安田亜紀代U22編集長

――日本では研究者のキャリアに大変な苦労をイメージする学生が少なくありません。研究者をめざす若者を減らさないためには、どんなことが必要でしょうか。

玉尾 博士課程に進む学生が減っているという話につながることだと思います。米国では博士号を取得すると、給与にも大きな差が出てくるわけですよね。多くの時間と学費を使って頑張ったのに、それに見合った待遇を得られず、恵まれないというのは、あまりうれしいことじゃない。夢をもって博士になってもらえる環境を提供することが大事かもしれません。

そのためにも、科学者への憧れや敬意をもつような土壌をつくらないといけないと思います。僕は小学校の理科ではなく国語の教科書に、ノーベル物理学賞の赤崎勇先生の話を載せてほしい。苦労して青色発光ダイオード(LED)を開発し、それが社会にどれだけ大きな貢献をしたのかを伝えたい。低学年でそういう話にふれると、ずっと忘れませんから。

浅島 僕らの時代は野口英世でしたね。そういう意味では、親子が共通して学校で習い、語り合える科学者が少なくなっていて、会話が成り立たないのかもしれない。

昔は「末は博士か、大臣か」といわれるくらい、研究者は憧れの的だったんですよ。

玉尾 そうです。博士の方が上でしたよね、大臣より。

「最後の授業」に持参するもの

――もし小学校で「最後の授業」をするとしたら、どんな内容にされますか。

浅島 僕はたぶん昆虫か植物を持って行って「これ眺めてどう思う?」って聞きますね。例えばゴキブリを手に持って見せたとき、子どもは案外、「キャー」ではなく「ワァー」となると思う。そして「どうして黒いの」なんて聞いてくる。「夜に活動するんだ」とか「足1本なくなっても、また生えてくる」なんて言うとまた「私たちとは違うな」とか、彼らの間でいろんな会話が始まると思うんですよ。ゴキブリ一匹から知りたいことがどんどん膨らんでいく。そういう不思議に感じる気持ちを引き出したいなあ。

小学生への授業で、ゴキブリを手に持って見せてみたいと語る浅島さん(21年3月27日、東京・大手町)

玉尾 今だったら、僕はスマホを持って行ってしゃべるかな。こんなに小さいのに中に電池が入っているとか、マナーモードがどんな仕組みなのかとか。日本人の発明が詰まっているんだという話をしてしまいますね。

こういう身の回りにあるもの、スマホでもパソコンでもテレビでも、そういったものが科学者たちのたゆまぬ努力の結晶であることを伝えたいですね。

もちろん周期表も持参しますよ。「一家に1枚周期表」は、数字を含め科学的に正しい情報だけを載せています。きれいな写真とイラストをつけて、科学技術の進歩、最新の動向をできるだけ書き入れているんです。僕はこの周期表をテーマに講演を頼まれたら一切、断りません。

周期表は人類の知の集積、至宝だと思っています。自然科学の世界にこれほど大事なものはないと言ってもいいくらい。研究者たちの努力のたまもので、これを見ると感謝の念が起きます。

浅島 元素と元素の間に(未発見などで)空白となっている部分がもうないじゃない。

玉尾 16年に4つの元素の名前を正式に決めたので、今の周期表は118個の元素できれいに埋まっているんです。人類は歴史上、最も美しい周期表を手にしているんですよ。

玉尾さんが考案した「一家に1枚周期表」。文部科学省の「科学技術週間」のサイトなどからダウンロードできる(文科省提供)
浅島誠
1944年(昭和19年)、新潟県生まれ。67年東京教育大学(現・筑波大学)理学部卒、72年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。独ベルリン自由大学研究員、横浜市立大教授、東大教授などを経て2007年に東大副学長。08年文化功労者。16年東京理科大副学長。18年から帝京大学特任教授を務める。専門は発生生物学。1989年に細胞の分化を誘導するタンパク質「アクチビン」を発見し、再生医療分野に大きく貢献した。
玉尾皓平
1942年(昭和17年)、香川県生まれ。65年京都大学工学部卒、71年京大大学院工学研究科博士課程修了。93年京大教授。2008年理化学研究所基幹研究所長、11年文化功労者、12年日本化学会長。16年から豊田理化学研究所長を務め海外大学院進学支援にも力を入れる。専門は有機金属化学・有機合成化学。72年に炭素と炭素を触媒を使って効率よく結合させる「クロスカップリング反応」を世界で初めて開発。ノーベル化学賞を受けた鈴木章氏らの先駆けとなった。

(構成 天野豊文 撮影 瀬口蔵弘)


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