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こんな科学の授業どう? 生物・化学五輪リーダー対談

生物学・化学五輪 組織委トップ対談(下)

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NIKKEI STYLE

 地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)、エネルギー問題、再生医療、民間宇宙開発、そして人工知能(AI)……。人類の未来を左右する大きなテーマは、どれも科学の知見が欠かせないものばかりだ。そんな時代を生き、よりよい社会を築くにはどうしたらいいのか。科学の学びを生かし、それぞれの目標をめざす「サイエンスアスリート」から、そのヒントを学ぶ。

国際科学オリンピックのうち、日本がホスト国の2020年生物学五輪、21年化学五輪の組織委員長、浅島誠さん(76、東大名誉教授)と玉尾皓平さん(78、京大名誉教授)の対談。後半は子どもが科学に関心をもつきっかけづくりや、AIとの向き合い方などについて語り合ってもらった(進行役は安田亜紀代U22編集長)。

◇   ◇   ◇

――小中高生が科学に関心をもつために必要なことは何でしょうか。

浅島誠さん(以下、敬称略) 高校時代、化学でナトリウム片と水を反応させる実験があってね。先生には「絶対にマッチ棒の先より大きなナトリウムの塊を入れないように」と言われてたんだけど、僕のところは若気の至りで大きいのを入れた。そうしたらシャーレの中で(水と反応した)ナトリウム片が勢いよく回り出して、ドカンと爆発して天井を焦がした。僕らはそのとき「うわーっ」となってね。化学反応というもののすごさに感動したんだ。

いや危なかったし、まねしてほしくないんだけど、あんな反応を目の前で見た驚き、経験が一生のものになったのも確かでね。それで僕の高校の同期は化学に進むのが多かったくらいです。

一家に1枚周期表

玉尾皓平さん(以下、同) ナトリウムを水に入れての「バーン」。あれ、またやりたくなるんですよね……。危険を避ける工夫を含め、やはり経験してもらうことは大事ですよ。だから小中高生は自然の中で遊びましょうねというのが基本なんです。とにかく小さいときにいろんな経験、チャンスを与えて、驚きを記憶に残す。それが親から子、子から孫へ伝わっていく文化があるといい。

僕は元素周期表が一家に1枚はってあるといいと思って、2005年にそのための周期表をつくりました。当時、理科好きの割合は小学校7割、中学校5割、高校になると3割なんて言われてね。科学研究の発見に興味がある大人が日本は少ないという国際調査もあった。親は自分が嫌いなものを子どもに食べさせない。だからまず親に興味をもってほしいと思っています。

――現代はAIの存在感が高まっています。どんな未来を予想し、どう向き合っていけばいいと考えますか。

浅島 AI技術は、これからますます盛んに使われるようになりますね。そうすると改めて人とは何か、人間の尊厳や考える力が問われてくると思うんです。我々が制御できない部分が出てくるときに、どう対処するのか。そこで重要になるのが倫理観だと思うんです。そしてそこから生まれる行動規範みたいなものを意識しないと、人間が人間性を失うことになってしまう心配がありますね。

玉尾 データ処理はAIに任せればいい。でも「発見」は人間だよと僕は思っています。よく(経済や社会が)「データ駆動型」と言われるようになっているわけですが、人間の研究者は「経験駆動型」あるいは「ひらめき駆動型」。経験を積んで積んで、その結果としてひらめく。

セレンディピティ(偶発的で幸運な出合い)は、人間が実際に経験するなかでしか出てこないと思いますね。AIが蓄積したデータは尊重し、活用すればいい。それだけに頼ってはダメですよ、と。

浅島 セレンディピティを得るためには、やっぱり自分で考えて、自分で手を動かさないとダメだと思っているんです。

玉尾 その通りですね。

浅島 ただどうしても、その機会が少なくなっている気がしてね。

何か自分がやろうとしても、ネットで検索すると、だいたいだれかがやっているんですね。そうするとヤル気が起こらなくなる。でも、そうじゃなくて、本当はやりながら、まったく別のことが見つかるはずなんですよ。プロセスの中でね。だいたい思った通りになんかいかない。それが科学で、楽しみはそこにあるんですよ。与えられた情報だけで、結論を出してしまう、今はそういう傾向がありますね。

玉尾 いろんなことをやって、うまくいかないことが出てくる。それじゃあ、こうしようと考えて、今度は発見が出てくるわけですね。AIにデータを聞くことはいいですが、もう(先行研究が)あるんだからいい、わかってますよみたいになってしまったら、完全にAIに征服されてしまいますね。

ヒストリーをもった「NI」

浅島 僕はAIとの対比で使うんだけど、NIという言葉が好きなんです。ナチュラルインテリジェンス。何が違うかというと、NIはヒストリー(歴史)を持っているんですよ。生物の中にある、生命が歩んできた道の記録。これが重要なんです。

データだけみていると、それでわかったような気になってしまう。だけどちゃんとヒストリーに向き合えば、我々にわかっているのは一部だけで、実は全然わかってないことがわかるんだ。

地球上には生物が1000万種いるんだけども、ヒトはそのうちのたったの1種。研究に利用される(マウス、ショウジョウバエなど)モデル生物は300種。つまり99%以上の種のことはよくわかっていない。だからもっと自然を知らなければいけないし、多様な生物から学ぶことで、人のことを知ることができる。そして、それが最終的に(同じ種のヒストリーを宿した)人を信頼したり、愛したりすることにつながるんじゃないかな。

僕の好きなイモリは、切れた尻尾がまた生えてくるだけじゃなく、冬眠しながら自分のガンを治しちゃう。ホモ・サピエンス(現生人類)は誕生からたかだか20万年。イモリは3億年ですよ。高い適応能力で生き延びてきたイモリから学ぶことは多いですね。

玉尾 コンピューターは情報を0と1に変換して処理するけど、人間の脳はそんな単純な変換だけでやっているわけじゃないですからね。もうちょっと高度な変換の機構が入っているのがポイントじゃないですかね。

――国連の持続可能な開発目標(SDGs)が注目され、社会課題を意識する学生も増えています。大きなテーマの1つであるエネルギー問題についてはどう思われますか。

浅島 解はひとつじゃなくて、太陽光も水力も水素もあり、いろんな道があることを考えることが重要。それから発電だけじゃなく、送電、蓄電を含めてトータルで考えていくこと。今の送電システムは、かなりエネルギーをロスしている。

玉尾 送電は(電気抵抗ゼロの)超電導が究極の理想で、研究もされていますが、なかなか実現しない。科学技術が挑戦すべきところじゃないかな。

話が少しそれますが「脱炭素」という言葉が一人歩きしているのは困ったことだなと。「カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出・吸収が均衡すること)」はいいんだけど、脱炭素なんてあり得ない。(イメージが悪くなる炭素の研究から)子どもたちが離れますよ。

浅島 だいたい生物そのものが炭素からできているんだから。脱炭素もそうだけど、僕が最近気になったのは「ソーシャルディスタンス(社会的な距離)」。コロナの感染拡大を防ぐのに必要なのは「フィジカルディスタンス(物理的な距離)」で、社会を分断しちゃダメなんですよ。言葉は使い方によって、ものごとを危うくするところがある。

――日本では研究者のキャリアに大変な苦労をイメージする学生が少なくありません。研究者をめざす若者を減らさないためには、どんなことが必要でしょうか。

玉尾 博士課程に進む学生が減っているという話につながることだと思います。米国では博士号を取得すると、給与にも大きな差が出てくるわけですよね。多くの時間と学費を使って頑張ったのに、それに見合った待遇を得られず、恵まれないというのは、あまりうれしいことじゃない。夢をもって博士になってもらえる環境を提供することが大事かもしれません。

そのためにも、科学者への憧れや敬意をもつような土壌をつくらないといけないと思います。僕は小学校の理科ではなく国語の教科書に、ノーベル物理学賞の赤崎勇先生の話を載せてほしい。苦労して青色発光ダイオード(LED)を開発し、それが社会にどれだけ大きな貢献をしたのかを伝えたい。低学年でそういう話にふれると、ずっと忘れませんから。

浅島 僕らの時代は野口英世でしたね。そういう意味では、親子が共通して学校で習い、語り合える科学者が少なくなっていて、会話が成り立たないのかもしれない。

昔は「末は博士か、大臣か」といわれるくらい、研究者は憧れの的だったんですよ。

玉尾 そうです。博士の方が上でしたよね、大臣より。

「最後の授業」に持参するもの

――もし小学校で「最後の授業」をするとしたら、どんな内容にされますか。

浅島 僕はたぶん昆虫か植物を持って行って「これ眺めてどう思う?」って聞きますね。例えばゴキブリを手に持って見せたとき、子どもは案外、「キャー」ではなく「ワァー」となると思う。そして「どうして黒いの」なんて聞いてくる。「夜に活動するんだ」とか「足1本なくなっても、また生えてくる」なんて言うとまた「私たちとは違うな」とか、彼らの間でいろんな会話が始まると思うんですよ。ゴキブリ一匹から知りたいことがどんどん膨らんでいく。そういう不思議に感じる気持ちを引き出したいなあ。

玉尾 今だったら、僕はスマホを持って行ってしゃべるかな。こんなに小さいのに中に電池が入っているとか、マナーモードがどんな仕組みなのかとか。日本人の発明が詰まっているんだという話をしてしまいますね。

こういう身の回りにあるもの、スマホでもパソコンでもテレビでも、そういったものが科学者たちのたゆまぬ努力の結晶であることを伝えたいですね。

もちろん周期表も持参しますよ。「一家に1枚周期表」は、数字を含め科学的に正しい情報だけを載せています。きれいな写真とイラストをつけて、科学技術の進歩、最新の動向をできるだけ書き入れているんです。僕はこの周期表をテーマに講演を頼まれたら一切、断りません。

周期表は人類の知の集積、至宝だと思っています。自然科学の世界にこれほど大事なものはないと言ってもいいくらい。研究者たちの努力のたまもので、これを見ると感謝の念が起きます。

浅島 元素と元素の間に(未発見などで)空白となっている部分がもうないじゃない。

玉尾 16年に4つの元素の名前を正式に決めたので、今の周期表は118個の元素できれいに埋まっているんです。人類は歴史上、最も美しい周期表を手にしているんですよ。

浅島誠
 1944年(昭和19年)、新潟県生まれ。67年東京教育大学(現・筑波大学)理学部卒、72年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。独ベルリン自由大学研究員、横浜市立大教授、東大教授などを経て2007年に東大副学長。08年文化功労者。16年東京理科大副学長。18年から帝京大学特任教授を務める。専門は発生生物学。1989年に細胞の分化を誘導するタンパク質「アクチビン」を発見し、再生医療分野に大きく貢献した。
玉尾皓平
 1942年(昭和17年)、香川県生まれ。65年京都大学工学部卒、71年京大大学院工学研究科博士課程修了。93年京大教授。2008年理化学研究所基幹研究所長、11年文化功労者、12年日本化学会長。16年から豊田理化学研究所長を務め海外大学院進学支援にも力を入れる。専門は有機金属化学・有機合成化学。72年に炭素と炭素を触媒を使って効率よく結合させる「クロスカップリング反応」を世界で初めて開発。ノーベル化学賞を受けた鈴木章氏らの先駆けとなった。

(構成 天野豊文 撮影 瀬口蔵弘)

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