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保護し移動も75%が死亡 ライオンと人の共存の難しさ

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ナショナルジオグラフィック日本版

ボツワナで野生動物保護に取り組むグリン・モード氏は、科学者は研究対象に愛着を持つべきではないことを知っている。しかし、モード氏とその同僚たちは、彼らが「マギギ」と名付けた6歳のライオンの幸運を願わずにはいられなかった。なぜなら、それだけ過酷な運命が待ち構えていることを知っていたからだ。

マギギというのはボツワナ語で「魔術師」を意味し、このメスがよく姿を消してしまうことから付けられた名だった。マギギがベレの村外れで家畜の牛を繰り返し襲うようになったため、当局はマギギを捕獲して、元いた場所から約130キロ離れたセントラル・カラハリ動物保護区内に移送した。

マギギは大半の時間を人里離れた保護区で過ごしていた。だが、捕獲から1年がたったころ、家畜を追って保護区の外へ飛び出し、農民に射殺される。

「マギギが長生きしてくれることを願っていました」と、ボツワナの野生動物保護団体「カラハリ・リサーチ・アンド・コンサベーション」創設者のモード氏は言う。「しかし、結局はうまくいきませんでした。悲しいですが、これはよくあることなのです」

このときにモード氏らが行った研究により、マギギがたどった不運ないきさつは、移殖(野生動物を意図的かつ人為的にほかの生息地に移動させること)させられたライオンにとって珍しくないことが確かめられた。その結果は2021年2月15日付で学術誌「African Journal of Wildlife Research」に発表された。

数十年前から、アフリカの多くの国々の野生動物管理担当者は、家畜を繰り返し襲うライオンへの人道的な対処法として移殖を行ってきた(人を襲ったライオンは安楽死させられる)。しかし、今回の研究は、移殖されたライオンの大半がその後も家畜を襲い、村人の暮らしを脅かし続けていることを示している。

しかも、モード氏らが追跡観察した移殖後のライオン13頭のうち10頭が1年以内に死亡した。詳しい内訳は後で述べるが、人間に殺されたものもいれば、移動によるストレスから死んだと思われるものもいる。

「政府がこの方法を用いる主な理由は、ライオンを射殺したくないからです」とモード氏は言う。「現在の管理は、致死的なもの以外の手法をとろうという方向へ大きく動いています」

国際自然保護連合(IUCN)によれば、アフリカ全体でライオンの数は過去20年間で43%減少し、現在ではわずか2万3000頭になっている。ボツワナに残されているのは約3000頭だ。これほど急激に減った主な理由としては、開発のほか(ライオンの生息地はかつての8%のみ)、獲物の減少や報復的な殺害などがある。

「ライオンをその場で殺害せずに移動させようとしている政府を批判すべきではありません」とモード氏は言う。「しかしほとんどの場合、移殖はその労力に見合う結果が得られないため、既成概念にとらわれない発想でより有効な解決策を見いだす必要があります」

正しい答えを求めて

一般に、インドのトラから米国のオオカミまで、問題を起こす肉食動物を移殖させるという対策は、複雑か、あるいは期待にそぐわない結果に終わることが多い。

たとえば、1997年に「Biodiversity & Conservation」に発表された、世界各地で行われた複数の研究のレビューでは、大半の大型肉食獣が、たとえ数百キロ先からでも元いた場所に戻ろうとした、あるいは戻る途中で死んでしまったことが示された。同様に、2011年に「Wildlife Biology」に掲載された肉食獣10種を対象とした調査でも、動物の移殖は、ほかの方法と比べてコストがかかるうえ効果が薄いという結論に達している。

ボツワナで行われたほかの大型ネコ科動物の調査でも、こうした世界の研究結果とよく似た傾向が見られる。ある研究では、場所を移されたヒョウ4頭のうち3頭が死亡し、4頭目は再び家畜を殺すようになったことが示された。また別の論文によると、移殖後に1年以上生き延びたのは、11頭のチーターのうち2頭だけだったという。この調査結果はそれぞれ2010年の「Wildlife Biology」と2015年の「Oryx」に発表されている。

移殖という対策は基本的に、「肉食動物を厄介払いして、あとはうまくいくよう祈るだけ」に等しいと、ナミビアで保護活動「クワンド肉食獣プロジェクト」のコーディネーターを務めるリース・ハンセン氏は言う。

ただしライオンの場合は、調査がほとんど行われておらず、数十年前に発表された数少ない論文の結論もあやふやなものばかりだった。ライオンの専門家は以前から、移殖は失敗する場合が多いと感じていたが、これまで確かな証拠は得られていなかった。「だれもが正しい答えを知りたいと思っていたのです」とモード氏は言う。

そこで、モード氏とボツワナのライオン保護活動家モンポロキ・モラペディ氏らが、先に述べたようにボツワナ南部で移送された家畜殺しのライオンの追跡調査を行った。同国の野生動物・国立公園局と協力し、2013年から2017年の間に、マギギを含むメス6頭とオス7頭が対象となった。13頭はすべて捕獲された場所から平均160キロほど離れた野生動物保護区内に移殖され、調査には衛星追跡機能のついた首輪を使用した。

驚いたことに、そのうちの6頭は別の場所に放たれてからすぐに再び家畜を襲い始めたため、改めて捕獲をしてまた別の場所に移さなければならなかった。1頭は3度目の捕獲を余儀なくされ、数頭は元いた場所に戻ってしまった。

さらに残念なのは、調査対象13頭のうち10頭が、移殖後1年以内に死亡したことだ。

5頭は、牛を襲われた報復として農民たちに殺された。ほかの5頭は、おそらくは突然ほかのライオンがいる見知らぬ土地にたった1頭で連れてこられたストレスによって衰弱し、衝突や競争につながったのではないかと、研究者らは考えている。

残りの3頭のうち、1頭では首輪が外れ(ほかのライオンとの争いが原因と推測される)、1頭では信号が送信されなくなったため、彼らがその後どうなったのかはわからない。2年後まで生き残りが確認できたのは1頭だけだ。

今回の研究をきっかけに、ライオンの移殖の有用性が疑問視されることになるだろうと、アフリカ南部で肉食獣を研究するフロリアン・ワイゼ氏は言う。「移殖の目的は、家畜の捕食問題を軽減しつつ、襲撃した個体を生かして、野生ライオンの遺伝子プールに貢献し続けてもらうことです。ライオンが移送先で放たれてからすぐに死んでしまったり、家畜を殺し続けたりするなら、この目標は達成できません」

英オックスフォード大学の保全生物学者エイミー・ディックマン氏は、たとえライオンの生存が確認されたとしても、その事実が移殖の影響をすべて示しているわけではないと指摘する。なぜなら、移送先に突然ライオンが現れれば、以前からそこにいるライオンに害を及ぼす可能性があるからだ。新参者のライオンがそこで暮らす動物を殺したり追い出したりした場合、または再度家畜を襲った場合、すべてのライオンに対する報復の可能性が高まると、ディックマン氏は述べている。

衝突を未然に防げ

ライオンを移殖することよりも、ライオンが家畜を見つけて殺す機会を減らすことに重点を置くべきだと、モード氏らは言う。アフリカ各国は様々な予防策を講じており、たとえば、肉食動物に目を光らせるライオン監視係を雇用する、ライオンの侵入を防ぐ囲いを設置する、ライオンの接近を知らせる警告メールを送信する、牧畜業者に対してリスクの高いエリアに家畜を近づけないよう指導するといった対策がとられている。

状況はそれぞれに異なるため、保護活動家は地元のコミュニティと直接やりとりをして問題の原因を特定し、解決策を打ち出すべきだと、人間と野生動物の共生を推進するジンバブエのNPO「ワイルドライフ・コンサバティブ・アクション」事務局長のモレエンジェルス・ンビザ氏は言う。

「地元の協力が得られれば、たとえ問題を完全には解決できなくとも、人々を味方につけることができるため、ライオンへの報復が起こりにくくなります」

必要に応じて、野生動物を扱う部署以外の政府部門も含めて、問題の根本的な原因に対処すべきだと、ハンセン氏は述べている。「ナミビアの北東部では、人々が居住地を広げたり農業を行ったりするやり方が、ライオンと人間の衝突の大きな要因になっていることがわかりました。土地を用途に応じて適切に区分けすれば、状況は大きく変わるでしょう」

「ライオンの移殖というのは、人間とライオンの衝突の全責任を保護当局に負わせるやり方ですが、実際には問題はもっと複雑なのです」

一方、タンザニア野生動物研究所のライオン生態学者デニス・イカンダ氏は、特定の状況では、移殖が現実的な選択肢となり得ると述べている。たとえば、個体や群れがすぐにも報復を受ける恐れがあり、既存のライオンがいない適切な移殖先が近くにある場合がこれにあたる。

まさにそうしたケースが、2017年に、家畜の牛を食べて今にも殺されそうになっていたライオン7頭をタンザニア当局が捕獲・移殖した例だ。そのうち4頭は、追跡調査が終了する12カ月後まで生き延びた。「群れ全体が毒殺されるおそれがあったことを考えれば、これは成功例と言えるでしょう」とイカンダ氏は言う。

一方で、より困難なケース、たとえば適した移殖先がなく、その他の方策もうまくいかない場合などは、長期にわたって問題を起こしているライオンの処分を当局が検討しなければならないこともあるだろうと、ジンバブエの「ライオン・リカバリー・ファンド」理事ピーター・リンゼイ氏は言う。

「致死的な管理を望む者はいません。しかし、そうせざるを得ないときもあります。忘れてはならないのは、予防が最善の対策だということです。それは間違いありません」

富裕国や寄付者は、アフリカ各国がライオンによる家畜の殺害を減らす対策を実施できるよう、より積極的な役割を果たすべきだと、リンゼイ氏は続ける。

「アフリカの野生動物は、世界でもとりわけ共存が難しい相手です。共存は必ず達成が可能ですが、アフリカにはこの問題に取り組むための支援が必要なのです」

(文 RACHEL NUWER、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年3月25日付]

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