性別や利用シーン問わない新業態 働き手にも多様性

別の「自己破壊」と呼べそうなのは、姉妹ブランドにあたるカット&スタイリング専門店の「FaSS(ファス)」だろう(3月時点で13店舗)。「約20分、2200円(カットとスタイリングの通常価格)」という、時間と料金の面で従来の「ほぼ2倍」に設定した。名前には「Fast Salon for Slow Life」という意味が込められている。予約不要でシャンプー抜きという「QBハウス」の手軽さを保ちつつ、髪型を整えるスタイリングも提供。写真や雑誌の切り抜きを持ち込んでの相談にも応じている。「QBハウスの認知が広がったことに伴い、QBハウスの枠に収まらない多様なニーズも生まれた。そうした要望を受け止めたい」(入山氏)という。

性別を問わない20~40代を主なターゲットに据えている。これまでの「QBハウス」よりも「女性客の利用率が高く、半分以上が女性客」という。内装を手がけたのは、家具で有名なIDEE(イデー)。「やさしい家」をテーマに、温もりを感じやすい空間に整えた。パーマや色染めを頼む美容室と使い分ける形で「伸びた分の前髪だけカットしてほしい」といった新たな利用パターンも登場。「ファス」では前髪だけのカットを770円でメニュー化している。「メインの美容室に通うスパンを長くして、その合間に伸びた分を『ファス』で切ってもらう女性が増えている」(入山氏)。

キュービーネットホールディングスの入山裕左専務は「国内でもまだ成長余地が大きい」と期待する

18年3月に東京証券取引所第1部へ株式を上場した。上場には一般的に資金調達や認知度アップなどの効果が見込まれるが、キュービーネットホールディングスの場合は「働く人やその家族からの信頼感を高めるうえで、効果が大きかった」と、入山氏は振り返る。働き手に安心感を持ってもらえたことは、その後の人材確保につながったという。

人材を大切にするのは、「技術と人材の掛け算がよそのまねできない強み」と考えるからだ。実際、17年にポーター賞を受賞した際の理由には「模倣にさらされたが、スタイリストの自社育成をはじめとする活動の内部化と改善によって模倣困難性を高め、競争優位を維持」と、働き手を起点とする模倣困難性が主な理由に挙げられている。

同社のスタイリストには定年がない。長年、技術を蓄えたシニアがはさみを握るのは、「職場の多様性を広げるのに加え、店舗内での技術伝承にも効果的」と、入山氏はみる。カムバック組の多さも同社の特徴だ。子育てや転職などの理由でいったんは理美容業界を離れた人たちが短時間勤務を選んだり再トレーニングを受けたりして、せっかくの資格を生かしてくれるのは「理美容業界での働きがい支援という意味でも意義が大きい」(入山氏)。

感染症対策の意味合いから、短時間でのカットを望む人が増える傾向にあるという

身だしなみを整えることは生活に張りをもたらす効果もあるとされる。「QBハウス」は介護施設や病院への訪問理美容サービスもスタート。「これまでは交通至便の場所に店舗を構える『待ち』のビジネスを手がけてきたが、求められる場所へ出向くサービスは今後、重要度を増す」と、入山氏はみる。新型コロナウイルス禍の影響で、待ち合いスペースでの着席や長時間の理美容サービスに抵抗感を覚える人が増えている。「重症化リスクの高い高齢者の場合、短時間サービスの合理性は感染リスク軽減の意味からも価値が大きくなっている」という。

第1号店を構えてから25年の節目を前に、20年12月にリブランディングを打ち出した。新たに掲げたメッセージは「LESS IS MORE」。余計なものを持たないミニマルな暮らし方を選ぶ人が増える中、エッセンシャルなサービスに絞り込む「QBハウス」の提案は魅力的に響く。理美容の素人だった創業者の先見は、後継者や顧客に磨かれて、新サービスにも脈々と受け継がれているようだ。

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