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繊細な和菓子に魅せられ エッセイスト・森下典子さん

食の履歴書

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20歳の時に始めた茶道の魅力をつづるエッセー「日日(にちにち)是好日(これこうじつ)」が60万部を突破するなど、ロングセラーとなっている森下典子さん。丼飯を豪快に食べるのが好きだった彼女が茶道を通じて夢中になったのは、和菓子の繊細な魅力だった。

子供の頃から、舌がませていた。父はお酒が好きで、一緒に焼鳥店や居酒屋に連れて行かれることもあった。居酒屋で出た「ねぎま」のネギがおいしくて、ネギだけを注文して父を慌てさせ、大将に笑われた。薫製の貝柱は食べ過ぎて気持ち悪くなり、その後食べられなくなった。

一方、甘い物が大好物。「茶色い物はおいしい」と思っていた。カステラの焦げ目、チョコレート、ココア……。母の友人からもらったカステラを、こっそり切って食べているうちに止まらなくなり、1箱の3分の2ほど食べたところで突如、頭痛と悪寒に見舞われた。「気に入ったものをとことん食べてしまう。食事の三角食べは今でも苦手」

半面、好きな食べ物以外は見向きもしなかった。だから、必ずしも「茶色い物」ではない和菓子の魅力は、一生知らないで終わると思っていた。和菓子と聞いて思い浮かべるのはせいぜい、おはぎやあんこ、みたらし団子、ようかんぐらい。祖母の家で出ても「チョコのほうがいいな」と心の中でつぶやいた。

和菓子と向き合ったのは20歳で茶道を始めてからだ。大学に入り、母から半ばむりやり地元横浜でお茶の稽古に行くことを勧められた。蓋付きの入れ物で出てくることに興味を持った。蓋を開けると、美しいお菓子が並んでいる。どんな味がするのか想像がつかない。お茶の先生は毎週、違う菓子を用意し説明した。「手のひらに乗るくらい小さな世界なのに、味、香り、見た目、名前……すべてに意味があり、季節を感じられる。その小さな世界に魅せられました」

最初に感動したのは東京の和菓子の老舗、長門の「ゆず饅頭(まんじゅう)」。冬至のころ先生が「日本橋まで買いに行ったの」といって出てきた。見た目は1個のユズ。ボコボコした果皮を思わせる黄色いまんじゅうの皮には、すりおろしたユズの皮を混ぜてあり、その香りとあんこの甘さが合う。枝は緑のねりきりで繊細に再現していた。

仙台から取り寄せた九重本舗 玉澤(たまざわ)の「霜ばしら」という菓子も印象に残っている。缶に白い粉が入っていて、アメが刺さっている。先生に「どうぞお取りなさい」と缶を渡され、箸でアメをひとつ抜く。口に入れるとパリっと割れて溶けた。「地面に立つように出現し、踏むと倒れたり割れたり。そしてすぐ溶けてしまう。霜柱のはかなさが表現されていて驚きました」

お茶を始めてからも色々あった。就職活動はうまくいかず、週刊誌の編集部のアルバイトから物書きの世界に入った。「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」を出版したのは46歳のときだ。それから16年後に黒木華(はる)や樹木希林の出演で映画化され、観客動員は数百万人になった。自身は約40年、ほぼ毎週同じ教室に通い、茶道と和菓子に親しんできた。いつしか茶道はエッセイスト・森下典子を代表する題材となっていた。新型コロナウイルス感染拡大でペースは落ちているが、お茶に関する講演活動などで全国を飛び回る。

食いしん坊は和菓子以外でも本領発揮してきた。フランス料理、イタリア料理、懐石など話題の店に多く出かけた。でも今は「気取らず、リラックスして食べられるものが好き。漁師飯とか丼物のような、一気にかき込めるものが一番」。

「食べるときは、甘い辛いの味だけでなく、そのときの自分の気持ちや気分ごと味わっている」と感じる。最も記憶に残っている食事は、小学生時代の土曜日の昼ご飯。学校から帰宅し、これから始まる1日半の休みに胸を膨らませながら大河ドラマの再放送を見て、焼きジャケ、温めなおした味噌汁や白米を食べた。その圧倒的な開放感とともに食べるご飯以上の食事には、まだ出合っていない。「あの開放感はもう味わえないですね。仕事には終わりがありませんから」と笑う。

週末に一家そろって出かけ、帰宅した後の夕食の記憶は宝物だ。まだ明るいうちに風呂に入る。台所からは母が野菜を刻む音が響き、父は上機嫌。暑くも寒くもない5月の初め。「その思い出があれば、一生幸せに生きていける気がしています」

【最後の晩餐】 味噌を付けて焼いた焼きおにぎり。居酒屋ではしょうゆを付けたものが多いが、母が作るのは味噌だった。風邪気味のときに食べて寝ると元気が出た。パリパリと香ばしいご飯のおいしさと味噌の風味で、中に具は無くていい。食べると自分の原点に戻った感じがする。

季節の炊き込みご飯

森下さんの行きつけは東横線東白楽駅から3分の創作日本料理「はせ茂」(横浜市、電話045・401・2555)。お気に入りは季節の炊き込みご飯だ。からすみ、マツタケ、アユなど季節ごとに内容が異なり、「1年中楽しみにするお客様もいます」と店主の長谷川茂樹さん。店主自ら早朝の市場で食材を選び、魚をさばき、新鮮な野菜をきざみ、入念にだしをとって夕方の開店時間を迎える。

6品5280円、10品9350円などのコース料理が人気。訪れた日は「ビーツのポタージュ」「甘鯛(あまだい)のカリカリ焼き蛤(はまぐり)スープと共に」などがメニューに並んだ。

20席の本店のすぐ横には、8人ほどが入れる別入り口の個室「離れ」があり、家族の集まりや会食などに使い勝手がよさそうだ。

(砂山絵理子)

もりした・のりこ 1956年神奈川県生まれ。日本女子大文学部卒。87年に「典奴どすえ」(朝日新聞社)でエッセイストとしてデビュー。2002年に発行した「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(新潮文庫/飛鳥新社)がロングセラー。10年「表千家教授」取得。

[NIKKEIプラス1 2021年3月27日付]

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