徹底したDX活用で、サービスを磨き上げ

あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しているが、「QBハウス」は理美容業界で先陣を切る存在だ。ヘアカットで悩ましいのは、担当者の違いによって、仕上がりにずれが生じやすいところ。希望の仕上がりとの違和感が生まれることもある。キュービーネットはグループの各業態に「電子カットカルテ」を採用。利用者がいつものヘアスタイルを登録しておけば、要望をスムーズに伝えやすいしくみだ。新しい髪型を頼む際も複数の参考パターンから具体的に注文できる。

シンプルに見える店舗の裏側ではDX技術が駆使されている

働く環境づくりにもDXを活用している。たとえば、「QBハウス」ではタイムカードに手首の静脈認証を採用済み。出退勤を1分単位で管理している。残業手当の計算にも1分単位の管理が用いられているので、「子育て中の理美容師が細切れの空き時間を使って働きやすい職場が生まれた」(入山氏)。フェアな勤怠管理は職場の風通しもよくする。「カットに集中しやすい仕組みは結果的にサービスの向上にもつながった」という。

シンプルなしつらえの店内で利用者が目にする機器は券売機ぐらいだが、実際には券売機の裏側で様々な店舗管理システムが動いている。たとえば、看板に掲げている「10分」という目安についても、きっちりカウントされ、スタイリストの指導に生かされる仕組みだ。待ち時間も集計されていて、人員の効率的な配置に役立てられる。「おおむね10分」という約束を守るために、データサイエンティストも動員して、望ましい勤務シフトを練るという念の入れようだ。

年間1562万人(2020年)という来店客数は立派なビッグデータだ。丁寧に読み解けば、「さらにサービスやシステムを改善する手がかりが手に入る」(入山氏)。本社では各店舗の立地条件に来店客の傾向、当日の気候データなどを交差させ、望ましい店舗運営法を練り上げていく。たとえば、オフィス街と住宅街では、利用者の属性が異なる。期待されるスキルにも微妙な違いがあるので、最適にスタッフを配置して、「顧客満足度を一段と高める配慮が重要」という。こうしたスキルと客層とのマッチングを考えるうえでも、ビッグデータ解析は役に立つ。

こうした様々な知見を持ち寄って、店舗にフィードバックするのは、社内スクールの「ロジスカット」。熟練の指導者が6カ月の集中カリキュラムで、初心者にもスキルを伝授。実店舗ではレジ打ちやマッサージなどの業務が省かれているおかげで、「一般的な理美容店に比べて、数倍のペースでカット業務に取り組めるから、技術の伸びが早い」(入山氏)。

ロジスカットを卒業したら、自らの基本給を引き上げるテストを受験できる「チャレンジ制度」が用意されている。所属先の上長が腕前を評価するのではなく、試験を受けて、能力を証明できる仕組みだ。入山氏が「最大の財産」と呼ぶスタイリストの技能は海外への展開でも成功を下支えした。筋の通ったカット理論や練り上げられたサービスマインドは、日本のような国家資格制度を持たない各地でゼロから人材を育てる際のよりどころになった。

アジア圏では日本流の上質なサービスが評価されているという(写真は台湾の店舗)

 キュービーネットは早くから海外に積極進出してきた。02年のシンガポールを皮切りに、05年に香港、12年に台湾、そして17年には初の欧米進出となる米国・ニューヨークで店を構えた。20年時点ではシンガポールに36店舗、香港に64、台湾に29、米国に4と、合計133店舗にまで広がっている。「地域ごとに気候も好みも異なるので、日本以上に多様な対応が求められる。それらの経験は日本でのノウハウ蓄積にも生かされている」と、入山氏は幅広い顧客との出会いが新たな知見をもたらしたとみる。

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性別や利用シーン問わない新業態 働き手にも多様性
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