いきものがかり吉岡聖恵 レコーディングは白Tシャツ
ポップなサウンドに乗せて、何気ない日常に寄り添う温かな言葉を歌い、世代を問わずに愛される3人組、いきものがかり。ボーカル・吉岡聖恵さんの人柄を映す朗らかな歌声に励まされる人も多い。17~18年にかけて「放牧宣言」と銘打ったグループ活動の休止中に、ソロアルバム『うたいろ』(2018年10月)を発表した吉岡さん。その制作過程で、白いTシャツを着てレコーディングするのがルーティンになったという。いきものがかりの最新アルバム『WHO?』でも活躍した白Tシャツに秘められた、歌への深い思いとは。
よく行くお店で一目ぼれ
「『うたいろ』は、世代やジャンルを超えた名曲をカバーしたアルバムで、オリジナル曲を聴いたときに、それぞれの色彩がとても鮮やかだなと感じました。たとえば、堺正章さんが歌った『さらば恋人』は、青や水色のイメージ。ブギの女王と呼ばれた笠置シヅ子さんの『ヘイヘイブギー』は、黄色っぽいなとか。
レコーディングのとき、頭に浮かんだ色とは違う色の服を着て歌おうとしたら、なんだか居心地が悪くて。デビュー当時、ディレクターさんから『フリフリの服を着ると、歌声までそうなる』と指摘されたように、私は着るもので歌の感情が左右されるところがあるみたいなんです。
特に『うたいろ』は歌から感じ取る色彩が強かったので、『フラットな服を着て歌いたい』という気持ちも増したのかも。レコーディングで意識的に白地のTシャツを着たら、どの曲に対しても真っ白な気持ちで挑めるようになる気がしました。逆に、白だからこそ何色にでも染められるという感覚もありましたね。それが心地よくて、いまもその習慣を続けています。
いきものがかりの新作『WHO?』も、今日持ってきた白いTシャツを含め、3種類くらいを着まわしてレコーディングしました。
普段は『今日歌う曲には、このTシャツがいいな』と、家のクローゼットから選ぶのですが、この白Tシャツは特別。『ええじゃないか』(映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』主題歌)を歌うため、新たに購入したものです。この曲をひいきしているわけではないのですが、歌詞に『歌舞(かぶ)いちゃえよ』や『SORORI ZORORI』という表現があり、人数が多い雰囲気や熱い感じがするパワフルな曲。だから、ちょっとエッジの利いた服で歌いたいなと思っていました」
「ある日、よく行くお店でこのTシャツを見たとき、これで『ええじゃないか』を歌いたいとひと目惚れしました。真っ白だけどデザイン性が高く、個性もあるTシャツは、真っ白な気持ちで歌いたいけど、個性を出したいという私の歌への気持ちとぴったり重なりました。
ただ、このTシャツは高価なこともあり、購入するときは『えいっ!』と、気合を入れる必要がありましたね。ためらいもあったけど、Tシャツを見た瞬間、歌のイメージが湧いてしまった。レコーディングで気持ちを高めてくれるに違いないと思い、腹を決めて購入しました。おっちょこちょいなので、ケチャップのシミとかをつけないよう大切に着たいです」
白Tシャツは仕事着であり相棒
「ほかにレコーディングでは、ちょっとピンクのロゴが描かれている白Tシャツも着ました。そのTシャツは、わりと柔らかい気持ちで歌うときに着ると、温かい声が出せる気がするので『生きる』などを歌うときに着たと思います。
もう1つは、赤い文字で110%と書かれている元気いっぱいのTシャツ。古着で買ったものですが、これで歌うと身が引き締まります。メンバーから、性格が前のめりだと言われるので、そんな私がわざわざ着なくても……と思うのですが。これを着て歌っていると、『よく(性格を)表してるね』と言われます」
「私服でも、白いTシャツは好んで着るほうですが、最近は歌目線で選ぶようになりました。少し変なたとえかもしれませんが、消防士さんには消防服。陶芸家の方などが着る作務衣など、それぞれの仕事や作業にふさわしい服ってあると思うんです。私にとっては、白いTシャツがそれ。真っ白な状態で歌を入れるために着る仕事着であり、相棒です。なので、制作でもミックスやマスタリングでは全然白いTシャツにこだわらないんですよ。
今回の『WHO?』は、新型コロナウイルス禍の中で制作した作品です。20年は心待ちにしていた全国ツアーが中止になり、残念で仕方なかったし、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
私たちがそうであったように、コロナによって生活環境が激変したり、なかには苦しい状況に立たされている方もいるかもしれない……。そんななかで、『自分はどう考えるんだろう?』『自分にとって幸せとは何だろう?』『自分は何者なのか?』、そういったことを突き付けられる瞬間はたくさんあるかなと。
だから、アルバムタイトルの『WHO?』は、いますべての人が考えている時代とつながっている。リーダーの水野良樹が『WHO?』を提案してくれたとき、すごく共感できるなって思いました」
ストレートな思いを表現したアルバム
「ポップミュージックは、自ずと時代を映し出すものだから、作り手も作りながら闘っている部分はあると思うんです。曲作りの中心になっている、男子メンバー2人は特にそうだろうなって。ジャケットのデザインはかわいいですが、ピュアな気持ち、ストレートな思いを表現した、ストイックさもあるアルバムになった気がします。
特に印象に残ったのは『きらきらにひかる』の2番の歌詞です。『あやまちだって人間の輝きで』という部分を読んだとき、『ここまで言ってくれるんだ』と、なんだか感動しちゃいました。こういうポップスが、ただ切ない、苦しい、相手を許したい……、だけじゃなく、過ちだって人間の輝きだと言ってくれる。その言葉に、私も救われる思いがしました。
聴いてくださる人も、『曲ではああ歌っているけど、自分はこう思う』とか『私もそう思ってた』とか、何かを感じてもらえたらうれしいです。いまは、ただでさえ自分ってどういう人間かを迷ったり、傷ついたりする。そういう時代の中で、刺さる曲たちが並んだアルバムができたと思いますし、このタイミングでこのアルバムを創り上げられたことは本当に良かったなと思っています」
「いま、気になるモノですか? 星のモチーフが好きなので、いろいろと集めています。レコーディングで使うイヤーカフも星形です。スポッと入って収まりも良く、気に入っています。
そうそう。最近買ったイヤリングも、星の形でした。ただ、チャームがたこ焼きくらいに大きいので、私の顔じゃなくイヤリングばかりが目立つんじゃないかってくらい存在感があります。普通に耳たぶにつけると首のあたりに星の先が刺さって痛いので(笑)、耳のいちばん外側につけるなど工夫しながら楽しんでいます」
1984年2月29日生まれ、神奈川県出身。水野良樹と山下穂尊に誘われ、いきものがかりのボーカルとなり、06年にメジャーデビュー。20年5月にYouTubeチャンネル『吉岡聖恵の毎日がどうよう日~家族で歌おう!~』始動。21年4月16日にフォトエッセイ『KIYOEnOTE-キヨエノオト-』を発売する。
『WHO?』
前作『WE DO』から約1年3か月ぶりとなるアルバム。ネットで話題となった『100日後に死ぬワニ』テーマソング『生きる』や、ドラマ主題歌『きらきらにひかる』ほか、吉岡さんが作詞作曲を手がけた『チキンソング』(「ABC-MART」CMソング)など全9曲中6曲にタイアップがつく。
(文 橘川有子、写真 藤本和史)
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