「事件が起きるのは、スタッフが仕事について考えて行動しているから」

星野リゾートは長野県軽井沢町からスタートした旅館・ホテルの運営会社です。家業の一軒宿の経営改革に、星野佳路(よしはる)代表が乗り出してから約30年。2021年1月時点で国内外46カ所で旅館やホテルなどを手がけるまでに成長しており、国内の有力な旅館・ホテルチェーンの一角に数えられるようになってきました。コロナ禍においては宿泊業の経営環境が厳しさを増していますが、いち早く対応するサービスを独自に立ち上げ、知名度がさらに高まっています。

星野リゾートの星野佳路代表(写真=栗原克己)

星野代表は米国の大学院でホテル経営学を学び、ビジネス理論を重視する経営スタイルになりました。米経営学者、ケン・ブランチャード氏のエンパワーメント理論に基づき、(1)会社情報を全社員と共有(2)階層組織の思考をやめる(3)失敗を学習の機会と考える──といったステップを忠実に実践。役職や年齢にかかわらず、自由で対等に意見交換する「フラットな組織文化」を導入すると、スタッフが考えながら仕事をする形を採用しています。

意見を言いやすく経営に参画できる環境づくりを進める星野代表はスタッフに対し、「言いたいことを、言いたいときに、言いたい人に、言う文化をつくる」と宣言。正しい議論ができるようにするために情報の共有化を進め、それまで経営陣しか知らなかった経営データをスタッフに開示しています。フラットな組織文化が定着した結果、星野リゾートの会議では、役職や年齢に関係なく自分の意見を自由に話すスタッフが目立ちます。メールやチャットを使った議論も活発です。スタッフは自分で考えて動くため、そのときに自分たちのチームが必要だと判断したサービスを顧客に提供できることになっています。

星野代表は「事件が起きるのは、スタッフが仕事について考えて行動しているから。そこには現場をよくするヒントが多数含まれる」と話します。想定外の出来事を前向きにとらえ、スタッフの活発な議論を歓迎する組織文化があります。事件はリスクや問題としてとらえるのではなく、チームが成長するためのプロセスであり、解決していくことでスタッフの自信になります。

では、冒頭の「寒風の絶景温泉」はどうなったのでしょうか。ヒントになったのは、創業地の軽井沢で運営する日帰りの温泉施設「トンボの湯」です。ある日の会議で星野代表は「そういえば、トンボの湯は温泉から洗い場に出たとき、冬でもとても暖かい。洗い場が室内だからだとしても、なぜあれほど暖かいのか」と問いかけました。かつてトンボの湯を担当したことがあり、思い当たることがあった池上総支配人が「温泉の湯気があるからだと思う」と答えると、星野代表は「それならば、界箱根の大浴場も湯気が生かせるように、温泉をうまく半分に仕切ったらどうか」と提案します。

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