働き方の選択肢を用意しないと社員に選ばれない

白河 働き方の選択肢をどれだけ準備できるかが、企業の採用力を左右する時代になりそうですね。

井上 選ばれる会社と選ばれない会社と、シビアに二極化が進むでしょう。当社がずっと大切にしてきたのは「内発的動機」を促進する環境づくりです。本人があまりやりたくないことを、「これをやり遂げたら部長にしてやるから」と外発的動機で引き寄せる働きかけでは、長続きはしません。内発的動機が発揮されるために、やりたいことに挑戦できる安心安全な環境を整え、選択の自由を提供する。その結果、「日本一働きたい会社」として表彰されるまでになれたので、今度は我々が蓄積したノウハウを、社会に対して提供していく。それが事業としてワーケーションに取り組んだ理由なんです。

白河 今後も働き方の選択肢を積極的に広げていく計画ですか。

井上 はい。現在14ある拠点を、今年中に25まで増やしたいと計画しています。また、場所に縛られない働き方の実現を目的としたプラットフォーム構想「LivingAnywhere WORK」のビジョンに賛同いただいている企業や自治体は現在140を超えていますが、これも将来的に1000まで増やす目標です。ワーケーションに関する勉強会の機会を提供したり、使っていない保養所をLACとして利用したりする連携をとっていきます。

白河 ワーケーションという新しい働き方を一度でも体験する人が増えると、社会全体の意識も変わっていくでしょうね。内閣府の20年調査でも、テレワークを実際に体験した人のワークライフバランス感覚、キャリア観が変化しているという結果が出ていました。いくら言葉で言われても、体験に勝る意識変革はないのだと思います。テレワークやワーケーションが広がっていくことで、日本の働き方のパラダイムシフトが加速しています。

井上 私は、「15年後には会社はなくなる」という仮説を立てているんです。重厚長大な製造業やインフラ産業を除いて、大半のサービスは個人がそれぞれの能力を持ち寄って請け負う形に変わっていくと思います。その時に、選ばれるコミュニティーになれるかどうかが、今の経営者が考えるべきテーマなのでしょう。コロナを機に、新しい働き方へと突き進むのか、元に戻ろうとするのか。この選択が大きな分かれ目になるだろうと考えています。

白河 企業にとって「オフィス」の価値も揺らいでいます。今日おじゃました御社のオフィスは、すてきなイベントスペースや食堂も併設されていますよね。テレワークやワーケーションの割合が増えていった先に、このオフィスの活用はどう考えていますか。

井上 私のイメージですが、当社のオフィスはゆくゆく「祭り」の会場にしていきたいと思います。日常業務は在宅で十分にできるので、オフィスに集まるときはそれなりの理由が必要です。ハレの日にふさわしい、特別なチームビルディングイベントや祝勝会を企画する、そんな祭りの場にしていきたいですね。

白河 仕事に関する「場」の意味や価値がどんどん進化していきそうですね。貴重なお話をありがとうございました。

あとがき:新型コロナウイルス禍となってすでに1年以上。「緊急事態だから」という今をしのぐだけの働き方から、生産性や成果に直結する働き方への模索が進んでいます。同時にコロナ下のストレスが、仕事やメンタル、会社へのロイヤルティーにも影響するという調査も出ています。だからこそウェルビーイング(主観的幸福)が注目されている。社員を管理するのではなく、社員の選択肢を広げることで「生産性が上がる」ことを客観的にモニタリングしているライフルの試みに今後も注目していきたいです。

白河桃子
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院特任教授。東京生まれ、慶応義塾大学文学部卒業。商社、証券会社勤務などを経て2000年ごろから執筆生活に入る。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。著書に「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)、「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)など。

(文:宮本恵理子、写真:吉村永)