――すごいシステムというか、商売上手ですよね。アプリで「エモい」体験ができる。みなが興奮する。

「ナイキはほんとうに、僕の財布からお金を取っていくんです(笑い)。でもこちらもどうぞ~って。だって楽しいですもん。ビジネス視点で考えてみますと、このエモい体験、カスタマーエクスペリエンスってものすごく重要です。世の中には買える場所も機会もいっぱいあるので、同じお金を使うにしても、お客さまというのは、面白いところにお金を使いたいのだと思うのです。ナイキのアプリがまさにそれ。わくわくしながらアプリを開いて待って、一喜一憂できる買い物体験なんてそうありませんよ」

「最近はメルカリでコンバースのビンテージを出品している人と、よくメッセージでやりとりしています」

――ユニークですね。アプリで感情を揺さぶるような体験ができるというのは。

「メルカリでもここでしかできない体験を追求していこうよ、と言っています。スニーカーおたくである僕の原体験からきているところがありますね」

社内で「スニーカーチャンネル」

――相当な知識をお持ちですが、そうしたスニーカー情報を得るのに常にアプリを見ているのですか。

「実は……常に見ています(笑い)。インスタグラム、フェイスブック、web。SNSはパーソナルな情報を届けてくれるようになって、ほしい情報がどんどん入ってきます。僕が感じるスニーカーの魅力は2つ。1つは同じ趣味を持つ人とのコミュニケーションツールとして最高です。社内に(職場向けチャットツールの)slackを使ったスニーカー部という趣味チャンネルがあって50人くらいが語り合っています。次はこれ発売だぞ。買うか。僕は見送ります。あれはやばいよ。などと熱く盛り上がります。この前はオフ会をやり、お気に入りの1足を自慢し合いました」

――愛してやまない魅力の2つ目は何ですか。

「単純ですけど、ディテールが好き。おたく的に語り合えるところ。このカモフラージュ柄は何年のオリジナルだ、靴ひもは、ソールは、といった、細かい知識を積み上げていく楽しさがあります。10代に秋田で過ごし、情報が入ってこないことに悶々(もんもん)としていたころの反動だと思います。深いところまで知っていくと、より深い人と話せます。これ全部グレーのスニーカーじゃないか、と言われても、僕らは『このディテールが違うんだ』とこだわる。細かいところのデザインに作り手の意図が見えてくる。味わい深いです。あと、スニーカーフェチは嗅ぐんです」

「マイケル・ジョーダンのサイン入りは結構あります。次元が違うのが選手が『履いた』もの。途方もない金額になるのです」

――嗅ぐ、とは?

「あ、これ、ナイキの匂い、ですとか。工場の匂いもありますよ。これはUSのコンバース、これはUSのナイキですね、とか。日本製を嗅ぎ分けることができる人がいる」

――なんと……。これまでに手に入れたコレクション数はどのくらいになりましたか。

「この世界、スニーカーの山で寝ているフェチの人もいるくらいですが、僕は3年ほど前から1つ買ったら1つ手放すのがポリシー。だから、40足くらいと軽い軽い。以前はスニーカーが大好きって言いにくかったのですが、おたくのような発言が受け入れられる空気になってきたのはうれしいことです。僕はスニーカーという共通の趣味を通じてさまざまな人とつながることができています。メルカリも人と人をモノを介してつなげるサービスなので、エモい体験をたくさんしてもらえればいいなと思っています。ところで、スニーカーの話ばっかりで大丈夫ですか? 止まらなくなりますから、止めて下さいね」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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