科学五輪はコロナに負けず 浅島誠さん×玉尾皓平さん生物学・化学五輪 組織委トップ対談(上)

2021年国際化学五輪の組織委員長を務める玉尾皓平・京大名誉教授(左)と、2020年国際生物学五輪の組織委を率いた浅島誠・東大名誉教授(2021年3月27日、東京・大手町)
地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)、エネルギー問題、再生医療、民間宇宙開発、そして人工知能(AI)……。人類の未来を左右する大きなテーマは、どれも科学の知見が欠かせないものばかりだ。そんな時代を生き、よりよい社会を築くにはどうしたらいいのか。科学の学びを生かし、それぞれの目標をめざす「サイエンスアスリート」から、そのヒントを学ぶ。

新型コロナウイルスのパンデミックは、高校生らによる国際科学オリンピック(数学、物理など7分野それぞれの大会の総称)にも影響した。2020年の生物学、21年の化学の大会は、いずれも日本がホスト国。それぞれの組織委員会を率いる浅島誠さん(76、東大名誉教授)と玉尾皓平さん(78、京大名誉教授)にリモート開催となった五輪の意義や現代におけるサイエンスの役割などを語り合ってもらった(進行役は安田亜紀代U22編集長)。

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浅島さんは細胞分化を促す誘導物質「アクチビン」の発見で再生医療などに大きく貢献。玉尾さんは炭素と炭素を触媒を使って効率よく結合させる世界初の「クロスカップリング反応」を開発した化学界の権威だ。それぞれ生物学、化学の五輪でホスト国となった日本の組織委員長を務めている。

忘れてはならない敬意

――コロナ禍は世の中に多くの変化をもたらしました。とくに着目している変化はありますか。

浅島誠さん(以下、敬称略) 研究の現場も教育の方法も大きく変えたと思いますね。大学ではオンライン講義が広がり、教材の作り方も変わった。慣れない当初はトラブルもありましたが、今はほとんど問題ない。日本が遅れていると言われていたデジタル化が一気に進みましたね。

玉尾皓平さん(同) 居ながらにして世界中の人とコミュニケーションをとれるようになったのは、非常に良い変化ですね。もうひとつメリットと思うのは、出張などが減った先生が大学の教授室にいられるようになった。学生も教えを受けやすいし、先生も研究の時間が増えたんじゃないかな。時間をどう使うかが問われますね。

デメリットは当然ですけど、直接会う機会が減ったこと。やっぱり研究者が集まって、じかにコミュニケーションをとることは、めちゃくちゃ大事だと思うんですよ。雑談しながら、意気投合し、チームをつくってプロジェクトを始め、新しい分野を切り開いていく。そういう可能性が失われてしまってはいけない。

浅島 時間の使い方で言えば、かえってホンモノをみる時間が少なくなったんじゃないかと気になりますね。時間は増えても、有効に使っているとは限らない。ホンモノに自分の手で触れ、じっくり眺めていると、目の前で起きる様々なことに自分で気づく。そうすると自分の中から新しい発想が出てくるんですよね。つくられた映像だとスッと頭を通り過ぎちゃう。

ずっとパソコンの前でキーボードをたたくような、汗をかかない研究もどうでしょうね。他人のデータをいかに混ぜ合わせて自分のものにするか、そういうことが研究の中心になっていってはいけないですよ。

玉尾 やっぱりハイブリッドで、(アナログとデジタルの)それぞれいいところをとりながら、やっていくのがいいんだろうなあ。

コロナをきっかけに再認識したことで、忘れてはいけないこともあると思うんです。みんな当たり前のように使っているパソコンやスマホといったデバイスがあったからこそ、人類がこのパンデミックに対応できていること。これがなかったら、どうなっていたか。こうしたデジタル機器には、吉野彰さんの発明でノーベル化学賞の授賞理由になったリチウムイオン電池をはじめ、日本人が貢献している技術がたくさん詰まっている。そういう開発者や研究者への敬意は、みんなで共有したいですね。

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異なる国の生徒がリモートで共同研究