ミスチル強さ見せる 40代以上アーティストのアルバム2020年のヒットアルバムを振り返る(2)

日経エンタテインメント!

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2020年にヒットしたアルバムを分析することで、通常のランキングでは分からないヒット作を読み解く。「ロングセラー」を取り上げた前回の「音楽アルバムランキング、ロングセラーも配信から」に続く第2回のテーマは「R40」。アルバムランキングに、40代以上のアーティストの作品はどのくらい入っているのか、そしてその傾向は? 音楽マーケッターとして市場分析を行っている臼井孝氏が分析する。[※特に注記がない場合、本文中の『』はアルバム名、「」は曲名を示している]

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ストリーミング全盛の今、YOASOBI、Official髭男dism、あいみょん、優里と、気がつけばヒット・アーティストは20代が中心で、CDシングル時代のヒット常連だったビッグネームは見かけなくなった。そんな時代、40代以上のアーティスト(以下、“R40アーティスト”)のアルバムはヒットしているのか。ヒットしているとしたら、どういった作品なのか。20年のBillboard JAPAN HOT ALBUMランキングから考察してみた(集計期間:19年12月30日~21年1月3日)。なお、メンバーが複数の場合は平均年齢が40歳以上のアーティストを対象とする。

2020年のBillboard JAPAN HOT ALBUMランキングを元に40代以上のアーティストのアルバムをピックアップして作成した。DLはダウンロード、LUはルックアップ(CDのパソコンへの取りこみ)を示す

まず、年間アルバム・トップ100を見ると、23作のR40作品がランクインしている。同期間のソングチャートでは、R40アーティストの作品は年間100位前後にスキマスイッチ「奏」、Mr.Children「HANABI」、aiko「カブトムシ」が入る程度で、その大半は10代から30代前半のアーティストの楽曲だったことと比較すると、アルバム部門ではR40アーティストのヒット作がまだまだあることがわかる。

Mr.Childrenの通算20作目となるオリジナル『SOUNDTRACKS』

その中で1位となったのは、Mr.Childrenの通算20作目となるオリジナル『SOUNDTRACKS』。12月2日発売のため、4週間分しか集計の対象になっていないが、R40アルバムでダントツの1位となった。3月末時点では累計35万枚を突破し、年間トップ10レベルのヒットとなっている。CDからダウンロード、ストリーミングと時代が移り変わる中でも、彼らは1993~94年の大ブレイクから四半世紀以上トップクラスを維持していることがわかる。なお、ミスチルはダウンロード順位が空欄だが、CDから遅れること2カ月半後にダウンロードとストリーミングを解禁した。その一方で、CDと同日に自身初となるアナログ盤を発売している点からも、パッケージやその音質へのこだわりを感じさせる。

5位の福山雅治『AKIRA』はオリジナル12作目、6位のKinKi Kids『O album』は同16作目と、彼らも息が長い。いずれもパッケージを中心にヒットを継続しているようだ。

2位はJUJU『YOUR STORY』のCD4枚組相当のオールタイム・ベスト。他にも、7位のGLAY、9位のMISIA、12位の浜崎あゆみ、13位の椎名林檎、16位の中島みゆき、17位の矢沢永吉、20位の松任谷由実、21位の東京スカパラダイスオーケストラ、23位の安室奈美恵がベスト盤となる。こうしてみるとR40アーティストのヒット作の4割以上を、ベスト盤(もしくはそれ相応のヒット・セレクション)が占める。データを見ても、CD以上にダウンロードやルックアップ(CDのパソコンへの取りこみ)の強さが目立っており、やはりCDを購入する手前のライトなファンの入り口としてベスト盤が人気ということがよく分かる。

実力派のカバーも人気

3位は、エレファントカシマシの宮本浩次による初のカバーアルバム『ROMANCE』。21年になってもロングヒットを続けており、ダウンロードも合わせれば最終的には累計20万ユニットを超えそうだ。

内容は、久保田早紀「異邦人」、中島みゆき「化粧」、岩崎宏美「ロマンス」、松田聖子「赤いスイートピー」、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、ちあきなおみ「喝采」、松任谷由実「恋人がサンタクロース」など、おもに昭和の名曲をおなじみの宮本節で絶唱するというスタイル。その圧倒的な存在感と、近年の昭和歌謡/昭和ポップスブームがうまくリンクして、カバー作品としては過去5年間で最大級のヒットとなっている。

カバーアルバムは他にも、8位にJUJUの男歌カバー『俺のRequest』、22位には森口博子のアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズの楽曲カバー『GUNDAM SONG COVERS 2』など、コンセプトの明確な実力派歌手のカバーが人気のようだ。

R40世代は、そのアーティストパワーを維持することでオリジナルアルバムをヒットさせつつ、周年などを記念したベストアルバムでビギナーを取り込み、さらに人によってはそのキャリアに裏打ちされた表現力でカバーアルバムもヒットさせる、といったバリエーションが読み取れる。

一方で、現状、R40アーティストのヒットとストリーミングの関係性は希薄なようだが、海外では松原みき「真夜中のドア」(1979年)がストリーミングから大ヒットしている。日本国内でも幅広い年代にストリーミングが浸透することによってR40アーティストの楽曲の再評価が進むことも大いに期待したい。

<<第1回「音楽アルバムランキング、ロングセラーも配信から」

臼井孝
1968年生まれ。理系人生から急転し、音楽マーケッターとして音楽市場分析のほか、各媒体でのヒット解説、ラジオ出演、配信サイトの選曲(プレイリスト【おとラボ】)を手がける。音楽を“聴く/聴かない”“買う/買わない”の境界を読み解くのが趣味。著書に「記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝」(いそっぷ社)。
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