日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/4/12

このモデルではいくつかの仮説を立てている。火星にはもともとどれくらい水が存在したのか。水を含む小惑星や氷を含む彗星(すいせい)によってどれくらいの水が運ばれてきたのか。時間とともにどれだけの水が宇宙空間に流出したのか。火山活動によってどれだけの水が地表にもたらされたのか。これらの変数の値によって異なるものの、火星にはかつて惑星全体を深さ約100~1500メートルで覆うほどの水が地表に存在した可能性が高いことも示された。

41億年前から37億年前にかけて、地表水の量は大幅に減少した。地殻の鉱物に取り込まれたものもあれば、宇宙空間に流出したものもある。シェラー氏によれば、これまでに発見された水和鉱物は30億年以上前のものばかりだという。

米メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者ジェロニモ・ビラヌエバ氏は、この研究は重要な一歩であり、「火星の水の歴史に関する多くの調査に間違いなく役立てられるだろう」と評価する。なお、同氏は今回の研究には参加していない。

まず、重水素の測定によって導き出された水の量と、火星の地表にいくつも残された水の痕跡との矛盾を解決するのに役立つ。米ライス大学の惑星科学者カーステン・シーバック氏は、これまでは、どうすればこれほど少ない水から多くの川や湖ができたのか不明だったが、新しいモデルはこうした謎に対する答えを提示していると述べる。同氏も今回の研究には参加していない。

ほかの惑星や衛星でも?

ただし、今回の研究は現在の火星で利用可能と考えられている水の量を覆すものではなく、現時点で水がそれほど多くないことに変わりはない。

「この研究が述べているのは、火星の初期により多くの水が利用できたということです。火星が最も居住に適していたのはそのころでした」とシーバック氏は話す。微生物が存在していたとしたら、あらゆる水域に分布していた可能性はあるが、30億年前、大部分の水が消えた時点で生き延びるのに苦労したはずだ。

大量の水が地殻内に消えてしまうという発想は、ほかの岩石の世界にも関係することだとバーンズ氏は指摘する。

地球でも水は鉱物と結合している。ただし、地球ではプレートテクトニクスによって鉱物が循環し、火山の噴火によって絶えず水が解き放たれているとシーバック氏は説明する。一方、火星の地殻は停滞しているため、結果として、火星が極寒の砂漠になったのかもしれない。金星も同じようなプロセスを経て世界が変わったのだろうか? 遠く離れた太陽系外惑星の地殻にも水が閉じ込められているのだろうか?

米バージニア工科大学の惑星科学者スコット・キング氏は今回の研究には参加していないが、このモデルは、火星をはじめとする岩石の惑星が時代とともにどう変化するかについて、より豊かな理解に向けての道を開いたと述べている。

「これから問うべき新たな質問、考えるべき新たな疑問がいくつも生まれました」

(文 ROBIN GEORGE ANDREWS、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年3月19日付]

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