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聖地バチカン イースターに食べるイタリア料理と菓子

イタリア美味の裏側(2)

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NIKKEI STYLE

カラフルに色づけした卵や、卵形チョコレートを飾るイースター(復活祭)。キリスト教の移動祝日で、今年は4月4日に当たる。イースターがいま一つ日本で盛り上がらないのはなぜだろう。キリストが没後3日目に復活したことを祝うこの祝日が、あまりに日本から遠い話だからだろうか。だが、イタリア料理や菓子からイースターを見てみると、ぐっと身近に感じられる。

イタリアは、人口の8割がキリスト教カトリック信者。なかでも、ローマ市内には、カトリックの総本山があるバチカン市国が位置する。だからイタリアは、復活祭をはじめ、カトリックの行事食としての料理や菓子が多い。

復活祭の前にまず、カトリックにはその準備期間がある。「四旬節(しじゅんせつ)」だ。キリストが40日間、荒れ野で断食をしたその苦しみをともにする期間である。今年の四旬節の前にも、カトリック教会のトップであるローマ教皇フランシスコが、信仰の表現の一つとして、四旬節の「断食」を呼びかけた。

「断食」といっても絶食するわけではない。肉を口にしない「肉断ち」が毎週金曜プラス1日、しっかりした1食だけで残りは軽くする日が2日。子供やお年寄りは、年齢によって従わなくてもよい。このように規定されたのは、1960年代後半からで、それまで敬虔(けいけん)な信者は肉と合わせて卵も乳製品も口にしなかった。

この「断食」の四旬節に、ローマ市民は何を食べてきたのだろう。日本イタリア料理協会の初代会長で、東京・世田谷の「ホスタリア・エル・カンピドイオ」の吉川敏明オーナーシェフは話す。「私が料理を学んだ1960年代後半のローマでは、四旬節に白インゲン豆とツナのサラダや、バッカラ(塩漬け干しタラ)のトマトソース煮を食べていました。そのころはスーパーもなく、魚屋も少なかったので、乾物や保存食品が使われたのです」。宗教心が薄れ、食生活が豊かになった今、バッカラを食べる習慣はすたれつつある。

菓子でいえば、今年、イタリア食材専門店「イータリー」原宿店や、輸入食品店「カルディコーヒーファーム」が売り出した「マリトッツォ」。生クリームをたっぷりはさんだ菓子パンだが、もともとは四旬節にローマで食された甘いパンだった。オレンジピールやレモンピール、松の実、レーズンを入れ、バターでなくオリーブオイルを使った素朴なパンである。

本来、四旬節は食の節制をすべき時期で、北イタリアの菓子で使われる脂肪分たっぷりの生クリームとは相いれない。吉川シェフによると、生クリームをはさんだマリトッツォは、1960年代にはまだなかった。

さらに、この四旬節の前の数日間が、「カーニバル(謝肉祭)」。「謝肉」という言葉から、「断食」に入る前にありがたがって肉に食らいつくようなイメージがある。イタリア語では「カルネヴァーレ」といい、カルネ=肉、レヴァーレ=抜く、つまり、「肉断ち」期間が始まることをもともと意味する。

イタリアのカーニバルというと、ヴェネツィアの仮面をつけた男女による酒池肉林のシーンをつい想像するかもしれないが、「もうすぐ肉断ちの期間が来るので、肉をがっつり食べておきましょう」などとは、教皇はいまも昔も呼び掛けたことはない。謝肉祭は、もはやカトリックの宗教行事ではなく、俗世の祭りや慣習になっている。冬から春へ移る大地の豊かさを祝う、古代ローマ時代の儀式が始まりともいわれる。

吉川シェフによると、1960年代の謝肉祭にはホテルやリストランテで、まさに「肉のミックス・ロースト」がよく食べられていた。が、現在は、年に一度も教会へ行かない国民が約3割にも増えたイタリアなので、「断食」を厳しく守る者も、肉を食べ納めする者も少なくなった。むしろ謝肉祭というと、この時期しかない菓子を食べる人のほうが多い。

イタリアのミシュラン星付き料理店2店で働き、東京・新富町にイタリア菓子専門店「Litus(リートゥス)」を開いたオーナーパティシエールの塩月紗織さんによると、「謝肉祭の時期には、イタリア全土で揚げ菓子がたくさん出てきます。地方によって呼び名が違いますが、ローマではフラッペやカスタニョーレがよく食べられます」。

このように、謝肉祭、四旬節をへて、ようやく復活祭を迎える。ローマではカルチョーフィ(アーティチョーク)が旬となり、ニンニクとハーブを芯に詰めて煮た「ローマ風カルチョーフィ」を食べる習慣が昔からあった。

春に生まれる子羊も、命の復活を祝う喜びにつながる。卵黄とレモン汁で風味づけした「子羊のブロデッタート(煮こみ)」など、子羊料理をローマっ子たちは食べてきた。

では、本家本元のカトリックの総本山、バチカンでは復活祭に何を食べるのだろうか。それを明かした本が、『ザ・ヴァチカン・クックブック』(英語版、2014年刊)。書いたのは、バチカンの門の前に立ち、教皇らを警護するスイス衛兵である。およそ500年の歴史ある職だ。

この本によると、復活祭の料理は、「ウサギ肉のアーモンドソース」。ウサギは卵や羊と同じく、命の復活を祝う多産のシンボルとして食される。シナモンとオールスパイス(ジャマイカペッパー)をすりこんだウサギのヒレ肉を焼き、炒めたタマネギと砕いたアーモンドに鶏のブイヨン、生クリーム、レモンオイル、タイムを加えたソースでいただく。

イタリア料理に詳しい方なら、この料理に疑問をもつにちがいない。アーモンドは主にシチリアでとれる食材だし、かといって、シチリア料理で生クリームが使われることはまれだ。オールスパイスもイタリア料理ではまず使わない。

そう、グローバリゼーションが始まるはるか前から、バチカンには教皇をはじめ、いろいろな国籍の人が集まり、食文化がミックスされた新料理が生まれていたのだ。復活祭をきっかけに、キリスト教の行事食に目を向けてみると、さまざまなことが見えてきておもしろい。

(イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子)

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』『スローフード・バイブル』

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