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欧米で禁止の殺虫剤 バッタ大群駆除も、残る環境不安

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

2019年後半以降、サバクトビバッタの大群がアフリカ北東部の「アフリカの角」を覆い尽くし、農作物や牧草地を食い荒らしてきた。その対策として、バッタを追跡して退治するための驚くべき大規模な作戦が開始された。

国連食糧農業機関(FAO)が主導する東アフリカ8カ国での殺虫剤の散布活動の結果、最悪の事態は今までのところ回避されている。FAOの推計では、この作戦のおかげで2020年にはアフリカの角およびアラビア半島南部のイエメンに住む2800万人分の食料と牧草地が守られた。

しかし作戦が進展する一方で、環境にもたらす影響はまだわかっていない。対策にあたる関係者たちは、植物や昆虫、野生動物、人間に害を及ぼすことなく害虫を駆除するという難しいバランスを模索してきた。ケニア北部は、花粉や蜜を集めるハナバチ類の多様性で世界に知られており、農業関係者や保護活動家たちはハナバチが被害を受けることを懸念している。

これまでに230万リットルの化学殺虫剤が190万ヘクタールに散布され、FAOによれば費用は1億9500万ドル(約213億円)にのぼる。散布は2021年も継続される予定だ。

今回の作戦が環境にもたらす被害についてはまだ評価が不十分だが、殺虫剤の影響については数十年にわたるデータが積み重なっている。効果を発揮する害虫の種類が幅広い殺虫剤は、バッタだけでなくハナバチやその他の昆虫まで殺してしまう。また、水系にも浸出し、人体にも悪影響を及ぼす恐れがある。

不意打ち

サバクトビバッタの大群は、見る者をおびえさせる。地平線に黒い煙のようなものが現れ、やがて空は暗くなる。カサカサという音が次第に大きくなって喧噪(けんそう)となり、数千万匹もの貪欲な、指ほどの大きさの明るい黄色のバッタが大地に舞い降りる。

ケニアは70年間、バッタの大量発生による被害「蝗害(こうがい)」を受けてこなかった。2019年に最初の大群が襲来したときにはまったく備えができておらず、不意を突かれた形となったのも当然だった。

大量発生のきっかけは2018年。アラビア半島の砂漠にサイクロンが大量の雨を降らせ、湿った砂地でサバクトビバッタが人知れず繁殖した。2019年には、人が近づきがたいイエメンの紛争地帯に強風で運ばれ、やがて紅海を渡ってソマリア、エチオピア、そしてケニアにまでやって来た。

ケニアでは当初、バッタを防除するためにあらゆる手が尽くされた。「パニック状態でした」と、殺虫剤の環境被害を専門とするオランダの環境毒物学者ジェームス・エバーツ氏は言う。

殺虫剤の散布は、新型コロナウイルスの感染が拡大し世界各地で都市封鎖が行われている間も続けられた。数百人の地元のボランティアやケニアの国家青年奉仕隊の隊員たちが、最小限の訓練を受け、新型コロナ対策のマスクを着用して噴霧器を背負い、在庫があった殺虫剤なら何でもバッタの大群に噴射した。デルタメトリンが数万リットル、フィプロニル、クロルピリホスやその他の殺虫剤も数百リットル散布された。その多くは、ヨーロッパや米国の一部では使用が禁止されている。

 北部のサンブル地区では、ある地上散布チームが推奨量の34倍の殺虫剤を散布し、ハナバチや甲虫が死んだだけでなく、散布した本人や農作物にも殺虫剤がかかったことが報告されている。

「当初は非常事態だったのです」。ケニアでバッタ防除対策の環境被害を監視するFAOチームのリーダー、テクラ・ムティア氏は話す。「食料を確保するため、できるだけ早く事態を収拾することが最重要課題でした」

欧米で禁止の殺虫剤を散布

害虫を殺す殺虫剤は当然ながら有毒だ。FAOが推奨し地域の政府が承認している4つの化学薬品のうち、クロルピリホス、フェニトロチオン、マラチオンの3つは、効果の対象が幅広い有機リン系殺虫剤だ。広く使用されているが、サリンガスと同じ有機リン中毒を起こしうる神経剤だ。もうひとつのデルタメトリンは合成ピレスロイド系殺虫剤で、哺乳類にはそれほど有毒ではないものの、ハナバチや魚には毒性が強い。

バッタ防除に使用する殺虫剤の評価を行うFAO殺虫剤審査グループは、この4つの薬剤を、いずれもハナバチには高リスク、鳥類には低~中リスク、バッタの天敵や土壌昆虫(アリ、シロアリなど)には中~高リスクと評価している。

欧州連合(EU)は2020年の初めにクロルピリホスの使用を禁止した。米国ではニューヨーク州、カリフォルニア州、ハワイ州ですでに禁止されている。フェニトロチオンもヨーロッパでは禁止されているが、米国とオーストラリアでは許可されており、オーストラリア政府はバッタ防除対策の主力に用いている。

「私たちは、従来の殺虫剤について隠すつもりはありません」と話すのは、ナイロビのFAO回復チームのリーダー、シリル・フェランド氏だ。急増するバッタの大群を前に、手をこまねいていることはできなかったと言う。「信頼できる方法で、サバクトビバッタの数を減らしたいと考えています」

環境への負荷が低い生物農薬の課題

バッタだけを駆除し、環境への負荷が低い生物農薬が、数十年前から使えるようになっている。だが、依然として化学殺虫剤が選択されることが多く、現在の東アフリカでのバッタ防除活動では散布薬剤の9割を占めている。

生物農薬の開発が始まったのは、北アフリカからインドまでの広い地域で何年も続いた蝗害が終息した1980年代後半のことだった。

「数百万リットルもの殺虫剤が散布されたことを知り、援助した側も恐怖を感じました」とオランダ人科学者クリスティアーン・クーイマン氏は振り返る。「そして、研究者たちに『他に何かできることはないのですか』と尋ねたのです」。その後、氏はバッタ駆除に効果がある糸状菌メタリジウム・アクリダム(Metarhizium acridum)を用いた微生物農薬を開発した。

メタリジウムは1998年から市場に流通しており、FAOからバッタに対する「最適な防除オプション」として推奨されているが、ほとんど使用されていない。というのもメタリジウムは遅効性で、バッタが死ぬまでに数日を要するからだ。高価で散布方法も難しい。さらに、最も効果を発揮するのはまだ飛べない幼虫に対してであり、最大の脅威である成虫の大群ではない。

バッタだけを駆除するというメタリジウムの最大の特長が商品としての収益性を下げているせいで、メーカーはあまり作りたがらず、コストのかかる登録手続きなどもその国が必要に迫られるまでやりたがらない。結果、必要なときに手遅れになってしまう。

「バッタの大群はあちこちで頻繁に発生するものではありません。メーカーは、使用される機会が少ない製品は作りたがらないのです」。英国の科学者で、FAO殺虫剤審査グループの設立者であるグレアム・マシューズ氏はこのように説明する。大群が襲来したときには「生産を待っている暇はありません。在庫からすぐに入手したいと思うでしょう」

こうした理由から各国政府は、大手農薬メーカーが大量生産する、効果の対象が幅広い有毒な化学殺虫剤に頼っているのが現状だ。

影響の程度は不明

現地の農家や牧畜業者、科学者、自然保護活動家たちが特に懸念しているのは、ケニアで広い範囲に散布された殺虫剤がどのような害をもたらしたかについてほとんど明らかになっていない点だ。ある米国政府の環境評価では、この地域のバッタ防除活動について「環境と人間の健康に重大な悪影響を及ぼす可能性がある」と警告されている。また世界銀行による調査では、環境リスクは「相当な」と評価された。

今回の防除活動が始まって1年以上が過ぎたが、薬剤散布の環境への影響に関するFAOの評価はいまだに公表されていない。

「送粉者への影響が特に心配です」と、ケニア生物多様性・生態安全性協会のアン・マイナ氏は話す。氏が知る農家の人々は、ハチミツとマンゴーの収穫量が減っているのはハナバチがいなくなったからだと考えている。昆虫学者でケニア、ムパラ研究センター所長のディノ・マーティンス氏もこうした懸念を感じているが、モニタリング情報がないため、実際に何が起きているのか知ることができないという。

「ケニア北部および拡大アフリカの角(GHR)は、世界でも有数のハナバチの多様性に富む地域です。数千種が生息していますが、その多くはまだ解明されていません」とマーティンス氏は話す。「バッタを防除すると同時に、この乾燥地帯の脆弱な生物多様性を保護できる手段を開発する必要があります」

FAOが2003年に作成した安全・環境対策に関するガイドラインでは、空中散布は地上散布よりも人体への影響は少ないとみられるが、生態系を汚染するリスクがあるので「環境面への懸念が高くなる」ことが多いとされている。

FAO環境評価チームのリーダーであるムティア氏の話では、地上散布のスタッフはさらに訓練を受けて上達したうえ、地元コミュニティーに対しては住民や家畜にもたらすリスクの情報提供を向上させたという。大群が襲来した当初の数週間よりも、現在のケニアのバッタ駆除活動は改善している。

重要な報告書はなぜか公表されず

だが2020年9月に完成したムティア氏の環境・健康モニタリング報告書はまだ公表されていない。その理由ははっきりしない。FAO側は「報告書はケニア農務省から発表される」と述べる一方、農務省の広報担当者は「FAOがまだ報告書を提出していない」と話している。

取材に対してムティア氏は、自身がまとめた散布に関する評価において「警戒すべき要因」は見つからなかったと話している。

しかし、ナショナル ジオグラフィックが入手したこの報告書のコピーには、サンブル地区で重大な過剰散布が行われたことや、散布地域の住民とのコミュニケーションが広範囲で欠如していることなど、より詳細で憂慮すべき内容が記されている。

調査した13地点のうち4地点では、サバクトビバッタの死骸がまったく見つからなかった。散布の効果がなかったか、または調査チームが適切な場所を訪れなかったことがうかがわれる。また、調査チームに誤った位置情報が何度も伝えられたり、遠隔地に迅速に移動できるヘリコプターや車両を利用できなかったりしたことも報告書は伝えている。

「私たちは、殺虫剤散布の悪影響を監視するシステムがないままにバッタ防除活動が進められていることを特に憂慮してきました」とケニア、ナイロビ大学の動物科学者ラファエル・ワホーム氏は話している。FAOが把握している情報は研究者やその他の関係者に公開されるべきだと氏は言う。「(殺虫剤が)使用された場所で何が起きているのか、私にもよくわかりません」

(文 TRISTAN MCCONNELL、写真 DAVID CHANCELLOR、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年3月27日付の記事を再構成]

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