新川帆立「このミス」大賞 強い女性の大活躍をどうぞ
宝島社の公募小説新人賞「『このミステリーがすごい!』大賞」。東山彰良、海堂尊、柚月裕子、中山七里らベストセラー作家を数多く出してきた同賞に、新たな話題作が誕生した。第19回大賞受賞作、新川帆立の「元彼の遺言状」だ。
主人公の剣持麗子は28歳。大手有名法律事務所に勤める敏腕弁護士。冒頭からプロポーズの指輪を「よくもこんなに小さいダイヤが買えたわね」と突っ返す強烈なキャラクターである。
「クセのある強い女性を描きたかったんです。スカーレット・オハラのような、女性が憧れる女性。ちょっと麗子は極端ですが(笑)。私自身、学生時代も社会に出てからも、女性であることで要らぬ苦労をしたこともあるので、若い女の子に強い女性が大活躍する姿を見せて、勇気づけたい気持ちがありました」
大企業の御曹司だった元彼が「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言状を残して亡くなったことから、物語はリーガルミステリーとして展開していく。麗子のミッションは、依頼者を遺族に「犯人」だと認めさせ、遺産を相続させる(=巨額の成功報酬を受け取る)こと。奇抜な発想には納得の背景がある。新川自身が現役の弁護士なのだ。
「法廷で殺人事件の有罪無罪を争うといった話は、弁護士の仕事の中ではかなり限定的な場面で、実際にはもっといろんな側面があるんです。そして弁護士も1人の人間で、それぞれに悩みやコンプレックスも抱えている。強く見える麗子も同じです。そういう描かれてこなかった弁護士の姿も書いていきたい」
真相解明のキーワードである「ポトラッチ」という用語も「法学の講義で学んだことの1つ」で、「知的好奇心を満たすというか、世の中の見方がちょっと変わるような読書体験をしてもらえたらと、ストーリーに忍ばせました」と語る。
東大法学部卒の弁護士という経歴も話題の新川。16歳の時に夏目漱石の「吾輩は猫である」を読んで感銘を受け、作家になろうと決意するも、実際に書き始めたのは27歳。働きすぎて体調を崩したのがきっかけだった。
「ずっと何も書かなかったのに、作家になった自分の未来を疑うことがなかったのは、楽天家だからでしょうか(笑)。『このミス』大賞のほかにも応募していて、今回初めて一次通過し喜んでいたら、大賞受賞に。自分でも驚いています」
高校では囲碁部に在籍。その時に覚えたマージャンにハマって、プロ雀士として活動した時期もある。
「囲碁は、正しく打ち続けることで勝つゲーム。でもマージャンは、正しく打っても負けることがあるし、いいかげんに打って勝つときもある。その理不尽さ、偶発性が私には面白くて。工夫次第で上級者に勝てる。ある意味小説も同じで、力が足らない新人でも工夫することで、先輩作家とは違う色が出せるんじゃないかと思うんです。かなわない相手に勝ちにいく。それが楽しい」
(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成 文/剣持亜弥)
[日経MJ2021年3月26日付]
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