日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/4/19

霊長類の系譜をたどる

霊長類の起源については2つの考え方がある。1つは、霊長類の系譜は5600万年前ごろに始まったとする考え方だ。現在の霊長類と同じ特徴をもつ動物が化石記録に現れるのがその頃だからだ。

もう1つは、もっと古いプレシアダピス目まで遡れるとする考え方だ。プレシアダピス目は140種以上の古代種からなる哺乳類で、現在の霊長類と同様、果物をすりつぶすのに適した歯と、木の枝から枝へ移動するのに適した骨格をもつ。しかしプレシアダピス目は、現在の霊長類のような前方を向いた目や大きな脳をもたないため、真の霊長類であるかどうかについては論争がある。

今回の論文の共著者である米ニューヨーク市立大学ブルックリン校の生物人類学者スティーブン・チェスター氏は、「私が解明したいのは霊長類の起源です」と語る。「霊長類であることがはっきりしているものを研究することにはあまり興味がありません」

1965年、プレシアダピス目の最古の属、プルガトリウスの化石が発見された。それは6300万年前の歯の化石だったが、のちに発見された化石により、プルガトリウスの存在は6500万年前にまで遡れることがわかった。

だがこれまで長らく科学者たちは、プルガトリウスはさらに古い時代まで遡れるのではないかと考えてきた。現在の霊長類の進化モデルや遺伝子研究から、霊長類の最初の仲間は約8150万年前の白亜紀に登場したと示唆されている。だが、この時代の化石証拠が少ないため、古生物学者はこの説の正しさを確認できずにいる。

2009年の古脊椎動物学会でチェスター氏がクレメンス氏と初めて会ったとき、プルガトリウスの化石は歯と顎骨の破片しか見つかっていなかった。チェスター氏がプルガトリウスに興味をもっていることを知ったクレメンス氏は、博物館のコレクションの中から標本を探してみるように誘った。

2012年、チェスター氏はコレクションの中の小さな化石の破片を顕微鏡で観察し、それがプルガトリウスの足首の骨であることを突き止めた。氏が2015年にクレメンス氏らとともに学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した研究は、この関節の可動性を分析し、プルガトリウスが木々の間を効率よく移動できた可能性があることを明らかにした。そこから霊長類の初期の祖先の姿が浮かび上がってきた。

大量絶滅を乗り越えて

2018年、すでにウィルソン・マンティラ氏は後悔していた。自身も2003年にプルガトリウスについての重要な発見をしたはずなのに、さまざまな事情で放っておいたからだ。だが、ついにその歯の化石の研究を再開し、チェスター氏に分析の協力を依頼した。

放射年代測定の結果、この標本は6600万年前に白亜紀が終わってから10万5000年~13万9000年以内のものである可能性が高いことがわかった。霊長類の化石としては知られている限り最古だ。

研究チームは、ヘルクリークで見つかったプルガトリウスの顎骨の破片を何十点も調べた結果、既知のプルガトリウス・ジャニサエのほかに新種も発見したと確信した。新種の学名は、クレメンス氏らに所有地での作業を許可してくれたモンタナ州の牧場主にちなんでプルガトリウス・マッキーベリとした。

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霊長類の原型
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