くがタリバン支配下、あるいは支配権を争っている状態にあり、政府が掌握している地域でも、タリバンは標的を絞った暗殺を行い、道路や集会を爆撃して恐怖をあおっている。

事実、カイバル氏(騎手はファーストネームで呼ばれるのが一般的)が北部の都市クンドゥズから、試合が行われるマザーリシャリーフまで車で移動するのに、普段の3倍に当たる10時間かかった。高速道路で銃撃戦があったためだ。

カイバル氏は、有名なブズカシ選手の家系に生まれた。彼のおじは、クンドゥズ州出身のチャンピオンで1970年代には国中に名を知られていたが、内戦の間に待ち伏せ攻撃によって殺害された。過去40年間の戦争で命を落とした親戚たちは、14人にものぼる。

2015年、タリバンが一時的にクンドゥズの街を制圧したときには、カイバル氏の家族は2週間、地下室に潜んでいたこともあった。戦闘は徐々に激しくなり、米軍の空爆が地面を揺らした。それ以来、タリバンは勢力を回復して周辺の田園地帯の多くを掌握し、暴力は「日に日に悪化している」と、カイバル氏は言う。

この日の試合が次第に激しさを増す中、カイバル氏はなかなか自分のリズムをつかめずにいた。地元の支援者が用意してくれた馬は予想よりも小さく、カイバル氏の体格や強気なプレースタイルには合わなかった。さらに彼は、サマンガン州から来た5人兄弟の選手による妨害を受けていた。カイバル氏が子牛をつかもうとすると、兄弟のうち2人がカイバル氏の馬の脇腹を激しくむちで打ち、馬をよろめかせる。観客からヤジが飛ぶ。

「あの選手たちは反則で試合を台無しにしている」と、ある熱心な地元ファンが言う。「あれは汚いプレーだ」

混戦が10分近く続いたころ、1人の騎手が子牛を持ち上げて自分の脚の下にしっかりと固定し、得点を上げる。騎手は観客席に上がり、賞金の500アフガニ(約680円)を受け取る。次のラウンドはすでに始まっており、このサイクルが日が暮れるまで繰り返される。

ブズカシの起源

ブズカシ(アフガニスタンのほぼ全域で使われているペルシャ語の一種、ダリー語で「ヤギつかみ」の意)がどのように誕生したかについては、はっきりとしたことはわかっていない。広く信じられているある説によると、この競技は数世紀前、モンゴルからの侵略者たちの戦闘訓練として進化したものだという。現在、ブズカシは中央アジア全域で、多少ルールを変えた形で行われている。キルギスとカザフスタンではチーム形式で、子牛やヤギを高い位置に設置されたゴールに向かって放り込むことを目指す。中国西部では、乗り物に馬ではなくヤクが用いられる。

ブズカシという競技を象徴する人物といえば、アフガニスタン軍元帥アブドゥル・ラシード・ドスタム氏だろう。ウズベク人であり、採油労働者から民兵司令官に転身したドスタム氏は、まず1980年代に米国の支援を受けたムジャヒディン(イスラム系反政府ゲリラ)と戦い、その後、イスラム急進派や、内戦時にはタリバンと同盟を結んだ後、さらにくら替えして北部同盟に参加した。北部同盟は米国と協力して、2001年にタリバン政権を打倒。ドスタム氏が米軍のグリーンベレーを率いて騎馬隊で突撃した話はよく知られている。

戦後、ドスタム氏と、また別の大物軍人であるタジク人のモハマド・カシム・ファヒム氏は、国内に流れ込んだ米国など諸外国からの復興資金の一部を利用して、ブズカシの最大のパトロンとなった(ファヒム氏は2014年に死去)。彼らは騎手や施設に大量の資金をつぎ込み、中央アジアの国々から優秀な馬を調達して、戦争で壊滅的な打撃を受けたアフガニスタンの馬を補充した。

試合では過酷な扱いを受けるものの、ブズカシに出場する雄の馬はその気迫を高く評価される。競技場での成功を左右するのは「馬が8割、騎手が2割」と言われ、大手スポンサーからは1頭に約740万~1000万円近い高額なギャラが支払われることもある。

ドスタム氏もファヒム氏も、それぞれ自分が属する民族に影響力を行使するためにブズカシを利用した。2016年には、ドスタム氏が自身の権力基盤である北西部の都市シェベルガーンで行われたブズカシの試合で、公然と政敵に暴行を加えたこともあった。だがブズカシはむしろ、市民に利益をもたらすものとして活用される場合の方が多い。ブズカシは無料の娯楽を提供するだけでなく、ドスタム氏らによる選手への投資や賞金の提供は、より良い競争を促した。試合に勝利した者には、多額の米ドルと、ときには新品のトラックが与えられることもあった。

ところが、シーズン開始からすでに1カ月以上がたっていた2020年12月の時点で、シェベルガーンでは、タリバンの復活によって多くの選手が遠征できなくなったため、まだ試合が行われていなかった。ドスタム氏はどうやら、混乱が起こっている地域でタリバンと戦っているらしいと噂され、主要な競技場もいくつかタリバンによって閉鎖されていた。

養わなければならない家族を抱え、プレーできる場所も減った北部のトップ選手たちにとっては、完全に政府の管理下にある北部地域最大の都市マザーリシャリーフは、今もブズカシの中心地だ。

次ページでも、国技に情熱を燃やす人々の姿をご覧いただこう。

(文 JASON MOTLAGH、写真 BALAZS GARDI、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年3月28日付の記事を再構成]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_