ルノー・ルーテシア 変速は快調、猫足の美点なく残念
今回の目利き 米村太刀夫氏
ルノー「ルーテシア」は初代が1990年に誕生、試乗車は5世代目となる。先代のルーテシアは2019年に欧州でBセグメント乗用車として、最も数多く販売された実績を残した。仏車は質実剛健な独車と比較して「芸術性」に優れ、独特な個性があり楽しいクルマが多い。例えば昔のルノー4は左右のホイールベースの長さが少し異なる。これはサスペンションのクッションストロークを大きく確保して、優れた乗り心地を確保したもの。
試乗車に搭載されるエンジンは最新の排気量1.3リットルの4気筒ターボで131psを引きだしている。昨今このクラスの排気量なら3気筒が常識になっているのにあえて4気筒を選んだのは「走りの上質感」を追求したためだろう。変速機は2枚の湿式クラッチを持つ7速DCTで、これも「スムーズさ」を求めての選択だ。
実際に走行を開始すると、DCTらしくクイックに変速してくれて小気味良いものだ。しかしこのクルマのギアリングは、日本での交通に必ずしもうまく合っているとは言えないと感じた。AT車の歴史が浅い欧州車は、基本にMTがあり、そのギアリングを踏襲している。具体的には加速が終了してアクセルを緩めても、しばらくそのままのギアを保つのが気になった。
仏車は「猫足」と呼ばれるストローク感の大きなサスペンションが醸し出す素晴らしい乗り心地が売りであるが、新型ルーテシアにはその美点は全く感じられないのが残念である。
インテリアデザインや使用されているパーツ類の質感が格段に進歩しており、同じクラスの競合車と比較して優位に立っている。プラットフォームはルノー、日産自動車、三菱自動車のアライアンスが共同で開発したもので、日産では新型ノートに採用されている。新型ノートは「猫足」ではないが、乗り心地に関してはノートの方がソフトで優れている。パリの石畳路を優雅に通り抜ける仏車の存続を願っているのは筆者一人だけではないはずだ。
(自動車評論家)
[日経産業新聞2021年3月25日付]
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