寒風の絶景温泉をのれん1枚で… 星野リゾートの舞台裏
『星野リゾートの事件簿2』より
界箱根の大浴場からの眺めはまるで1枚の絵のように美しいが、冬場は寒く顧客満足度に影響が出ていた
星野リゾートが全国で展開する旅館・ホテル運営の舞台裏を大公開する新刊『星野リゾートの事件簿2』(日経BP)では、2010~20年にかけて起きた11の事件をテーマにしながら、スタッフが課題解決に向けて何を考え、動いたのかを詳細に記しています。ここでは、界箱根で起きたエピソードを紹介しましょう。
◇ ◇ ◇
「さ、寒い。寒すぎる……」
星野リゾートの温泉旅館、界箱根の池上真敬総支配人はかつて赴任早々、宿泊者からのこんな声を何度も聞きました。池上総支配人が赴任したのは12月のことであり、クレームはいずれも大浴場を利用した人からの声でした。なかには「親を連れて来ようと思ったが、これでは無理だ」「寒くて体調を壊してしまう」という人もいました。このため、「すぐに手を打たなければならない」と危機感を持ちました。
界箱根の大浴場は半露天式となっています。湯船や洗い場は建物内にありますが、川に面した方向がオープンという構造です。川側には壁やガラス戸などがないため、1年を通じて温泉につかりながら外の自然を楽しむことができます。その眺めはまるで1枚の絵のように美しく、界箱根を代表する「風景」として人気があります。
改修工事によって大浴場のつくりを見直せば、冬の寒さ自体は防げるようになります。星野リゾートでも当初はその予定でしたが、一方で工事を行えば、その風景を損なうことになります。そうなればたとえ冬の顧客満足度が上がったとしても、春から秋の顧客満足度は逆に下がりかねません。では、どんな手を打つべきか。池上総支配人とスタッフはじっくり考え始めました……。
サービス業は宿泊客からのクレームもあれば、要望に対して敏速に対応すべく解決策を練ることもあります。社内でさまざまな行き違いが起きることもあれば、計画した通りにいかないこともたくさんありました。こうした「事件」に対して、どう臨み、どう解決すべきでしょうか。