カタカナ言葉の短縮形に抵抗があります
著述家、湯山玲子さん
サブスク、スクショなどカタカナ言葉を短縮形で使うのに抵抗があります。友人が「スクショ、送るね」などと使うと軽蔑してしまいます。一方、自分は偏屈になるのではないかと心配もしています。(東京都・50代・女性)
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日本語の乱れ、を問題視する人々は少なからず存在します。彼氏のシの発音を上げる言い回しや、妙にへりくだったコンビニ敬語がいちいちカンに障る人も多い。しかしですね、「日本語における正しさ」の基準、起源がどこに存在するかというと、確固たる決まりがないのですよ。
存在するのは、「変化した言葉に不快感を感じる人の度合い」という何とも、曖昧な基準のみ。なので、スクショなどの外来語の短縮は、既にそれが周囲で普通に使用されていて溶け込んでいるならば、もうオッケーということになります。
しかし、なぜ相談者氏は、スクショのような新規外来語の短縮に不快感を感じるのか? 考えられるのは、それを発する人のマウンティング欲をかぎ取るからでしょうね。
つまり、「ワタシはスマホを自由自在に使いこなして、スクリーンショットなんて朝飯前なのさ!」という心根にカチンと来ている。相談者氏は自分がスクショといった瞬間に、「浅はかな優越野郎」と思われないかと躊躇(ちゅうちょ)しているのではないでしょうか。
そういえば、近ごろ話題の音声SNS(交流サイト)、Clubhouseも、話題になるとすぐに「クラハ」という短縮語が出現しました。「クラハで徹夜しちゃったよ~」というヤカラに、私も最初イラッとしましたが、一般的になった今、クラハで問題なし、と変化している。
思えば、かつて私もシャンパンを「泡」という人間は信用しない、と心に決めていましたが、スーパーで普通にスパークリングワインが買える時代ならもうオッケー。世間一般よりも早く、ある事物を優越的に使いこなしている特権は、その仲間たちだけが使う言葉を作り上げますが、瞬く間に一般に浸透してフラットになります。スターバックスも今やスタバです。
ポイントは、短縮言語は「新しいことや変化に好奇心があって対応しているよ」という意思表示でもある点。そして、今後の世の中は、どんどん新しい事物や考え方が入ってくると予想されるので、年齢とともに頑固になりがちな中高年は、眉をしかめるよりも積極的に使うべし。
前述したように、日本語の乱れは嘆き、怒るよりも、変化に対応して、新しい事柄を身体化していく柔軟性であると考えた方がいいのです。
[NIKKEIプラス1 2021年3月27日付]
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