日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/3/27

今回発見された20数片の羊皮紙の断片は「十二小預言書」の一部だ。その最初の断片は、ナハル・ヘベルで地元のベドウィン(遊牧民)によって発見され、1950年代初頭にエルサレムで売りに出された。さらなる断片を発見するため、1960年代初頭に「恐怖の洞窟」で考古学調査が行われた。元の文書は紀元前1世紀後半に作成されたと考えられている。

新しい断片も他と同じく2人の書記によってギリシャ語で書かれていると、IAAの死海文書部門のオレン・エイブルマン研究員は説明する。羊皮紙の質感も、過去に見つかった十二小預言書と似ているか、同じであるという。

十二小預言書は、ユダヤ教の聖書およびキリスト教の旧約聖書に含まれ、12の預言書からなる。これまでに研究者は、新たに発掘された断片から11行ほどを解読した。その中には、アッシリアの首都ニネベの滅亡を予言した紀元前7世紀の預言者ナホムの書や、バビロン捕囚後にエルサレム神殿の再建を予言した紀元前6世紀の預言者ゼカリヤの書が含まれている。

今回見つかった断片は小預言書の最古のバージョンに比べると何世紀も新しいものだが、それでも「魅力的で重要」だと、北西セム諸語とその文学を専門とする米ジョージ・ワシントン大学のクリストファー・ロールストン准教授は考えている。

「恐怖の洞窟」の入り口で、堆積物をふるいにかけて小さな遺物を探す考古学者たち(PHOTOGRAPH BY EITAN KLEIN, ISRAEL ANTIQUITIES AUTHORITY)

「ヘブライ語、アラム語、ギリシャ語で書かれた聖書のテキストの断片が発見されるたびに、古代の書記、写本をした人や、聖書のテキストの伝統に新しい光が当たります」と氏は言う。

今回の文書の断片についてロールストン氏が特に重要だと考えているのは、ユダヤ教聖書の一節がギリシャ語で書かれている一方で、神の名前に関する部分は古ヘブライ語で書かれていることだ。神の名を口に出してはならないと注意を促しているのだ。

ユダヤ教聖書の出エジプト記20章7節には、第3の戒律として、神の名をみだりに唱えてはならないと書かれている。「むやみに神の名を口にしなければそれでいいのですが、第2神殿時代(紀元前597~後70年)になると、この戒律を破らないようにするためには、神の名を一切口にしないのがいちばんだと考えるようになったのです」とロールストン氏は説明する。

神の名を口にさせないようにするために、古代の書記がギリシャ語のユダヤ教聖書に古ヘブライ語を混ぜた例はこれが初めてではないが、新たな物的証拠が出てくるたびに、この禁制の古さが確固たるものになる。ロールストン氏は、「死海文書の中で神の名が異なる扱いをされている点は、非常に重要な証拠なのです」と話す。

約6000年前に「恐怖の洞窟」に埋葬された子どもの遺骨も、現在進行中のプロジェクトで発見されている(PHOTOGRAPH BY EMIL ALADJEM, ISRAEL ANTIQUITIES AUTHORITY)

「恐怖の洞窟」では、死海文書のほかにも、バル・コクバの乱の時代の貨幣や、当時のサンダル、シラミ取り用のくし、矢じりなどが発見されている。

なかでも考古学者たちを驚かせたのは、洞窟の壁際の浅い穴に、さらに古い時代の幼児の遺体が埋められていたことだった。一部がミイラ化したこの遺体は横向きに寝かされ、布で丁寧に包まれていた。放射性炭素年代測定の結果、この子どもは約6000年前に死亡したことが判明した。

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空の籠、大きな謎
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