
あのゴマのような表面のツブツブの実の中には種子が入っており、スーパーで買ったイチゴでもあのツブツブを採取して土に埋めて水やりすると発芽する。うまくいけばあの赤い花托が実る。もっとも高度な栽培技術を持つ農家の方々のように、甘くておいしいイチゴに育てるのは難しいようだ。
今でこそ、イチゴの修飾語といえば「甘い」「甘くておいしい」であるが、イチゴの糖度が高くなったのはここ30年くらいのこと。
「イチゴ界で絶対的エースは『とちおとめ』です。その後、福岡県が『あまおう』を県のオリジナル品種をブランド化したイチゴとして2005年に打ち出し、成功しました。これがイチゴのブランド戦争が勃発した起因となりました」と西田さん。
栃木県の「とちおとめ」は1996年に品種登録された。それに「追いつけ追い越せ」とばかりに開発した「あまおう」が成功し、それによって他の生産地もそれに追随するようになったということらしい。
中には色が赤ではなく白の「雪うさぎ」「淡雪」、特大サイズの「濃姫」など個性的な新品種も生まれた。見た目はさまざまでも、各産地が同じようにこだわったのは「甘さ」。よりおいしいイチゴを追求するために糖度の高いものへと品種改良が進んでいった。
その過程で見かけなくなったものがある。昭和生まれには懐かしい「イチゴスプーン」だ。イチゴをつぶすためのもので、底の部分が平らになっていて、イチゴのツブツブのような模様が刻まれている。
「1950年ごろに米国から冷凍用品種として『ダナー』種が日本に来ましたが、酸味が強いイチゴでした。1985年ごろになると栃木県の『女峰』と福岡県の『とよのか』の2品種がしばらく君臨していました。2品種とも酸味が少ないイチゴになりましたが、それでもそのまま食べると酸っぱいので、練乳をかけたり、イチゴに牛乳と砂糖をかけて専用スプーンで潰して食べたりしていました。『とちおとめ』が誕生してからは大きくて甘いイチゴとなり、練乳や砂糖がなくてもおいしくいただけるようになりました」(西田さん)
今でもイチゴ狩りに行くと練乳とそれを入れる器を渡される。これはイチゴが酸っぱかったころに練乳や砂糖をかけて食べた時代の名残では、と西田さんは推察する。

冒頭に紹介した「苺サミット2021」では、イチゴの新しい食べ方として「イチゴとブラータチーズのオードブル」の紹介があった。ブラータチーズとは細く割いたモッツァレラチーズを生クリームと混ぜ、さらにモッツァレラの皮で包んだもの。