2021/4/16

今回の研究をきっかけに、ライオンの移殖の有用性が疑問視されることになるだろうと、アフリカ南部で肉食獣を研究するフロリアン・ワイゼ氏は言う。「移殖の目的は、家畜の捕食問題を軽減しつつ、襲撃した個体を生かして、野生ライオンの遺伝子プールに貢献し続けてもらうことです。ライオンが移送先で放たれてからすぐに死んでしまったり、家畜を殺し続けたりするなら、この目標は達成できません」

英オックスフォード大学の保全生物学者エイミー・ディックマン氏は、たとえライオンの生存が確認されたとしても、その事実が移殖の影響をすべて示しているわけではないと指摘する。なぜなら、移送先に突然ライオンが現れれば、以前からそこにいるライオンに害を及ぼす可能性があるからだ。新参者のライオンがそこで暮らす動物を殺したり追い出したりした場合、または再度家畜を襲った場合、すべてのライオンに対する報復の可能性が高まると、ディックマン氏は述べている。

衝突を未然に防げ

ライオンを移殖することよりも、ライオンが家畜を見つけて殺す機会を減らすことに重点を置くべきだと、モード氏らは言う。アフリカ各国は様々な予防策を講じており、たとえば、肉食動物に目を光らせるライオン監視係を雇用する、ライオンの侵入を防ぐ囲いを設置する、ライオンの接近を知らせる警告メールを送信する、牧畜業者に対してリスクの高いエリアに家畜を近づけないよう指導するといった対策がとられている。

状況はそれぞれに異なるため、保護活動家は地元のコミュニティと直接やりとりをして問題の原因を特定し、解決策を打ち出すべきだと、人間と野生動物の共生を推進するジンバブエのNPO「ワイルドライフ・コンサバティブ・アクション」事務局長のモレエンジェルス・ンビザ氏は言う。

「地元の協力が得られれば、たとえ問題を完全には解決できなくとも、人々を味方につけることができるため、ライオンへの報復が起こりにくくなります」

必要に応じて、野生動物を扱う部署以外の政府部門も含めて、問題の根本的な原因に対処すべきだと、ハンセン氏は述べている。「ナミビアの北東部では、人々が居住地を広げたり農業を行ったりするやり方が、ライオンと人間の衝突の大きな要因になっていることがわかりました。土地を用途に応じて適切に区分けすれば、状況は大きく変わるでしょう」

「ライオンの移殖というのは、人間とライオンの衝突の全責任を保護当局に負わせるやり方ですが、実際には問題はもっと複雑なのです」

一方、タンザニア野生動物研究所のライオン生態学者デニス・イカンダ氏は、特定の状況では、移殖が現実的な選択肢となり得ると述べている。たとえば、個体や群れがすぐにも報復を受ける恐れがあり、既存のライオンがいない適切な移殖先が近くにある場合がこれにあたる。

まさにそうしたケースが、2017年に、家畜の牛を食べて今にも殺されそうになっていたライオン7頭をタンザニア当局が捕獲・移殖した例だ。そのうち4頭は、追跡調査が終了する12カ月後まで生き延びた。「群れ全体が毒殺されるおそれがあったことを考えれば、これは成功例と言えるでしょう」とイカンダ氏は言う。

一方で、より困難なケース、たとえば適した移殖先がなく、その他の方策もうまくいかない場合などは、長期にわたって問題を起こしているライオンの処分を当局が検討しなければならないこともあるだろうと、ジンバブエの「ライオン・リカバリー・ファンド」理事ピーター・リンゼイ氏は言う。

「致死的な管理を望む者はいません。しかし、そうせざるを得ないときもあります。忘れてはならないのは、予防が最善の対策だということです。それは間違いありません」

富裕国や寄付者は、アフリカ各国がライオンによる家畜の殺害を減らす対策を実施できるよう、より積極的な役割を果たすべきだと、リンゼイ氏は続ける。

「アフリカの野生動物は、世界でもとりわけ共存が難しい相手です。共存は必ず達成が可能ですが、アフリカにはこの問題に取り組むための支援が必要なのです」

(文 RACHEL NUWER、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年3月25日付]

ナショジオメルマガ